―21― 仮面の秘密

「あの……」


 ひとまずわたしは目の前の幼女にそう語りかける。


「えっ……あっ、あぅ!?」


 ヘルメット男もとい幼女はわたしに存在にようやっと意識が向いたらしく、こっちを見て青ざめた表情をしていた。

 もしかしたら、素顔を見られたくなかったのかもしれない。


「や、やっぱり仮面あった……」


 幼女はそういうと、どこからともなくヘルメットを取り出して、被りだす。

 そして、黒い手を複数出現させては自分の体を掴んでは持ち上げて、あとは着ていたブカブカの黒いマントを地面まで垂らして、大人の胴体があるように見せかける。

 低い声を出していたのはどういう原理だろう? ボイスチェンジャー使ってたとかかな。

 これで幼女からヘルメット男に変身できるというわけだ。


「ふむ、どうやら我は貴様を見くびっていたようだ。いいだろう今なら貴様を我が組織の幹部に迎え入れてやろう」


 いやいやいや! なにさっきまでくだりなかったことにしょうとしているのさ!


「ヌルちゃんはおいつくなのかな?」


 オールヌルと名乗っていたし、ヌルちゃんと呼ぶことにする。


「我のことは閣下と呼べ。あと、その質問は愚問だな。なぜなら我は無窮の時を生きている。ゆえに年齢という概念を超越した存在だ」


 か、かわいい……!

 幼女が一生懸命ごっこ遊びしているんだと思うと、目の前の生物が急にかわいく思えてきた。


「ヌルちゃん、難しい言葉をたくさん使えてすごいんだね。お姉ちゃん関心しちゃうなぁ」

「だから我のことは閣下と呼べ。あと我のことをバカにしてないか? いいか我の頭脳はスパコンの演算速度をはるかに超える。貴様が評価すること事態がおこがましいのだ」

「へー、ヌルちゃんってすごいんだね」

「だ、か、ら、我のことは閣下と呼べ! って、おい、なに我の仮面を取ろうとしているのだ!!」

「えー、だってヌルちゃんのかわいい姿もっと見たいじゃん」


 あれー、このヘルメット力をいれても意外ととれないなー。


「不敬だぞ! 我の顔面は誰であっても見てはいけないのだ! おい、だからやめろ! あぅ……」


 あ、ヘルメットがとれた。


「あ、あぅ……っ、か……かめん、かえしてくだしゃい」


 ヘルメットがとれたヌルちゃんは顔を真っ赤にさせてもじもじしながら、たどたどしいしゃべり口調でそう口にした。

 なんじゃ、このかわいい生き物は!?


「ヌルちゃーん、お姉ちゃんのお家においしくて高級なクッキーがあるんだけど、どうかなー? お家にきて一緒にたべなーい?」

「こ、高級なクッキー……!」


 ふはーっ、高級なクッキーに食いついてくれた!

 ぐへへ、どうにかしてこの幼女を自宅にお持ち帰りするんだ。


「そう、高級なクッキー。しかも簡単には手に入らないクッキーで銀座の人気店でね開店から1時間で売り切れるところ、早朝から並んでやっとの思いで買ったんだー」

「で、でも……ママに知らない人についていくなって言われてた……」

「そんなの気にしなくていいよー。わたしがヌルちゃんの新しいママになるから」


 だからね、わたしの家に行こう! ねっ! ねっ!


「ヌルのママは一人だけです……。そ、それより、かめん返して……ください」


 うっ、思ったよりも手強いな。


「かめんって、このヘルメットのこと?」


 そう言うと、ヌルちゃんはコクリと頷いた。


「えーっ、どうしよっかなぁー」


 ヘルメットを返すとヌルちゃんのかわいいお顔が見えなくなっちゃうからできれば返したくないけど。


「うぅ……っ、お、おねがいです。かえしてください……っ!!」


 あぁあああああ!? ヌルちゃんが泣いちゃった! かわいすぎる!

 ヌルちゃんは目に涙を浮かべて、必死に主張している。その姿がかわいすぎて悶え死にそう。


「お姉ちゃん、返すかどうか悩むなー」


 チラッチラッ、とヌルちゃんの反応をみる。どんな反応をするか気になったのだ。


「ふ、ふぐぅ……ッ!!」


 ヌルちゃんはさらに鼻を赤くして涙を目でいっぱいにさせた。


「か、返すから、それ以上は泣かないで!」


 かわいいよりも罪悪感のほうが勝ってしまった。

 そんなわけで、黒いヘルメットをヌルちゃんに返す。受け取ったヌルちゃんはヘルメットを被り、マントをバサリとひるがえす。


「貴様、よくもやってくれたな……ッ!! 我を弄ぶとはなんたる不敬……っ!! 貴様にはどんな罰を与えてやろうかッッ!!」


 なんかヌルちゃんが怒ってる……。

 まったく怖くないけど。

 どうやらヌルちゃんはヘルメットを被ると口が達者になるようだ。


「えいっ」


 ヘルメットを取ったどー!


