第三章 月下氷人
第16話 記憶3
ある日唐突に、両親は園池司を罷免され、市井の人となった。職を失っても研究に打ち込む両親は、近所の人たちの目には変わり者に見えていただろう。
俺が図書館大学に入学して、寮生活を始めたのを期に、両親は〈壺菫〉へ移住した。
以前から罷免される予感があったのだろうか、閉架の居住許可を図書寮から貰っていたらしい。俺が都から〈壺菫〉に転属になると、再び一緒に暮らす日々がやってきた。
失意のさなかと思っていた両親は逆に生き生きして、書架と原色の森の間を行き来していた。
外界に出て脇目もふらずに植物を採取する両親に聞いたことがある。こんな気持ちの悪い植物のどこが好きなのか、と。
他と違っていることを気持ち悪いとは思わないと、彼らは言った。
このまま人が森から逃げれば、森はやがて人を襲うと、彼らは言った。
いつか分かる日が来る、その時に、貴方の子どもが大地で暮らせるようにと、彼らは言った。
俺の子孫を、孫を、両親が見ることはなくなった。
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