第20話 フィールド・エンカウント!
その日、仕事が終わった私は駅ビルにある雑貨屋へと向かっていた。
今日はマユさんも早く上がれそうだったので、待ち合わせをしていたのである。
「旅行みたいとか言ったら、怒られるんだろうなぁ」
私の頭の中は、早くも出張のことで埋め尽くされていた。
取材については見ているだけなので、勉強とはいえ気楽なものだ。
マユさんのテキパキした仕事っぷりを間近で見ながら、カメラマンたちのプロフェッショナルな仕事っぷりも見学できる。
それだけで、まだ入社三ヶ月の私には楽しい。
宿泊はビジネスホテルでも、きっと楽しかったと思う。
今回はちょっとしたご褒美でもあるのと、ちょうど京都にある旅館の仕事が来ていたため、そこに泊まることになったようだ。
仕事の流れとしては旅館で宣材撮影をし、夕方はバーの取材に行き、そこから旅館に戻って宿泊という流れである。
ちゃんと仕事に結びつけるあたり、抜かりがない。
同じ部屋……っていうのだけは、ちょっとアレだけど……
あれからマユさんの部屋には行っていない。
そこはそれ、友達の部屋に行くのとは少し意味合いが違うのだ。
少なくとも私にとってマユさんは、そういった特別な意識をもった相手になっていた。
ちなみにマユさんの方はというと、距離感の近い女友達といった感じだ。
特に進展もないというか、キスされたのもあの一回だけだし、たまに手を繋ぐ程度である。
もしかしたら本当に女同士でのそういうのが、ない人なのかもしれない。
だとしたらあのキスは、混乱する私をみて楽しむためだけにやったのかも?
いや……マユさんなら、やりかねない。
今度はこっちから何かして困らせてみようかなとか、考えたていた時だった。
「ユリ!」
突然、後ろから呼び止められた。
もちろんマユさん……じゃない、男の人の声だ。
「ユリ、やっと見つけた」
男が安堵の表情を浮かべて、駆け寄ってくる。
「何度も連絡したんだ」
今にも泣き出しそうな顔で近寄り、私の腕を掴む。
「別れ話になる前に勤め先は聞いてたから、ここに来たらいつかは会えるかもって思って」
男は何かを懇願するような目で、私を見つめてくる。
なんだ、この男。
いや、前彼の宗谷だけど。
別れ話ってなんだ。
一方的に私をふったくせに。
「なぁ、一回でいいんだ。ちゃんと話し合おう」
ちゃんとってなんだ。
面倒臭い展開だとしか思えない。
「今さらなにを?」
「いや、あれは俺が悪かった!」
そうだよ。
悪いよ、アンタが。
こっちはアンタを嫌いになる前に、一歩的にフラれたんだよ。
そこで会いにくるとか、反則でしょ。
「とにかく、どこか話せるところで……」
「嫌だよ。今さら復縁とかないし」
「これで最後でもいいから」
むぅ。
まぁこれで最後なら、いいか。
白黒つけてやろう……もうついているはずだけど。
「わかった。でも部屋には行かない。その辺のカフェで」
それでいいと頷く宗谷。
その後ろには、ちょうど待ち合わせにやってきたマユさんが首を傾げながら怪訝な表情で、私たち二人の様子を窺っていた。
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