「あ、あぅ……、えっと、えと……、うぅ……」


 ヘルメットとった瞬間、口下手になっちゃった。

 かわいいなぁ。

 えいっ、と今度はヘルメットを被らせてあげる。


「き、貴様……! 我をこれ以上弄ぶようなら、こちら側も手段を選ばないぞ!!」

「わー、こわーい」

「貴様、本気で怖がってないだろ!」

「あ、バレた?」

「く、くぅ……っ、どうやら貴様には極刑を与えてやらねばならないようだな。今更、泣きわめいて後悔しても遅いぞ!」


 怒ってるヌルちゃんもかわいいなぁ。


「そうだ、ヌルちゃん」

「我のことは閣下と呼べ。それで、なんだ?」

「ヌルちゃんの組織、ユメカ入りたいかも」


 組織に入ればヌルちゃんとより一層仲良くなれそうだし、入るしかないっしょ!


「お、おう、そうか。秘密結社ブラックリリィに入りたいか!」


 ヌルちゃんうれしそう。機嫌も直ったみたいだし、よかったよかった。


「閣下、よろしくお願いします!!」

「そうか! では、貴様にナンバー1の称号を与えよう!」

「ナンバー1?」

「組織のメンバーには必ず番号が振られるのだ」

「ちなみに、ヌルちゃんは何番なんですか?」

「閣下と呼べ。よくぞ聞いてくれた。いいか、我はナンバー0だ! 我が一番偉いからな、我が0なのは当然だ!」


 なるほど、ヌルちゃんが0でわたしが1と。

 ん? あれ? わたしが1ってことは他にメンバーがいないってことにならないか?


「ヌルちゃん、ちなみに、組織には他に誰がいるの?」

「貴様と我以外のメンバーは、全員闇の狭間にいる漆黒の使者だけだな! 人間の加入は貴様が初めてだ!」


 堂々というけど、それってつまりわたしとヌルちゃん以外、誰もいないってことじゃん!

 ヌルちゃん、あんだけ偉そうにしていたのに、他に部下が一人もいなかったなんて――!

 逆にありか。

 ヌルちゃんと二人っきりということはイチャイチャし放題ってことじゃん。


「それじゃあ、ヌルちゃん、早速わたしの部屋で作戦会議しようよ!」

「ふむ、よかろう。組織の人員が増えたことだしな、色々決めねばならないことがある」


 よっしゃあああ! 合法的に幼女を自宅にお持ちかえりじゃー!


「あと、貴様に一つ命令があるのだが」

「命令……?」


 改めていったいなんだろう。

 ヌルちゃんはヘルメットを被っているため表情は見えないけど、しゃべり方から不安そうにしている気がする。


「仮面の下の忌々しい姿については他言無用で頼む。その、我のイメージに関わるというか」


 あぁ、なるほどね。

 わたしは詳しくは知らなかったけど、闇ギルドの人たちがヘルメット男を本気で恐れていたことから、探索者の間ではヘルメット男は怖い存在だと認識されているみたいだ。

 だけど、ヘルメット男の中身がこんなかわいい幼女だなんて、世間に知られたらせっかく築いた怖いイメージが台無しになってしまう。

 そのことをヌルちゃんは恐れているのだろう。


「もちろん、いいよ」


 ヌルちゃんの中身をわたしだけ知っている状況というのは中々おいしい気がするので、協力するのもやぶさかではない。


 さて、ヌルちゃんを自宅をお持ち帰りするぞ!

 っと、その前に小型ドローンを回収しないと。

 闇ギルドに襲われたとき、証拠を残しておこうとこっそり撮影してたんだ。

 そんなわけで岩陰に隠して置いた小型ドローンを回収しようとして――

 あれ? なにがおかしいような。

 この小型ドローンは、撮影時に小さな緑のランプがつく。けど、今は赤いランプがついている。

 赤いランプは確か、ライブ中につくはずだったような……。


「――――ッ!?」


 背筋が凍った。

 わたしは慌ててスマートフォンを取り出し、あることを確認しようとする。


『お、やっと気づいたwwwwwww』

『ずっと配信されてたで』

『幼女誘拐犯オッスオッス』

『配信中に気がつかないで、幼女を泣かせる配信者wwww』

『事案かな?』

『はぇー、ヘルメット男の中身は幼女やったんやねー』

『幼女誘拐ですね。通報ポチー』

『ちな、トレンド一位やで』

『オールヌルちゃんのファンになりました。僕も組織入りたいです。どうすれば入れるでしょうか?』

『幼女かわいいやったー!』


「あぁあああああああああああああああああッッッ!?!?」


 やってしまったやってしまったやってしまった。

 まさか全部配信されてたなんて!?

 わたしはまだいい。

 わたしは幼女誘拐犯の汚名を被るぐらいで済むはず。それでもけっこう致命傷ではあるけど。

 わたしより気にしなきゃいけないのは、ヌルちゃんのほうだ。

 なんせヘルメット男の中身が全世界に漏洩してしまったのだから。


「ナンバー1、急に大声を出してどうした?」


 ヌルちゃんはまだことことを知らない。ちゃんと伝えなきゃ。


「あの、ヌルちゃん、大変残念なお知らせがあります」


 わたしはスマートフォンで配信されている画面を見せながら伝えた。


「今までのやりとり全部わたしのチャンネルで配信されていたようです。その、わたしがドローンの設定を間違えしまったばかりに……」


 そう言うと、ヌルちゃんは呆然とした様子で目をパチクリしていた。

 どうやらまだ事態を把握出来ていない様子。

 けど、数秒後にようやっと理解したヌルちゃんは顔を真っ青にして、口を大きく開いた。


「ギャァアアアアアアアアアアアア――――――――――――ッッ!!」


 ヌルちゃんはそれはそれは大きな声で叫んだとさ。

 ホントすみませんでした!! 






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