第23話 デトミネーション!

「ねぇ、他の曲にしない?」

「しませんねー。私がライカさん好きなの、知ってるじゃないですか」


 うー、と頭を抱えて唸るマユさん。

 私は構わず曲を入れる。

 ほどなくして、イントロが流れ始めた。


「はい、どうぞ」


 私がマイクを差し出すと、マユさんは長ソファの上で、うつ伏せに寝転がったままマイクを受け取った。

 そしてそのままの姿勢で、だらしなく歌い始める。


 うまいのは、うまいんだけど……


 私は曲をキャンセルし、もう一本あるマイクを握った。


「マユさーん。明らかに手を抜くのは、なしの方向で」

「おにー!」


 ぐったりと項垂れ、今度は駄々をこねる子供のように足をバタバタとさせる。

 相変わらず職場とのギャップがすごい。

 とにかく可愛い。

 正直、尊い。

 このモードのマユさんを私しか知らないのかと思うと、ある種の優越感すら覚えてしまう。


「そういうマユさん、もっと見せてくださいよ。なんだかマユさんの秘密を独り占めしてるみたいで、けっこう嬉しいんですよ?」


 わりと正直な意見である。

 するとマユさんは、ばたつかせていた足をぴたりと止める。


 長い沈黙。


 何か深く考えているようだ。

 やがてなにかを決意をしたかのように、すっくと立ち上がった。


「曲、入れて」


 凛々しい横顔だった。

 その迫力に押されてもう一度曲をリクエストすると、マユさんがようやく私の方を向く。


「色々と、話さなきゃいけないことがあるって言ったよね?」


 私がこくりと頷く。


「いいわ。とりあえずひとつ、話す」


 そうして、マユさんが歌い始めた。

 本気の歌だ。

 その歌声は自信に溢れ、力強くて艶があり、時に切なげで……まるで何人もの歌い手を憑依させているかのような……いや、もう言葉で誤魔化すのはやめよう。

 間違いない。

 マユさんは私の大好きな、ライカさんだったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る