―24― 高級なクッキーを食べさせる
「わ、我を試したな! 秘密結社ブラッリリリィの首領である我を試すなんて不敬だぞ!」
なんかヌルちゃんがわめき始めたので、えいっ! と、被っていたヘルメットをとりあげる。
「ふぇっ、か、仮面とらないでぇ……」
ヘルメットの中から銀髪幼女がお出ましー。涙目でヘルメットを返してと訴えていた。口調もさっきまでと打って変わって舌足らずなのが、なんともキュートだ。
「おい、我の仮面を無闇にとるなー!!」
ヘルメットを返すと元の偉そうな性格に戻って文句をつけてきた。ヌルちゃんの性格がコロコロ変わって、たのしー。これは無限に遊べそうだ。
とはいえ、やりすぎると嫌われちゃいそうなので、大人しくヘルメットを返す。
「そうだヌルちゃん、高級なクッキー食べたい?」
ヌルちゃんがここに来る前、彼女を高級なクッキーで釣ろうとしていたことを思い出す。ああいった手前、クッキーを食べさせてあげないと。
コクコク、とヌルちゃんは何度も首を縦にふる。よほど高級なクッキーが食べたいようだ。
「はい、どうぞー」
そんなわけで、彼女の前に高級なクッキーを皿にのせて手渡した。
高級なクッキーなだけあってバターの香りがここまで漂ってくる。見た目も凝っているし、絶対においしいに違いない。
高級なクッキーを見たヌルちゃんの瞳がヘルメット越しでもわかるぐらい輝いているのがわかる。
ヌルちゃんはクッキーを手に入れると、ゆっくりとした動作で口へ運ぼうとし、コツンとぶつかる音が聞こえた。そう、ヘルメットがクッキーを食べるのを邪魔したのだ。
ヌルちゃん、クッキーを食べるためにはとりたくないヘルメットを取らなくてはダメなんだよ! そのことに気がついたヌルちゃんはワタワタと葛藤を始めた。
葛藤しているヌルちゃんを目の保養にしつつ、わたしも高級なクッキーを一ついただく。
「うまっ!」
あまりにもおいしすぎて声が出ちゃったね。さて、この甘い状態の口でハーブティーを飲む。ぷはぁっっ、口の中が幸せすぎなんだけど!!
ふと、わたしがおいしそうに食べる様子をヌルちゃんが羨ましそうに見ていることに気がつく。ヌルちゃんが食べないならわたしが全部食べちゃおっかなー。
とか思っていると、ヌルちゃんがヘルメットをとった。素顔が見られるのが恥ずかしいのか頬が赤い。
そして、ヌルちゃんはクッキーを口にいれる。
すると、彼女の頬が緩む。よほどおいしかったようだ。
それからヌルちゃんは一口のサイズが小さいからか、何度もクッキーを口元に持ってきて噛んでいた。まるでうさぎみたいな食べ方だ。
しばらくの間、わたしたちはクッキーを無言で嗜んでいた。もちろん、ハーブティーと一緒に。
「実に美味であったな。貴様の家に来たかいがあった」
クッキーを食べ終えたヌルちゃんはヘルメットを被り直しては、再び偉そうな口調に戻った。ヌルちゃんが満足してくれてよかった。
「ヌルちゃんのためにおいしいもの用意しておくから、いつでも遊びにきてね」
ヌルちゃんは「閣下と呼べ」とボソリと呟きつつも、
「そうだな、たまにだったら来てもいいかな」
と言ってくれた。えへへ、ヌルちゃんと仲良くなれたようでユメカはうれしい。やっぱり餌付けは偉大だ!
「ねぇ、ヌルちゃん話があるんだけど――」
わたしはあることを提案しようと、そう口にした。ずっと話したかったことで、タイミングを見計らっていたのだ。
「閣下と呼べ。話とはなんだ?」
「ヌルちゃんわたしと一緒にダンチューバーをやろう!」
ユメカは思ったのです。こんなにかわいいヌルちゃんとかわいいわたしがタッグを組めば最強ではないかと! ダンチューバー界の天下だってとれちゃうはずだ!
