第13話 ギャップ・エモーション!
土曜日はマユさんと映画に行き、お昼はパスタを食べ、ショップをブラブラし、暗くなる前に服を取りに行った。
さすがに、夕食時まで一緒にいるのは迷惑すぎるだろうと考え、十六時にはお別れをした。
日曜日は、死んだように寝ていた。
とにかく色々とありすぎて、疲れていたのだと思う。
そして、月曜の朝。
たっぷりすぎるほど、睡眠をとったせいだろうか。
あの激動の週末が現実に起こったことなのか、イマイチ実感を持てなかった。
とりあえず会社に出社し、マイボトルにいれてきたコーヒーをマグカップに注ぐ。
熱い珈琲を喉の奥にゆっくりと流し込み、ふぅと一息を入れる。
……またクロワッサンのところの珈琲を飲みたいな。
マユさん、また一緒に行ってくれるだろうか。
でも行くとしたら休日の朝だし、難しいかもしれない。
「夕璃ちゃん、おはよー」
元気に挨拶をしてくれたのは、一年先輩の千弥さんだった。
「おはようございます、千弥さん」
「初出社で疲れたでしょー。よく眠れたー?」
「はい、ぐっすりでした」
疲れた理由は、初出社が原因じゃないんですけどね。
いや、まぁ私の酒癖が原因なんですけどね。
でもやっぱり、原因の一端は……
「おはようございます」
マユさんの声が、フロアの入り口から聞こえてきた。
やっぱり二人でいる時と違って、少し声が凛々しい気がする。
なんというか、距離のある話し方だ。
「おはようございまーす」
「おはよう、葵さん」
そういえばマユさんは、千弥さんに対しては葵さんって呼んでいる。
いや……他の人に対してもだ。
誰と話していても、苗字で呼んでいた記憶がある。
「おはよう、夕璃ちゃん」
「おはようございます、マユさん」
やっぱり、私だけ名前で呼んでいる。
しかも“ちゃん”付けだ。
なんとなく疑問に思い、席につくマユさんを見つめる。
すると目が合ってしまい、思わず目を逸らしてしまった。
ほんの一瞬で、あの朝を……寝起きのマユさんを思い出してしまったのだ。
あぁ、これはマユさんに揶揄われるパターンだと気づく。
「夕璃ちゃん」
ほら、きたー。
「はい」
少し頬が熱くなっている気がする。
なんか意識しすぎだ、私。
「今日の予定を説明するから、支給されたタブレット持ってきて」
「あ……え、はい」
ものすごく真面目に返されてしまった。
そうだ、ここは職場なんだ。
ちゃんとマユさんのように、仕事モードを分けなくちゃだ。
どうも私は、まだ学生の気分が抜けていないのかもしれない。
「葵さん、朝のミーティングは先週話した通りに進めておいて。私は会議室で彼女に今週の予定と、主な仕事の流れを教えるわ」
「はーい、了解でーす」
「ん、よろしく。じゃあ夕璃ちゃん、会議室に」
マユさんはノーパソを小脇に抱え珈琲を片手に、颯爽と歩き出した。
私は慌てて、それについて行くのだ。
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