第8話 ダイナマイト!

「あのぅ、マユさん」


 下着姿のマユさんは、私の呼びかけを無視するかのようにクローゼットの中を漁っている。


「あのぅ〜マユさん。聞いてます?」


 ちなみに私はまだ、ベッドの上でお布団にくるまっている。

 寒いのだ。

 何も着てないから。


「昨日ウニシロで買った、私のスウェットはどこですか?」

「洗った。ベランダで干されてる」

「スーツは……?」

「洗えるマークついてたから、ついでに洗った。今、ベランダ」

「はぁ……あのぅ、じゃあ下着は?」


 そこでようやくマユさんが、歯ブラシを咥えたまま振り返った。

 そして「んー」と唸りながら、何かを投げてきた。

 見れば、まだ開封されていないスポーティーなインナーセットだ。


「洗ったから、いまベランダ。それ、まだ使ってないからいーよ」


 なぜ全て洗われてしまったのかという問いかけには、応じてくれなさそうだ。

 仕方なくビニールを剥がし、着用する。

 でもこれって、かなり……


「あー。あんた、やっぱり大っきいから、私んじゃきつそうだねー」

「スポーツタイプだからですよ。ありがとうございます」

「ダイナマイトだね!」

「何のテンションですか、それは!」


 しかし私の声も虚しく、マユさんは「デカッ! デカッ! デカッ! ダイナマイトッ! デカッ!」という謎の鼻歌を歌いながら、またしてもクローゼットに潜ってしまった。

 どうでもいいけど、めっちゃ歌がうまい。

 今の一瞬で、体に電流が走るほど聞き惚れてしまった。

 めっちゃ変な歌だけど。

 なんかパソコンにマイクもあるし、もしかしてマユさんって……


「マユさんって、歌ってみた動画とか作ったりしてるんですか?」


 ぴたりと歌が止む。


「なんで?」

「今の、めっちゃ上手かったですし。それにほら、マイクも」

「そういうのは、やんないよ。魂はベーシストだからね」

「歌、やらないんですか?」

「うっさいなー。それより、これ着て」


 今度は白のカーゴパンツと、春らしい薄ピンク色のハーフジップセーターだ。

 こうしてみると、マユさんの服のセンスが見えてくる。

 まぁいつまでも下着のままでいるのも何だし、とりあえず言われるがまま着てみる。


「おー、そのサイズの娘が着ると、そんなにダイナマイトになるのか」

「おっさんみたいなこと言わないでください」

「しれっと酷いこと言うね。私、パパっ子なの」


 今度は靴下を投げてきた。

 これも新品だ。


「ほら、出かけるよ」

「どこ行くんですか?」

「休日の朝はココって決めてるとこがあるの。いいから、ほら」

「このカーゴにあう靴がないです」

「あーもう、あんたは何から何まで!」

「うぅ……ごめんなさい」


 いや、これは私が悪いの?

 全部、洗濯されたからだし!

 いや、ありがたいですけれども!


「Mでいける?」

「私、普段はSよりのMなんで、いけると思いますよ」

「変態みたいな会話だね♪」

「朝からナニ言ってるんですか!」

「キャハハッ!」


 あぁ、この笑い方。

 さすがに分かってきた。

 この人は私の反応をみて、楽しんでいるんだ。


「ほら〜、もう行くよ!」


 こうして私は選択肢を与えられることなく、マユさんにリードされてしまうのだった。

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