「ダンチューバーだと……?」
「こんなこと突然提案されたら困惑すると思うけど……」
困惑たるヌルちゃんのためにそう口にする。
「いや、動画投稿だったらすでに始めているぞ」
「え!? すでに始めているの!?」
「あぁ、我の秘密結社ブラッリリリィを宣伝するためのチャンネルを立ち上げたのだ。まぁ、やり方がよくわからなかったので動画を一本しかあげていないが」
「どのチャンネルなの? 教えてよ」
「別にかまわないが登録者は少ないぞ。確か10人もいなかったはずだ」
と前置きをしつつスマートフォンで該当ページを見せてくれた。
どれどれ……? 確かに、サムネの画像が簡素でアイコンも初期のもので、いかにも動画投稿始めたばかりです、といった感じだ。ヌルちゃんの言ってた通り、あまり力を入れていないのだろう。
登録者の人数は……。
ん? んんん? 見間違いかな? いや、違う……。
「えっと、ヌルちゃん……」
「だから、言っただろ。登録者が少ないと」
「いや、登録者の数がすでに10万人超えているんだけど……」
一瞬見間違えかなと思って疑ったけど、どう見ても10万人超えていた。
「なにを言っている。そんなはすが……」
そう言いつつ、ヌルちゃんも自信の該当ページを見て固まった。
「ほ、ホントに10万人こえている……っ!?」
ヌルちゃんは驚きのあまり素の口調がでてしまっていた。
それからなにが起きているのかインターネットを駆使して調べてみることに。
どうやら間違えて配信されてしまったわたしとヌルちゃんの動画がバスっているようで、結果、有志によって発見されたヌルちゃんのチャンネルが一斉に登録されているようだ。
まぁ、ヌルちゃんのかわいさを考えれば、これだけ登録されるのは当たり前だよね。
棚からぼた餅とはいえ、この展開はわたしにとって非常にありがたい。
この調子でヌルちゃんとユニットを組めば、ますますわたしの夢は近づくはず。
「ヌルちゃん、このまま一緒にダンジョン配信活動、略してダン活をしよう! 夢は武道館!!」
「待て、我がダンジョン配信をやるとは一言も言っていないぞ」
え? なんで? やらない理由なくない?
「チャンネルを開設したのは秘密結社ブラックリリィの活動の一助になればと思ったまでだ。投稿した動画も組織への勧誘を促すもので、ダンジョン配信とはかけ離れている。そもそも貴様とユニットを組むことに我になんのメリットがあるといのだ」
なんか論理立てて反論された。えっ!? もしかして実はヌルちゃん賢い!?
むむむ……、ヌルちゃんをその気にさせるのは大変そうだ。なにかいい方法はないかなー。
「ヌルちゃん、まずはこれを見て欲しいの」
「だから、閣下と呼べ」
というヌルちゃんの主張はスルーしつつ、彼女に私の憧れの華月リアンちゃんの動画を見せる。彼女はダンジョン配信者としてだけではなくアイドルとしても活動している。
彼女のキラキラと輝く姿を見れば、ヌルちゃんもきっとわたしと同じ夢を抱くはず。
「その……すごいと思うが、我が目指しているものとはかけ離れているな。我が目指しているのは、この世界を裏から支配することだからな」
リアンちゃんがキラキラと踊っている姿に多少は感化されたみたいだけど、首を縦にはふらなかった。こうなったら他の方法で説得する必要がありそうだ。
「ヌルちゃんわたし思うんだけど、その野望を叶えるには、ダンジョン配信者が一番の近道だと思うの!!」
「な、なに!?」
「だって、部下を一万人集めたいんでしょ。だったら、ヌルちゃんのファンをたくさんつくって、その人たちに部下になってもらえばいいんだよ!」
「その手があったか!?」
ヌルちゃんは納得した様子で目を輝かせる。
「確かに、一から勧誘するよりも効率的だな。それに、ファンのみなに我を崇拝させれば、理想的な秘密結社ができるかもしれぬ!」
その気になったようで妄想を語り始める。ちょろいなー、と内心思ったけど、口には出さないのだ。
「明日には配信できるように今から準備を始めちゃおうか!」
ヌルちゃんの気が変わらないうちに外堀を埋めてしまおうと、早速準備に取り掛かるのだった。
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