じゃあ、またいつか……。
「君とは付き合えないけど……遊ぶくらいなら構わないよ」
「……じゃあ、遊園地はどうですか、先輩!」
クリスマスツリーの前でフラれる……、注目されているのは飾り付けられた大きなクリスマスツリーなのか、それともこんな日にフラれた僕なのか……分からなかった。
周りなんて見えていなかったのもある。
僕は、先輩しか見れなかった。
「いいね、いつかいこう……あ、でも……」
最後まで言わなかった先輩は、やっぱり僕といくことには乗り気ではないのだろう。
「そう、ですよね……また、いつか……」
「うん。だから遊園地ではなく、別の場所に遊びにいこうよ――また連絡するね」
そう言って、先輩が遠ざかっていく。
これからどこにいくのだろう……別の男の人と、待ち合わせでもして、夜景でも見ながら愛を育むのだろうか……。じゃあ彼氏がいるんじゃないか。
少しだけ大人のお姉さんは、年下の僕には興味がないのだ。
「はぁ……。帰ろ」
昨日、練りに練ったシミュレーションが全て無駄になる。
年末年始は、スケジュールが、がら空きになってしまった。
バイトを入れる気にもならないので、家でのんびりしていた……。
食っては寝て、食っては寝ての怠惰な生活だ。数日おきに散歩には出ているので、健康的ではないけれど、不健康でもない気がする。けど、点けたままのテレビを見ながら手元ではゲームをプレイしている。RPGだ……。現実で上手くいかなくとも、異世界では世界を救って結婚もして――何度レベルがカンストしたか覚えていない。充実していた……手元の世界では。
「もう四日か……」
新年である。
怠惰な生活をそろそろあらためないと、大学が始まってしまう。
あ、でも一部ではもう始まっているんだっけ……? 大学は門を開けてるんだよな……?
授業はないから、こうしてこたつでのんびりしていてもいいけど……。このまま一月中は怠惰に過ごしてもいいかもしれない……。頭の中が先輩でいっぱいだったのを、すぐに切り替えろというのも無理な話だ。どうせ授業に出たって集中できないんだし……。
親が家事をする足音を聞いていると、頭の横に置いていたスマホが小刻みに揺れる。これはメールではなく、着信……?
画面を見て、慌てて飛び起きた。
「――先輩!?」
すぐに出ると、懐かしい声が聞こえてきた。
『あけましておめでとう。ごめんね、メールしようと思ったんだけど、たくさんの人からきちゃって、一つずつ返信するのに時間を使っちゃってたの――後回しにしちゃってたみたい。忘れてたわけじゃないのよ?』
先輩は優しい。フッた相手である僕にも、きちんとアフターケアをしようとしてくれている。
居心地がいいけれど、このままずっと引きずってしまうのは良くはないはずだ……、僕にとっても、先輩にとっても。だから、ここで決別宣言をするべきかもしれない……。
彼女にはなれないけど、友達ならいい――でも、それじゃあ僕は、前へ進めない。
「あの、先輩……お話が――」
『あ、そうそう、明日のことなんだけど、待ち合わせは何時にする? どこかいきたいところとかあるなら、付き合うけど……。遊園地はさすがに……新年早々、重たくない?』
寒いし、と先輩が体を震わせているのが容易に想像できた。
「……え? 遊びに……? なんで?」
『なんでって……去年言ったでしょ。五日にいこうって』
「……先輩、またいつかって、言ってましたよ……?」
『うん。言ってるじゃん。また五日に、って』
え。またいつかって、「いずれ」じゃなくて、期待してもいいけどたぶんいかないよ? って意味でもなくて、新年の五日に、遊びにいこうってこと……?
約束、されてたのか……?
「ま、紛らわしい!!」
『なんか勘違いさせちゃった? だったらごめんだけど……もしかして予定とかあった? だったら全然構わないよ。別日でもいいし……また来月の五日でも』
「なんで五日なんですか! 明日がダメでも明後日とか!!」
『だって、あたしも忙しいし』
でしたね!! 先輩は人気者だから……予定がぱんぱんですからね!!
『そういうこと。あたしから一日のスケジュールを取るのは大変だぞー?』
「でしょうね……先輩は引く手数多ですから……あれ? でも――」
じゃあなんで、クリスマスの日は僕に付き合ってくれたのだ? 前日に連絡して、先輩の予定を決めることができた……、もしかして寸前でキャンセルが出て、たまたま僕が予定を入れることができた……?
だとしても、関わりがそう深くない年下の男子と、一年に一度の大きなイベントであるクリスマスを、過ごすだろうか……。
一番早く予定を入れたのだとしても、魅力的なお誘いがあればそっちに鞍替えしてもいいし、そうするべきだ。
実際、先輩は僕との予定の後に、別の予定を入れていたみたいだし……まさかクリスマス当日、昼間から夕方まで、ちょうど予定が空いていたなんてこと――
『あり得るんだよなあ、これが』
「え?」
『君、全部口に出てたよ? あたしが君とクリスマスを過ごすのがそんなに信用できないの? 自信がないのは損よねえ……。君とは付き合えないけど、友達なら大歓迎って言ったじゃない。それくらいには、あたしは君を気に入ってるんだから』
それは……喜んでいいのだろうか?
『あと、訂正するね。あの時は、君とは付き合えないと言ったけど……今はちょっと違う。まだ君とは付き合う気持ちではないけれど、遊ぶなら、あたしからもお願いしたいかな』
「……それって……」
付き合えないけど。
でも今は、『付き合う気持ちではない』けれど……その差は、大きい。
『そ。色々と消化試合をして、複雑な人間関係を処理し終えたから……今のあたしはフリーなの。だからね……君があたしを口説いてもなんの問題もないわけ――ってこと』
「…………」
先輩は、少なくとも僕のことを、異性として意識はしてくれているらしい。
『君は……経験済みの女の子は嫌いかしら』
「いえ、気持ちは変わりませんよ。
それに――経験済みは、強くてニューゲームですから!!」
…了
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