第24話 オーサム!

「あー……えぇ……っと……」


 マイクを持ったまま、気まずそうに視線をそらすマユさん。

 一方の私は顔を真っ赤に上気させて、大きく目を見開き、マユさんの次の言葉を待っていた。


「あー、はい。どうもー、ライカでーす」

「きゃー!」


 思わず立ち上がり、両手で拍手をする。

 しかし私の興奮はそれだけでは収まらず、ソファの上に登ると、その場でピョンピョンと飛び跳ね始めた。


「ちょ、ちょっと落ち着いて。ほんと、実際の中身はこの通り、たいしたことないんだから」

「なに言ってるんですか! ライカさんなんですよ! 私の大好きな!」

「わかったから、アンタがファンなのも理解してるから、とにかく落ち着いて」


 そうは言われても、目の前に本物のライカさんがいるんだから、落ち着くだなんて無理に決まってる。

 生なのだ。

 リアルなのだ。


「じゃあ、ここ、ここ! 隣に座ってください!」


 私がバンバンとソファを叩くと、マユさんが嫌そうに隣に座った。


「本当に……ライカさんなんだ。本物の……」

「あぁ……まぁ……はい、本物です。会社では言わないでね?」

「言わないですよぅ〜そのかわりぃ〜」


 目を合わせようとしないマユさんの横顔に、鼻先がぶつかりそうなほど顔を近づける。

 改めて間近で見ると、本当に綺麗な横顔だ。

 細身な首筋から肩にかけての肌が綺麗で色気もあるし、足だって細くて真っ白で……


「あのー、ユリさん?」

「なんですか?」

「アンタ、さっき百合禁止って言ってなかったっけ?」

「これは百合じゃないです。憧れの現物を、生で触って確認しているんです」


 私がマユさんの体をベタベタと触っていることに、ちょっと引いているようだ。


「いや、ほんと、ちょっと触りすぎというか、触り方がエグいというか」

「マユさん、私に対してあんだけのことをしといて、今さらソレはなくないですか?」

「うっ……」

「キス2回、裸で朝をむかえたのも2回ですよ?」

「いやそれは、その……その通りだけど……」


 おや?

 おやおや?

 なんかマユさん、ちょっと頬が赤いような?


「マユさん、私に触られるの恥ずかしかったりします?」

「恥ずかしいというか……アンタ、急に積極的すぎない?」

「そりゃあ、積極的にもなりますよ。だって、ライカさんがマユさんなんだから」

「それって恋愛感情じゃなくない?」

「マユさんは好きですよ? ライカさんは元から好きですし」


 マユさんが、むぐっと言葉を飲み込む。

 若干、戸惑っているようにも見える。

 あんなに積極的なマユさんから、また違うギャップが生まれてる。

 また、みんなの知らないマユさんを知れて嬉しい。

 こんなこと知っているのって、私以外に……


「じゃあマユさんの彼氏って、やっぱり……」

「ん、ブルームーンPだよ。だから、絶対に言わないでね。私はともかく、相手に迷惑かけるのは大人として、絶対に嫌なんだ」

「はーい、絶対に言いませーん」


 私が素直にそう答えると、マユさんはようやく私の目を見て、安堵の表情を浮かべながら「ありがとう」と返すのだった。

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