第4話 ランチタイム!

「ごめん、葵さん。頼んでおいたアテンションのデザイン、できてる?」

「はいはーい。できてますよー。サーバーに入れときますねー」

「ありがとう」


 マユさんは、テキパキと仕事をこなしていた。

 後輩からの信頼も厚く、仕事のできる女性なんだろう。

 しかも仕事を進めながらも私には課題を出し、チェックまでしてくれていた。


「あのぅ、マユさん?」

「ん? どこかわからないところでもあった?」

「昨日のことなんですけど……」

「今は仕事中よ。ある程度の無駄口は許容しているけど、ミスの元になることは意識してね」

「あ、はい。すみません」


 慌てて頭を下げ、モニターに顔を向ける。

 朝の挨拶の時こそ、あんな話し方をされたけど、仕事中は本当にキャリアウーマン感全開だ。

 聡明で、綺麗で、仕事のできる女性にしか見えない。

 今朝のことだって、まるで何もなかったかのような振る舞いをしている。

 正直、私の方が戸惑っている。

 そうこうしているうちに、お昼になってしまった。


「んー疲れた。夕璃ちゃん、お昼はどうするの?」

「あ……えっと、皆さんはどうしてるんですか?」

「んーお弁当持ってきたり、食べにいったり、コンビニで買ってきてたり?」

「そうなんですね。じゃあ今日は何か買ってこようかな」

「ふふ、なるほどね」


 何故かマユさんが、ふくみを持たせた笑みを見せる。

 そしてトートバッグから、何かを取り出した。


「はい、これ」


 目の前に置かれたものは、紙の包装紙に包まれたお弁当のようだった。

 包装紙には『焼き肉 大字苑』と印刷されている。


「なんですか、これ?」


 私が聞き返すと、さらにマユさんが楽しそうに笑みを浮かべた。


「なにって、大字苑のお持ち帰り用弁当よ?」

「はい、知ってます。人気の……お土産用のやつですよね?」

「夕璃ちゃん、本当に昨夜の記憶がないのねー。それ、あなたが『明日のお弁当はこれ買っていきます!』って言って、自分で買ったのよ?」

「ええぇぇ?」


 まったく憶えがない。

 そもそも、昨夜の記憶がない。

 私には、ひとりで飲みに出た記憶しかないのだ。


「朝起きたらいないし、お弁当は忘れてるし、もったいないからとりあえず持ってきたんだけど、まさかうちの新入社員だったなんてねー」

「うっ……本当に記憶にないんです。私、昨夜、どうだったんですか?」

「どうって……彼氏にフラれたばかりで、でも明日は入社式で……って、泣いたり笑ったりしてたわよ?」


 最悪だ。

 記憶をなくすほど飲んで、マユさんに絡んだらしい。


「あぁ……で、朝起きたらお互い裸で抱き合ってたから、びっくりして逃げたのか」

「うぅ……ごめんなさい……」


 恥ずかしぬ。

 まともに顔が見れない。


「あの、それで、昨夜は……」

「うん?」

「ですから、その、昨夜は……私……マユさんと?」

「うふ」


 意味深な笑みを浮かべる、マユさん。

 しかし、それ以上は何も言わない。


「その話は、また私の部屋にきたら、教えてあげてもいいかな」

「そんなぁ」


 私が項垂れると、マユさんは嬉しそうにくすくすと笑った。

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