―28― ついにこの日がきた!

 ついにこの日が来た!

 ユニット曲発表の日とヌルちゃんとコラボする日が!

 PVはすでに完成していて予約投稿をしてある。何事もなければ、この後投稿されるはずだ。

 事前にヌルちゃんとのコラボを予告すると、わたしのリスナーたちは大盛り上がりだった。

 配信においてコラボは必ずといっていいほど注目される。

 そして、サムネには『最後に重大発表あり』という文字をデカデカとのせて、視聴者たちの気持ちを今のうちから煽っておく。


「それじゃ、ヌルちゃん準備はいい?」


「あ、あぁ、問題ないぞ」


 ヌルちゃんの声が少しうわずっているような。もしかして、緊張しているかな? かくいうわたしも緊張しているんだけどね。


「それじゃあ、配信を始めます!」


 そう言いながら、小型ドローンのカメラをつけた。


「おはゆめ! 虹天ユメカの配信を始めます! 今日もユメカの配信を見に来てくれてありがとう! 今日はなんと初のコラボ配信! ゲストにヌルちゃんが来てくれました!!」


「我のことは閣下と呼べと何度いえばわかるんだ。諸君! 我は秘密結社の総帥、オール・ヌルだ! 本日は秘密結社の幹部、ナンバーワンとコラボをするので、皆のものしかとその目に焼き付けるがいい!」


【おぉおおおおおおおおおおお!!】

【始まった!】

【夢のコラボが!】

【ナンバーワン?】

【ユメカって幹部なの?】

【え? ナンバーワンとは?】


 コメントを見る限り盛り上がりは上々。案の定、ナンバーワンに関するつっこみが多い。


「ユメカは我が組織の幹部でナンバーワンの称号が与えられている。ちなみに、我はナンバーゼロだぞ!」


 誇らしげにヌルちゃんがそう主張していた。


「わたし、いつの間に幹部になっていたんだ……」


 ナンバーワンの称号については知っていたけど、幹部なのは初耳だよー。相変わらずヌルちゃんは痛いなー。


【あいたたたたたた】

【いたいすぎ】

【幹部wwww】


 コメントでも痛いって言われている。

 それでもヌルちゃんは我関せずといった具合で、話を次に進める。


「それで、今日はなにをやるんだ?」


 そうだ、まだ企画の説明をしていなかった。


「今日はこの池袋ダンジョンにいると噂されている幻の魔物、ゲーミングツチノコを捕獲します!」


【おぉおおおおおおおおお!!】

【あの、噂の!?】

【確か、シャドウストームが血眼になって探しているんだっけ?】

【ゲーミングツチノコのおかげで、池袋ダンジョンに潜る探索者が5倍近く増えてるらしい】


 詳しい視聴者が多いようでコメントで補足してくれる。

 ゲーミングツチノコはその名の通り、虹色に光るツチノコ型の魔物だ。神出鬼没であまりにもすばしっこく、捕獲も討伐もされたことは一度もない。

 目撃証言は何度かあったものの少なすぎてデマだと思われていたが、一週間前、とあるダンジョン配信者のカメラにゲーミングツチノコが映ったことで実在することが確証された。

 今、たくさんのギルドが探しているようだが、それより先にわたしたちでゲーミングツチノコを捕まえちゃえば、今日の話題はわたしたちで持ちきりになるはず。

 PVの再生数のためにも絶対捕まえるぞ!


「確か、目撃証言は30層ぐらい下だったよね?」


 ポーション飲んだときに100層ぐらいを探索したことあるので、30層ぐらいなら問題なく探索できるだろう。

 そんなわけで30層に向かうが、道中退屈なのでヌルちゃんと雑談することに。


「そういえば、ヌルちゃんボイスチェンジャーはやめたの?」


「あれはリスナーの評判が悪いからやめた」


 だよねー。ヌルちゃんのかわいい声を聞きたいのであって、よくわからないおっさんの声は聞きたくないよね。


「そういうユメカは今日はポーションを飲まないのか?」


「いやー、流石にコラボでポーションは飲まないよー。ヌルちゃんに迷惑かけることになるし」


 配信ではポー禁を宣言しているし、実際続いている。最近、ポー禁のせいか手の震えがとまらないけど、大丈夫よね……。


「ポーションを飲めという書き込みが多いけどな」


「絶対に嫌! これ以上、アイドルらしくないことをしたくない」


「貴様をアイドルだと思っている視聴者なんて一人もいないだろ」


「ぐはっ」


 思わぬ正論にダメージを受けてしまう。


【正論で草】

【ヌルちゃん辛辣で草】

【まだアイドルにこだわっていたんだw】


  視聴者まで好き勝手言いやがって。

 今に見ていろ。

 今日のPVでユメカがアイドルだって自覚させてやる!


「グルルルルル」


 しばらく進むと、目の前にモンスターが現れた。

 トカゲのような見た目のモンスターが今にも襲いかかろうとしている。わたしは剣を鞘から向いて、臨戦態勢にうつる。

 えいっ、えいっ、と剣を振りかざすが、おかしいな。中々攻撃が当たらない。


「こんなモンスターに苦戦するとか、ユメカは雑魚なのか」


 そう言いながら、ヌルちゃんは闇魔術を駆使した見えない手がモンスターに掴み観かかり粉砕した。


「だって、探索者になったつい最近だし。むしろヌルちゃんが強すぎなんだよね」


「まぁ、我は天才だから。ほら、もっと褒めていいんだぞ。あと、我のことは閣下とよべ」


 うわー、うぜー。この幼女わからせてー。


【うざい】

【うざい】

【その鼻をへし折りたい】


「おい、なんで賞賛ではなく、悪口ばかりなんだ! お前らもっと我のことを称えろ!」


 ヌルちゃんが叫んでいる。どうやら、視聴者もわたしと同じ考えのようだ。

 そんなヌルちゃんもユメカは愛しているよ。


 さて、そろそろゲーミングツチノコが出現しそうな階層までやってきたわけだが。

 

 ドカンッ、と爆発音が聞こえた。

 え? と、振り向くと、宙を浮かんでいたドローンが盛大に爆発していた。

 当然、配信も中断されたはず。

 いったい誰がこんなことを?


「よぉー、久々に会ったなー。あのときはよくもオレたちのこと舐めやがったな」


 探索者の格好をした男の人が影から姿を現わした。

 それも一人だけでなく、次々と探索者たちが姿を現わす。


「えっと、どこで会いましたっけ?」


 ヤバい、全然記憶にないんだけど。

 探索者はふざけんなっ、と一言いれてから自己紹介を始めた。


「あぁ、オレたちは闇ギルドのファントムファルコンだぜ!! 助かりたかったら、SSS級ポーションを置いていくんだぜ!!」


「あのとき――!?」


 ようやっと思い出す。

 そう、目の前にいたのはこの前配信終わりに襲いかかってきたギルドの人たちと同じだった。 


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