第2話 失われたメロディと夜の囁き

 目黒のジャズバーでの夜から一夜明け、僕は何となく心に重みを感じながら朝を迎えた。昨夜のメロディがまだ耳に残り、消えた彼女の思い出が心をかすめていた。


 会社に着くと、いつものように仕事に没頭する。しかし、心のどこかには昨夜のジャズバーでの体験がひっかかっていた。ランチタイムになると、ふと昔、彼女と訪れた国立新美術館のことが頭をよぎる。彼女はあそこの絵画が好きだった。僕はランチを抜き、美術館へ向かうことにした。


 美術館は静かで、彼女と訪れた時のことが鮮明に蘇る。特に彼女が好きだったモネの「睡蓮」の前で、僕はしばらく立ち尽くす。その絵の前で、彼女はいつも特別な輝きを目に宿していた。


 ふと、その絵を見つめる一人の女性が目に入る。彼女はどこか懐かしさを感じさせる雰囲気を持っていた。僕たちの目が合い、彼女は軽く微笑むと、静かに歩いて行った。


 その日の夜、僕は再びジャズバーを訪れた。バーには新しいジャズバンドが演奏していて、彼らの音楽は心地よかった。バーの照明は柔らかく、メロディは僕を昔へと誘う。ジャズのリズムに身を任せながら、僕はある決意を固めた。失われた恋の謎を解き明かすため、彼女の過去を探る旅に出ることを。


 僕はウイスキーグラスを手に、遠くの景色を眺めながら、これからのことを考えた。バーからはジャズの音が流れ続け、夜は深まっていく。彼女の消えた理由、彼女の最後の言葉、僕たちの過去。すべてがこの旅で明らかになるかもしれない。


 そして、僕は夜の街へと歩き出した。目黒の街は静かで、星空は遠く高い。夜風が僕の頬を撫で、新しい旅の始まりを告げているようだった。

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