没落少女、クエストのことを知る

 ゲームというものは、攻略可能に思えるものでなければ意味がない。例えばの話、剣を握るのが初めての素人にオーラブレイドを使いこなせる剣の達人を10人配置して「さあ、此処を乗り越えろ」と言われても出来るはずがない。

 出来るかもしれない、そんな程度がゲームとして相応しく、可能な限りの偶発的事象も排除しておきたいところである。

 つまりどういうことかというと……侵略軍の1人の将であるジェネラルスケルトンのようなものを二連続で配置したりはしないということだ。

 そしてジェネラルスケルトンがジャスリードに渡した「導きの宝玉」は次の場所を指し示すと同時に、「その場所」の担当者に自分の担当場所が攻略されたことを伝える超高速信号でもあった。

 つまるところ、ジェネラルスケルトンは自分の役割をとても忠実にこなしており、そこに疑いを挟む余地は一切存在しないということである。

 同時に「次の相手」は挑戦者が自分の場所に向かってきていることを知り準備を始めているということだが……そんなことをジャスリードたちが知るはずもない。


「私たち、今何処に向かっているんでしょう?」

「分からん。王国の地理には明るくない」


 しかし光がどちらに飛んでいったかはジャスリードはしっかりと記憶している。

 だからこそ、その方向へと歩いているのであり……その途中にある村や町は、全て攻め落とされていた。

 その中には人が全て連れていかれて魔族が住んでいる村もあったが……遠く離れた場所から見てみれば、なんとも平和な光景が見えていた。


「やー、此処は暮らしやすいよな」

「おう。気候は穏やかで土も水も豊かだ。こんなとこに住んでたら堕落するのも分からんでもない」

「人間みたいにか? お前が?」

「おう。やる気も全部消え失せてな!」

「ハッハッハ! お、犬がいるぞ」

「おー、かわいいな。もう飯は食ったかー?」

「ワフッ」


 まあ、どうにもそんな感じの会話が繰り広げられている。グレイスはそれを遠目と集音の魔法で確認しているが、ジャスリードは素の身体能力でそれを正確に確認していた。


「……ふむ。何処も同じだな」

「平和ですわね……というか、人語を理解できてますのね……?」

「何を今更。ジェネラルスケルトンもそうだっただろう」

「でもゴブリンは喋れませんし」

「そうか? あそこを見てみろ」

「え? 何処です? 果物屋の陰だ」

「……あっ」


 そこにはオーガと談笑をしているゴブリンの姿があった。しかも共通語で会話をしている。


「ほんと、どういう目と耳してるんですの? 私は魔法を使ってやっとなのに」

「修練が足りてないな。森に埋めた針を見つけられるようになれと言ってるだろう」

「ですわね……」


 それは人間の出来るレベルを超えていそうだとグレイスは思うが、まあやれば出来るのは自分ですでに証明してしまっているので正しいのだろうとは思う。


「それで、あんなのを見てどうしようっていうんですの?」

「決まっている。今後の判断材料だ」

「……戦うかどうかの、ですわね?」

「そうだ。そもそも今回のゲームとやらは確かに誠実に運営されている。人間の敗北条件は王城の陥落。ならばその後どうなる?」


 言われてグレイスは考えてみる。王が魔族に殺され城が、王都が墜ちる。その後どうなるか?

 まさかそのまま撤退していくというわけでもないだろう。王都は占拠されるはずだ。

 となると……なるほど、そうなった場合に王都がどうなるかは、こうした場所を確認していくことで分かるだろう。


「なるほど、分かりましたわ。そうして見極めて場合によっては倒す……ということですわね?」

「いや。俺たちと上手くやっていけるかを見極めている」

「え?」

「たとえば王国の支配構造が変わったとして、魔族の商人は人間の商人とどの程度違うのか。俺たち蛮族と平和的にやっていけるのか。それによって色々と変わるだろう」

「……そういえばそんな感じでしたわね」


 蛮族は結構理知的だ。蛮族の縄張りを荒らす者、蛮族の誇りを汚す者、蛮族の物を奪う者……そういった連中以外には比較的友好的だからだ。まあ、酒の勢いで失礼なことを言えば決闘で真っ二つにされかねない危険性はあるが。


(うーん……けどまあ、人間に何か恩があるわけでもなし。別に庇う理由もないですわね……?)


 そんな絶妙に蛮族じみた思考をすると、グレイスは頷く。


「ええ、分かりましたわ。それで? ジャスリードの結論はどうですの?」

「何言ってる。シャーマン見習いはお前だろう」

「私ですの?」

「当然だ。シャーマンはこういう大事のための知恵袋でもあるのだから。当然俺も意見は出すが、最終的に長に報告するのはお前だ、グレイス」

「ちょ、ちょっとお待ちになって!? まさか今回私がこの旅のメンバーである理由って!」

「そうだ。これはお前が次代のシャーマンになるための試練(クエスト)だ」


 確かに、言われてみるとそういうこと以外でグレイスがこの旅に同行する理由はない。要は肝心要の大事なところはグレイスがやらねばならない……これはそういう、本当の意味で蛮族の一員になるためのクエストだったのだと。グレイスは今更ながらに気付いていた。

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