第25話 ライク・ライカ!

 あれから数日、私は浮かれに浮かれていたと思う。

 マユさんがライカさんだったことは、私にとってあまりにも衝撃的な事実だった。

 そもそもマユさんのことは憧れていたし、好意的な感情も持っていた。

 その上でライカさんだというのだから、もうすでに「好き」だとはっきり自覚できていた。

 ただそれが恋愛的な意味の「好き」なのか、それとも友達として「好き」なのか、私はまだ判断をつけられないでいた。


 ちなみにマユさんからは「マユ=ライカ」であることを何度も口止めされていたが、心配しなくても他の誰かに話す訳がない。

 私だけが知っているという優越感……その“特別な存在”にのみ許された役得を、私は独り占めしていたいのだ。


「何よ、アンタ。ずっと、ご機嫌じゃん」


 隣の席に座るマユさんが首を傾げながら、東京駅で買っていたカップコーヒーに口をつける。


「まぁ取材とはいえ、京都だからね。嬉しいのはわかるけど」


 そうなのだ。

 今、私とマユさんは新幹線に乗り、出張先の京都に向かっていた。

 カメラマンの皆様は機材があるため車で向かっているようで、実質二人きりである。

 宿も同じ部屋だし、今から色々と意識してしまうのは仕方のないことだと思う。

 でも、なのだ。


「ちゃんと、仕事は仕事として分けること。緊張感なくさないように」


 これだ。

 完全にお仕事モードのマユさんなのだ。

 いや、言ってることは正しいし、自分でもわかってはいるんだけど。


「わかってますよー。でも夜どうしようかなぁ、とか考えません?」

「まぁ、そりゃあ……」


 マユさんが顔を正面に向けて視線を逸らし、カップコーヒーで口元を隠す。

 とりあえず横顔を凝視しながら、その先の言葉を待ってみよう。


「な、なに? アンタはどうしたいの?」

「私が聞いているのにずるいなぁ」

「だってさ、仕事の後だし……普通にお風呂入って……」

「入って?」

「入って……寝るだけでしょ?」


 またしても視線を前に向け、コーヒーを飲む仕草で誤魔化そうとする。


「それだけですか?」

「それだけって……あ、お酒は禁止ね。アンタ、悪酔いするから」

「えぇー、飲まないんですかー?」

「今日はダメよ、絶対。ハメ外して、悪酔いするの目に見えてるから」

「その時は介抱してください?」

「いっつもしてるでしょうが」


 苦笑しながら突っ込まれてしまった。

 いつもされてる……としても、泊まったのはあの2回だけだし……記憶もないけど。

 たしかに出張先で、記憶をなくすほど飲むのは不味いかもしれない。


「んー、じゃあ寝る前に耳元で歌ってくださいよ、ウィスパーボイスで」

「どんなASMRよ、それ」


 マユさんは私のお願いに、心底あきれた表情を返しくる。

 それでも私は、なんとかこのお願いを叶えてもらえるよう、今から考えるのだった。

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