第2話 エスケープ!

 一度、情報を整理しよう。

 私の名前は望月 夕璃もちづき ゆり、二十二歳。

 地方の美術大学を卒業したばかりの、夢と希望に溢れた新社会人だ。

 そして初出社の前日に彼氏にフラれた、悲しい新社会人でもある。

 つまり今日は……


「今日、入社式じゃん!」


 思わず声をあげ、慌ててベッドから飛び起きた。

 下着はすぐに見つかった。

 次は見知らぬ女の服と組んず解れつしている、浮気者な自分の服を引き剥がす作業だ。

 何をしたらこんなに絡まり合うのか、まるで昨夜自分達がこんなことをしたかのような……


 ……。


 ……え、したの?


 口元を引くつかせて、ベッドの方に視線を戻す。

 すやすやと眠る奇麗なお姉さんは、黒に近い濃紺のショートヘアがよく似合っていて、線が細くいかにもクールな雰囲気だ。

 左目の下にある泣きぼくろが、同性の私から見ても色っぽい。

 そしてやっぱりというか、彼女も何も着ていない。


 自分には女性同士でそういった経験はないし、そういう趣味もない。

 どちらかといえば、されたのだろうか?

 彼女を起こせばハッキリするんだろうけど、世の中には知らない方がいい事もあるし、ここは一つ……


「よし、逃げよう」


 私は頭を切り替えて、荷物を手に取り、出て行くことにした。

 ドアを閉めると自動で鍵がかかる。

 どうやらここは、マンションの七階らしい。

 しかもかなり都会……昨日飲んでいたのが新宿だったから、その近くだろう。

 表札には「最上 真由美」と書いてあった。


「真由美さん、ごめんね」


 黙って出て行くことに、何となく負い目を感じてしまう。

 でも今の私は、会社に行くことが最優先。

 出社初日から遅刻とか、絶対にありえない。

 何となくエレベーターを使わずに非常階段を駆け下り、目の前の道路でタクシーを捕まえる。

 現在地がわからないんだから、タクシーで行ったほうがいいはずだ。


「渋谷G1デザインっていう……えっと、ここ!ここに行ってください!」


 タクシーの運転手にスマホを見せる。

 すると無愛想な運転手が、無言のままアクセルを踏み始めた。

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