蛮族、ゴブリンキングと戦う
そうしてグレイスがゴブリンナイトを倒している頃。ジャスリードは、ゴブリンの集落の最奥に手巨大なゴブリンと対峙していた。
ゴブリンキング……そう呼ばれるゴブリンの中でも特に強い個体だ。オークですら小柄に思えるその巨体。その巨体に相応しい筋肉量と、粗末な王冠とマント。そして……それとは全くレベルの違う、立派な鎧と大剣。そのアンバランスさを見て、ジャスリードはしかし何のコメントもない。特に何かを言う必要も感じなかったからだ。ここで言うべきは、とても簡単なことだ。
「ベルギアの戦士ジャスリードだ。何か言い残すことがあれば聞こう」
「ゴブブブブブ……何をそう急ぐ。話をしようではないか。生物には言葉がある。妥協点が無いように見えても、必ず見つかるものだ。それを検討することも無しに暴力に訴えようと?」
なるほど、それは確かにゴブリンキングの言う通りだ。話し合いで妥協点が見つかるというのであれば、それは素晴らしいことであるに違いない。それは確かにその通りであり、通常であればそうするのが正しいのだろう。それを踏まえた上で、ジャスリードはゴブリンキングにベルギア刀を向ける。
「なるほど、確かにそうなのだろう。だが、そうではないこともある。その理由はお前自身が分かっているはずだが」
「ゴブブ……何を言っているのか分からん。俺を斬りたいという話か?」
「伏兵をこの周囲に潜ませているな」
「ゴブッ!?」
「分からんとでも思ったか。ゴブリンの集落独特の隠れやすい場所の意図的な配置。此処にはそれが露骨に多い」
そう、ゴブリンの集落を1度でも見た者は知っているだろう。ゴブリンの集落に積まれた無数のゴミや戦利品の箱……その他諸々の、薄汚い山々を。
それらは全て意図的に死角を作り襲い掛かる隙を作るためのゴブリンの戦略だ。ゴブリンだけが知っている地の利を作り出すための防御装置であり、防衛機構。しかしどうと知っていれば、潜んでいるかどうかの気配を探ることなど容易い。
「伏兵を使いたいなら今出してしまえ。数秒後にはその首が飛ぶのだからな」
「お、おお……や、やってしまええええええ!」
「ゴブウウウウウウウ!」
ゴブリンキングの言葉と共に一斉にゴブリンたちが飛びだして襲ってきて。その全てが、ほぼ一瞬のうちにジャスリードによって切り裂かれ絶命する。
「さて、あとは……」
「ゴブッ!?」
土の中に空気穴を開けて潜んでいたゴブリンをベルギア刀で刺し殺すと、ジャスリードは剣を軽く払う。
「お前だけだ、デカゴブリン」
「ゴブウウウアアアアアアアアアアアアアア!」
ドン、と。激しい音を立ててゴブリンキングは飛びだし大剣をジャスリードへと振り下ろす。確かに目端は効くようだが、一撃で叩き潰してしまえばどうしようもないだろう。そう考え振り下ろした一撃は……しかし「目の前」にジャスリードが居たことで「ヒッ」と情けない声をゴブリンキングにあげさせる。その手には振り被ったベルギア刀。
(拙い。死ぬ。避けろ。避けろ……!)
グンッと身体を思いきり逸らしてゴウ、と真上を薙いでいくベルギア刀の剣風にゴブリンキングは冷や汗を流す。こんなの、人間の振るう刀が出す音じゃない。人間……? こいつ、人間か?
そう恐れながらもゴブリンキングは転がって距離をとり、ジャスリードへ大剣を向ける。
「お、お前……何者だ! 人間じゃないだろう!」
「知らずに戦っているのか? 俺は蛮族。ベルギアの戦士だ」
「蛮族……!? 知らん! そんなマイナー種族など!」
「そうか」
実際、歴史の流れと共に蛮族を知る者は減っていった。領土的野心というものが存在しない蛮族はどの部族も適当な辺境に住み出てこないからだが……魔族でもそういう風化は避けられないということだ。
「知らずともいい。死ね、ゴブリン」
「ぬがああああああああああああああああ!」
ゴブリンキングは大剣を振り回してジャスリードの接近を防ごうとして。しかし、ジャスリードはそれを全く恐れずに前に出ていく。
「そんな無茶苦茶に振り回せば俺が恐れると思ったか?」
前進するジャスリードに、一切の恐れはなく。まるで突進するかのような速さでゴブリンキングに迫り、跳んで。その首を一撃の下に刈り取る。まるで最初からその結果が決まっていたとでも言うかのようにジャスリードの表情には勝利の喜びはなく。
「ジャスリード!」
「グレイス。そちらは何か収穫はあったか?」
「ええ、ありましたわ。侵攻計画でしてよ! ただ、ちょっと大きすぎて持ってこられませんでしたわ」
「そうか。なら行こう」
一応念のためにジャスリードがゴブリンキングのほうに来てみたが、やはり本命はゴブリンナイトであったようだ。まあ、ゴブリンキングはリーダーではあるが参謀ではない。そんなところなのだろうが……ともかく、グレイスの案内でジャスリードが汚いテント……明らかにゴブリンキングが入れるサイズではないそこに入っていく。
そこにあったのは、確かに侵攻計画。それを分かりやすく示した、巨大な地図だった。
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