―27― ユニット
「ついに届いたぁああああああああ!!!!」
わたしは自宅のパソコンの前でうれしさのあまり絶叫していた。
「突然、騒ぐな。耳がキーンとした」
ヘルメットをかぶったヌルちゃんが煩わしそうにそう呟いた。打ち合わせを兼ねてヌルちゃんを自宅に呼んでおいたのだ。
しかし、騒ぐなと言われても、これが騒がずにいられようか
「今日までわたしもヌルちゃんも順調に配信をしてきたけど、わたしたちには圧倒的に足りないものがあるよね!」
そう、あれから一ヶ月ほど、わたしとヌルちゃんはそれぞれ順調に配信を続けてきた。
「足りないものだと……」
ヌルちゃんはなにもわからないようで首を傾げた。
わからないようなので、正解を言ってしまおう。
「わたしたちに足りないもの。それは、ユニット曲だよ! そして、わたしたちのオリジナルの楽曲が今、届きました!」
そう、これがわたしが騒いだ理由なのだ。
楽曲は作詞から作曲まですべて依頼したけど、本当に料金が高かった。配信業で稼いだお金のほとんどをこれに使ってしまったね。
しかも、オリジナルPVも作ってもらう予定なので、さらにお金はかかる。
けれど、いくらお金をかけてもわたしはやると決めたんだ!
「待て。ユニット曲なんて、我は聞いてないぞ」
「言ってないからね。ヌルちゃんを驚かせたくて黙っていたんだ」
「確かに驚いたが、我は歌わないぞ」
「なんで!? 一緒にプラチナムハーモニーみたいなアイドル配信者になろうって約束したじゃん!!」
「そんな約束してないぞ! 我は悪の秘密結社のボスである以上、アイドルが歌うような曲は歌わないぞ。我にもブランドイメージがあるからな。こればかりは譲れない」
「ブランドイメージ? 最近のヌルちゃんの配信、かわいいってコメントと、もっと罵ってってコメントでしか埋め尽くされていないのに?」
わたしがヌルちゃんに幼女とコメントされたら、キモいや雑魚って言葉で罵れと吹き込んだところ、狙い通り視聴者のもっと罵ってくれ、というコメントであふれ出したのだ。
残念だけど、ヌルちゃんのことを悪の秘密結社のボスだと思っている視聴者はいないのである。
「うるさいっ! なんと言おうが我は秘密結社のボスだ! ユニット曲なんて絶対に歌わないぞ!」
「やだぁああ! やだぁあああ!! この楽曲つくるのに、どれだけお金をかかったと思うの!!」
「うるさいぞ、ナンバー1!! ち、ちなみに、いくらかかったのだ?」
気になったようなので、小声で料金を耳打ちしてあげた。
「――――ッ!? そ、そうか、ー。わ、我もやるから。これでいいんだろ」
どうやら想像以上の値段がかかっていることに驚いたようで、ヌルちゃんは渋々頷いててくれた。これだけお金をかけたのだから、失敗は許されないんだよね。
「まだ楽曲しかできていないから、これから歌の収録とPVの撮影。あとは、ダンスも覚えないとね」
「ダンスだと!? 我はダンスの経験なんてないぞ!」
「大丈夫。ユメカも経験ないから、一緒に覚えよう」
ダンスも歌も専門の講師に依頼して教えてもらうつもりだ。また、お金が飛ぶけど、がんばらないと。
ちなみに、ここまでの段取りはプラチナムハーモニーのリアンちゃんに教えてもらった。おかげで、ここまで一人でもなんとかやっていくことができた。後で、リアンちゃんにお礼のメールを送ろうっと。
「せっかくだし、一緒に聞こうよ」
イヤホンの片方を手渡しつつ提案する。
わたしもまだ届いた楽曲を聞いていないので、どんな曲なのか楽しみだ。
「なかなか良い曲なんじゃないか」
「うん、だよね!」
それぞれ聞いた感想を言い合う。
曲のことはあまり詳しくないけど、それでもこの曲はいいものに違いないんじゃないだろうか。
本当に、わたしたちの曲なんだと思うと、なんだか感慨深いような。さっきから胸の鼓動がとまらない。この曲でわたしが描いていた配信者像に近づける気がする。
「しかし、これだけの費用をかけたのに動画の再生数が少なかったらどうするんだ?」
ヌルちゃんがふと、現実的なことを口にした。
その心配はごもっともです。
残念ながら、今のわたしとヌルちゃんには歌って踊る印象を抱いてる視聴者は少ないだろう。なのに、突然そんな動画をあげても困惑する視聴者ばかりで再生数は伸びないはずだ。
「一応、策は考えているんだよね」
「ほう、聞かせてもらおうか」
「わたしたち、まだ一度もコラボしていないでしょ」
「そうだったな。最近視聴者たちが貴様との関係性を尋ねてきてうるさいんだぞ。貴様が我々の関係性を隠せ、というから黙っているが」
ヌルちゃんが人気になったのはわたしの配信に写り込むという事故からだった。だから、視聴者がわたしとヌルちゃんになんらかの関係があるんじゃないかと憶測して、そういう質問をもらうことが多い。
けど、あえてわたしもヌルちゃんもお互いの関係性について秘匿してきた。
ヌルちゃんがわたしのことになると、口を閉ざすことから、ネット上では不仲説まで流れている。
「サプライズだよ。サプライズ。わたしとヌルちゃんが突然、コラボ配信を始めたら、視聴者はどう思うかな」
「驚くだろうな」
「そう、驚くし絶対に話題になる。しかも、普通のコラボ配信なんてするつもりない! なにがなんでも絶対に伸びる配信をする! そして、配信の最後に、これからPVが投稿されると告知すれば」
「みんなPVを再生するだろうな」
「そういうこと!」
どうだ。これがわたしの考えた策だ!
「配信について意外と考えているんだな」
「その言い方だと、普段のわたしがなにも考えていないみたいじゃん」
「……」
えっ!? なにその間!? ヌルちゃんはわたしのことどう思っているわけ!?
「貴様の考えはわかった。しかし、肝心なことがなにも決まっていないだろ。コラボ配信でいったいなにをやるつもりなのだ。コラボで人を集めるとはいえ、配信の内容が悪ければ、PVの再生数にも響くだろ」
ヌルちゃんの指摘は尤もだ。
一番大事なのは、コラボでなにをするかだ。
普通なコラボじゃダメだ。絶対に伸びるようなスペシャルなコラボを企画しないと。
「それはもちろんダンジョン攻略でしょ!」
そう、わたしたちはダンジョン配信者だ。だったら、ダンジョン配信で人を集めないとね!!
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