未回収サブクエスト~ラストバトルはそのあとで~
「――我の手に、全ての
ごごごご、と大地が揺れる。
それは世界を揺るがす大事件の幕明けだった。
惑星が真っ二つに割れているのではないかと錯覚するような地響きと、自然淘汰。
天候が頻繁に変化し、惑星の悲鳴が聞こえてくるかのようだった。
一万年も眠り続けていた……それはすなわち、力を溜めていたことを意味する。
一万年の蓄積が、凝縮されて、今――世界に顔を出す。
惑星に根を張り、地上に現れた巨大な石像――、体についていた不純物がぼろぼろと崩れていくが、一つ一つの破片は巨大な瓦礫である。
そんな巨大な落下物により、周囲の国は既に崩壊しており、逃げている最中の人々も、瓦礫に巻き込まれ、あっさりとその命を奪われている。
たとえ世界の裏側にいる人間も、いずれは被害者となるのだ。
根を張り、エネルギーを吸収することで、石像はさらなる力を得る。そして不純物が、段々となくなり、完全な姿になれば……――。
まだ地上に上半身しか出てきていない石像は、やがて、その両足で世界に立つのだろう……そうなれば、世界は終わる。
石像の体内――、玉座に座る『魔王』が、世界を統べる新たな王だ。
「さて、無尽蔵に増え続ける勇者ドモよ……、古代兵器が完全体になるまでまだ時間がある……どれ、遊んでやろうか――」
上半身だけしか地上に出ていないので、自由には動けないが、両腕を動かすことはできる。腕の
そんな危険地帯に、勇者が易々と近づいてくれるとは思わないが……。
それでも、このまま完全体になるまで、なにもせずに待っている勇者ではないはずだ。
黙っている、なんてのは、当然、ない。
だったら、不可能だとしても動き、少しでも完全体への移行を止めるのが、勇者の役目だ。……勇者が諦めていなければ、が、前提になるけれど……。
(となると……動きがあるまでは待機だな……。勇者たちはどういう方法で、我と古代兵器に対抗しようとするのか……見物だな)
圧倒的な攻撃力と、石像の外殻による飛び抜けた防御力――
これを打ち破る秘策が、勇者たちにもあるはずだろう。
一万年も眠り続けていたのが、古代兵器だけとは限らない。
一万年前は、封印されていなかったのだ……、であれば、兵器を鎮めるための、専用の対抗手段があるはずである――勇者たちは、それを見つけることができるのだろうか。
(先んじて潰す案もあったが、やめた……完全に対抗手段を奪ってしまうのは面白くないからなあ……。対抗手段を残すことで、当然、我を邪魔する要素が残ってしまうことになるが……クク、あっさりと勝ってもつまらんからなあ。奴らの奥の手を、上から叩き潰してこそ、新世界の支配者は、我である――)
魔王は待っているのだ――勇者の切り札を。
…………。
……気づけば古代兵器は完全体になってしまっている。
今や、大地の上に仁王立ちだった。
しかし、勇者たちは一向に現れず、かと言って諦めたわけでもないようだ。唯一の対抗手段を探している動きはあるし、こんな世界滅亡の寸前であっても、故郷の村でのおつかいを率先して消化していたり――
それ、今することか? と思ったが、勇者には勇者の計算がある。
魔王の短気で彼らの努力を無駄にするには……、情報が足りない。まだ、勇者の意図を完全に把握できているわけではなかった。迂闊に手を出すべきではない。
……待つとは決めたものの、それにしたって、長い。
というか、よくもまあこの状態の魔王と古代兵器を無視できるものだ。数人の勇者くらい、古代兵器の内部に潜入して、色々と調べてもいいものだが……一人もいない。まるで世界にいても見えていないかのように、古代兵器は無視されている……、ないものとされているのだろうか。
世界は暗雲に包まれ、赤い稲妻が走るような滅亡寸前なのだが、国や村は平和の中にいるような生活だった。
意外と慣れてしまっている……? 古代兵器の復活と、その時に起きた大災害から既に二か月――、仁王立ちする古代兵器は、一種のランドマークになってしまっているのかもしれない。
「……そろそろ飽きてきたな」
これを言うのも……何度目だろうか。
このセリフこそ、飽きてきた。
勇者が乗り込んでくるのをひたすら待つだけの生活というのも、苦である。……そっちがその気なら、と、魔王は予定を早めることを検討する。
最終決戦の舞台を整えた魔王を置いて、旅の序盤から溜めていたサブクエストを一つずつ消化するつもりなら、こっちもそろそろがまんの限界である――。
警告もなしに世界の半分ほどを壊してしまえば、勇者も焦るかもしれない――だから。
「引き金を引かせたのは、貴様らだ――」
古代兵器が動き出す。
点在する国や村を一つずつ潰す手間はかけない。
拳を、一度だけ振り下ろす――たったそれだけで……、世界の半分が消えるだろう。
脅威が振り上げられ、そのまま落ちる。
それは、魔王による勇者への歩み寄り、そして譲歩も共に。
拳が大地を、砕いた。
世界の半分が、死亡する。
それでも勇者たちに、火は点かない。
そもそも燃えるような闘志は、もうないのかもしれない……。
圧倒的な力の差を覆せないことを悟り、勇者たちを含め【人間】たちは、最後の最後で思い出を作りたかったのだろうか……、新世界へと変わる前に、旧世界の方で。
やり残したことを――納得がいくように処理するために。
だからかもしれない……、世界滅亡寸前だと言うのに、人々は、勇者は、楽しそうだった――古代兵器のことなんか忘れて、楽しいことだけを選んで、謳歌している。
魔王への屈服を感じさせない、最も明るく、前向きな敗北宣言だった。
「…………」
まるで魔王の方が負けたような気分だった。
…………勝ち負けにこだわり、長い時間を無駄にしたことを後悔するくらいには。
――だからと言って、
「……しかし勘違いするな? 勝った気分ではないが、それで世界の支配を中止にするほど、我もこだわりがあるわけではないがな――」
世界の破壊は決行された……雨天でなくとも、雨天だったところで、予定の変更はない。
魔王のタイミングで、やりたい時にやる。
やりたいようにやる――新世界の支配者は、こんなことで遠慮をする性格ではないのだ。
古代兵器の、巨大な石像。
同じく握り締めた巨大な拳が、再度、振り下ろされた。
世界は生まれ変わる――
新たな支配者を魔王とし、全てが魔王が望む、都合の良い世界へと。
結局、勇者の切り札が、日の目を浴びることはなかった。
…了
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