―23― 自宅に幼女をお持ち帰りする
配信していることに気がついたわたしはリスナーに最低限のことを話して、配信を閉じた。
「本当にごめんね、ヌルちゃん……」
「だ、だいじょうぶです」
と言いつつもヌルちゃんの表情はまったく大丈夫そうじゃなかった。
ヌルちゃんから生気が失われていた。試しにヘルメットをとってみる。すると、ヌルちゃんは死んだ目でボーッとしていた。ヘルメットが取られていることにも気がついていない。
「ひとまず、わたしの家で今後について話しあおっか」
コクリ、とヌルちゃんが頷く。
さっきまでなら幼女お持ち帰りやったー! と、内心はしゃいでいたけど、今はそんな気分になれなかった。
それから二人でダンジョンの外に出る。
ヌルちゃんは探索者としての実力は相当なものなようで、であったモンスターを次々と瞬殺する。なので、苦労することなくダンジョンから帰還することができた。
わたしの家はマンションの一室にある。
マンションについたわたしはヌルちゃんと一緒に階段を上った。
「この先に、わたしの部屋があるんだよね」
そんなこと言いつつ、わたしの部屋までヌルちゃんを案内してあげた。
わたしの部屋おかしくないよね?
ポーションとか素材とか調合するための道具とか、全部〈アイテムボックス〉にいれているはずだから問題ないはず。
それからハーブティーをヌルちゃんのために淹れてあげる。
「それで、なぜ我の姿が動画にて配信されていたのか説明してもらおうか」
ハーブティーの入ったカップを前に置くとヌルちゃんが早速しゃべり始めた。ちょっとは落ち着きを取り戻したようで、中二病っぽいしゃべり方に戻っている。あ、でもヘルメットをつけているせいで、ハーブティーを飲むことができずにワタワタしていた。結果、どうしてもヘルメットをとりたくないようで飲むのを諦めたようだ。
「えっと、闇ギルドが襲ってきたから証拠をとってやろうと思って、隠れたところに小型ドローンを浮かべていたんだよね。撮影ボタンは押したけど配信ボタンを押してなかったはずなんだけどね……。なんで配信されていたんだろ?」
ポーションキメていたなら意識がフワフワしているから間違えても不思議じゃないけど、あのときは意識がしっかりしていたんだけどな。
「あ、もしかして、小型ドローンってそれのこと……?」
ふと、ヌルちゃんがわたしの脇に空いてあった小型ドローンのことを指さしていた。
「うん、そうだけど……」
そう頷いた途端、ヌルちゃんの様子が明らかおかしくなる。ヘルメットごしでもわかるぐらい、全身からダラダラと大量の汗を流し始めた。
「押しちゃったかも」
「え……?」
「邪魔だなと思って、闇の手を使って小型ドローンをよけたとき、なにかのボタンを押しちゃった気がする」
ヌルちゃんがたどたどしい口調でそう説明した。
ひとまず配信してしまった動画のアーカイブを2人で2人で見直してみる。えっと、これはヌルちゃんが犯人ですね。だって、動画が始まった瞬間、わたしドローンから離れた場所にいたもん。
「あぁああああああああああああああああッッ!!」
自分が犯人だとわかるや否やヌルちゃんは聞いたこともない叫び声をあげた。よほどショックだったらしい。わたしは自分が原因じゃなかったと知って少しだけほっとする。まぁ、わたしにまったく非がないわけではないんだろうけど。
「少しは落ち着いた?」
数十分ほど経ってからそう声をかけるとヌルちゃんはコクリと首を縦にうなずいた。
「そもそもヌルちゃんはなんで悪の組織ごっこをしているの?」
「ごっこじゃない」
食い気味に否定されてしまった。失言だったかな。傍から見るぶんにはごっこ遊びとしか思えないんだけど。
「アストロギア」
ボソリ、とヌルちゃんが口を開いた。
『アストロギア』ってどこかで聞いたことがあるような……。
「それって、昔にやっていたアニメだよね」
確かダンジョンを舞台にしたアニメだったような……? わたしは観てないからこの知識が正しいのか自信ないんだけどね。けど、そこそこ話題になっていたアニメだったので、タイトルを知っていたのだ。
どうやら『アストロギア』というアニメに秘密が隠されていそうだ。
早速スマートフォンを開いてタイトルを検索してみた。
「えっと……あらすじはこれかな。ふむふむ、主人公ゼノンが秘密結社をつくり部下たちと共に国家の陰謀に立ち向かう――」
あらすじを読み上げて気がつく。
そういえば、ヌルちゃんも秘密結社のボスを自称していたような……? えっと、あらすじの続きは、と。
「主人公ゼノンは正体を隠すため、仮面を被って活動している……これって!?」
どうみてもこのアニメの影響でヌルちゃんはヘルメットを被っているんだ!
痛い! 痛すぎるよぉヌルちゃん! 数年後にはこのことを思い出して悶絶すること確定だよ! ここはお姉ちゃんであるわたしが導いてあげないと。
「つまり、このアニメの主人公に憧れて、悪の組織ごっこを始めたってこと?」
「だから、ごっこじゃない」
「えっと……じゃあ、なんで悪の組織として活動しようとしているの?」
そう質問をすると、ヌルちゃんは被っていたヘルメットの位置を正しては咳払いを始めた。
「おい、貴様。さっきから不敬であるぞ。いいか、悪の組織ではなく秘密結社ブラックリリィだ。それと次、ごっこ遊びと口にしてみろ。我がその気になれば貴様ごとき一瞬で塵にしてやることができるのだぞ」
なんか脅されたー。でも、全然こわくないやー。むしろ、キャラを演じないと達者にしゃべることができないヌルちゃんかわいいなー。
「貴様、我のこと絶対バカにしてるだろ……!」
どうやらニヤけていたせいでバカにしていると勘違いされたようだ。
「別にバカにしてないよー。ヌルちゃんかわいいなーと思っているだけ」
「それをバカにしていると言うのだ!」
ヌルちゃんは叫んだあと、コホンと咳払いをしては再び口を開いた。
「少し取り乱しすぎたな。ともかく、我は本気でこの世界を裏から支配するつもりなのだ」
今更、取り繕うとしても遅いのになー。でも、そんなヌルちゃんもかわいい。
「ちなみに世界を裏から支配するために具体的な方法とか考えてあるの?」
「まずは組織の拡大だな! ひとまず一万人ほど部下がほしいな」
部下が一万人って、先が思いやられるなー。
「一万人もどうやって部下を集めるのかなー?」
「すでに何度かダンジョンで出会った探索者に声をかけている。だが、必ず逃げられるのだ。まぁ、この我に恐れをなしたに違いない」
そりゃ、ヘルメットをかぶった人に話しかけられたら怖くて逃げるよね。そして、最終的にわたしのもとに行き着いたというわけか。
「仮に部下を一万人集められたとして、その後はどうするの……?」
質問した途端、ヌルちゃんはこっちを見つめては固まった様子で動かなくなった。想定外の質問に答えられなくなったみたいだ。
「こ、国家の陰謀と戦う……?」
しばらくしてでてきた答えがこれだった。自分でも自信がないようで語尾にハテナが浮かんでいた。『アストロギア』のあらすじに主人公が国家の陰謀と戦うと書いてあったのでそれをそのまま引用しただけなんだろう。
「国家の陰謀って具体的になんのことかな?」
「……………………」
ヌルちゃんがフリーズしちゃった。
あぁ、わかってはいたけど、ヌルちゃんってアホの子だよね! でも、そんなヌルちゃんもわたしはかわいいと思うよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます