―20― ヘルメット男②
謎の組織に勧誘されたけど、どうしよう……?
敵対心を抱いているわけではないだけマシなのかな?
でも、そんな変な組織に入りたくないし。
「えっと、そのブラックリリィってのはなにをする組織なんですか?」
考える時間がほしい。
だから、質問をして時間を稼ごう。
「ふむ、秘密結社ブラックリリィの理念はただ一つ世界を裏から支配することだ」
「そ、そうですか……」
えっと、この人はガチで言っているのかな? それともただの中二病なのかな。冗談にしては凝りすぎてるから真面目に言ってる気がするけど。
「えっと、なんでわたしを勧誘したのでしょうか?」
「貴様のポーションを乱用し戦うその姿、実にいい! ポーション乱用とは、なんという悪の権化だ! 我が悪の組織にふさわしい人材だ」
えっと、これは褒められているのか? いや、絶対そんなことない。
これ以上、この人と関わっているとこっちまでおかしくなってしまいそう。
秘密結社とかアイドルを目指しているユメカには絶対あわない。
どうにかして組織の加入を断ろう。けど、下手なこといって逆上させたくないし、ここは穏便に断ろう。
「秘密結社とかユメカバカだからよくわかんなーい。だから、ユメカはパスかなー」
「なるほど、無知の知ということか。その辺りにいる愚民よりは己をよく理解しておる。だが不安になる必要はない。組織の頭脳はこの我が請け負っている。貴様にはそういったことは期待してない。貴様には組織の特攻隊を担って欲しい」
「はぁ……」
もしかしてバカにされているのかな。まったく怒りとかは湧いてこないんだけど。
話が通じなさそうだし、こうなったら逃げるしかないな。
「ユメカ、用事思い出しましたー! では、ヌルさんまたいつかー。じゃあねー」
手を振りつつ、全力でダッシュ。
このまま逃げ切ろう。
あれ……? 体が動かない。
走ろうと足に力をいれているのに、全然前に進まないんだけど!
「すでに辺り一帯は我の支配下にある」
「一体なにをしたの……?」
「理解できないか。だが恥じる必要はない。我の異能は常人とは違う次元にあるからな。理解できなくて当然だ」
あ、なんかキレそう……。
こういう上から目線で高説垂れるやつ一番腹が立つ……!
どうにかしてヘルメット男のヘルメット奪ってやって、顔面さらして上で顔面をボコボコにしてやりてー。
どうせヘルメットの下はブサイクなんだろ、この中二病が。
「ヌルさん、いいから解放してほしいんだけど」
「組織に加入するまで、貴様に施した
「そんな強引な方法で加入させてもあなたへ忠誠を誓った部下は増えないと思うんだけど」
「ふむ、この我に説教とは片腹痛いな。なに我の偉大さは例え凡人でもすぐ理解できる。そうすれば、組織に対する忠誠心もすぐに芽生えるだろう」
イラっ、イライライライラ……!!
めちゃくちゃキレそう。
「うるせぇえええええ、このヘルメット野郎!! 今すぐそのヘルメットひっぺ剥がして、顔面ボコボコにしてやるぅううううううう!」
完全にキレちまったね。
ユメカ、ポーションin。
虹天ユメカはポーションを飲むことで力を最大限に引き出すことができるポーション中毒者なのだ。
「ほう、ポーションを乱用するか。実にいい。やはり貴様は我が組織に必要な人材だ」
「だから、うるせぇえええええ!!」
相手のスキルがどういった仕組みなのかさっぱりわかっていない。
けど、やることはいつも変わらない。
気合いで殴ればどうにかなるはず!
「反抗するか。だが、貴様はすでに我が支配領域に囚われている。その状況下において貴様の勝利は万に一つもない」
「舐めるなッッ!!」
〈フェニックス・ヴィージュル〉の隠し効果。
炎の生成と操作。
たとえ動けなくても遠距離から炎を飛ばして攻撃できるのよ!!
わたしは人差し指から巨大な火球を作って、ヘルメット男に飛ばす。
「ほう、こんな力を隠してあったか」
けど、ヘルメット男はひょうひょうとした様子で攻撃を受けとめた。
「見えた。それがあなたの力の正体ね」
ヘルメット男の周りにはいくつもの黒い手があった。
その手が重なりわたしの攻撃を防いでいたのだ。
「我は闇魔法の使い手だからな。とはいえ、正体を見破られたのは意外ではあるが」
よく目をこらすと、わたしの足を黒い手が掴んでいた。これのせいで、わたしは動けなかったようだ。
ポーションブースト。
ポーションによって力を得たわたしは足を掴んでいた黒い手を力を込めて引き剥がす。
「我の束縛から逃れるか。だが逃がすか」
そう言って、ヘルメット男は無数の黒い手をつかってわたしに襲いかかってくる。
それを華麗にかわしつつ、わたしはヘルメット男へと突っ込んだ。
あと少しでヘルメットに手が届く――。
「え?」
ヘルメット男にあと一歩迫ったところで、体が前に進まなくなった。
見ると、無数の黒い手がわたしの体を四方から掴んでいた。
「惜しかったな。だが、我のほうが何枚も上手だった」
動けない……。ポーションブーストしようにも、手首をがっしりと掴まれていて飲むことすらできない。
「抵抗するだけ無駄だ。我の束縛地獄の刑から逃れられた者は過去に一人もいない」
「だから、舐めるなぁあああッッ!!」
瞬間、わたしの全身から体温が急激に熱くなり、体が真っ赤になる。
「まさか自分の体ごと爆発する気か!? それをすると、己も無事では済まないぞ……!!」
わたしの目論見に今更気がついたところでもう手遅れだよ。
瞬間、爆発音が響く。
わたしの体を中心に爆発が起きたのだ。当然、近くにいたヘルメット男も爆発に巻き込まれる。
白い煙が周囲を覆った。
ヘルメット男がどうなったかわからない。
ただ、わたしはこうして無事だ。
〈フェニックス・ヴィージュル〉を飲んで、火耐性を得ていたおかげだね。
「クククッ、まさか我の予想を上回るとはな。ますます我が組織にほしい人材だ」
ふと、声が聞こえる。
声のした方を見るも、煙が上がっているせいでよく見えない。
ただ徐々に煙は薄れていき、中に人影がくっきりと見えるようになる。
「――――――ッッ!!」
わたしは息を飲んでいた。
えっ、だってそんなことってある?
驚きすぎて言葉がでない。事態をすぐに飲み込めないわたしはパニックになっていた。
「どうした? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているが……ん――? あれ? あれ……? 仮面が……」
ペタペタとヘルメット男だったものは自分の顔を触っていた。
そう、爆発によってヘルメット男のかぶっていたヘルメットがひび割れて中身が露出していたのだ。
わたしはさっきあることを決意していた。
そのヘルメットを引き剥がして顔面をボコボコにしてやると。
てっきり、ヘルメット男の顔面は冴えない男のものだと思っていた。だって、ヘルメット男の声は低い男のものだったし、ガタイも大きくしっかりしていた。
けど、その予想は大きく違っていた。
「あわ……、ど、どうしよう……。仮面の予備を急いで、えっと〈アイテムボックス〉の中にあれ……? ない、ない、あぅーっ、家に忘れてきちゃったよぅ……」
かわいい。
目の前には白銀の長い髪の毛を垂らした幼女がいた。
大きな目は涙ぐんでいて、口はへの字に曲がっている。その姿は庇護欲をかき立てる理想の幼女だった。
家に連れて帰って部屋で飼いたい。
驚く事なかれ。
目の前にいるこの幼女こそがヘルメット男の中身だったのだ――!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます