―19― ヘルメット男
『ユメカちゃん、今時間は大丈夫?』
「はい、大丈夫です! リアンさん!」
部屋でゴロゴロしていたら、憧れのリアンちゃんから電話がかかってきたのた! 突然だったので慌てて電話にでる。
『ユメカちゃん、どうしたの? いつもよりぎこちないけど』
「えっと、この前なにも考えないでため口聞いちゃったんですけど、よく考えたらリアンさんはわたしの大先輩だから、敬語じゃないとマズかったよなーと思うに至りまして」
『えー、そんな気にしなくていいのに。前回みたいにフランクなほうがわたしはうれしいなー』
リアンちゃんマジ天使。
「リアンママー」
『わたしはあなたのママじゃないよ! え? ユメカちゃん今、ポーション飲んでいないよね!?』
「いや、流石にこの時間からは飲んでないよ……!」
流石にママ呼びは調子乗りすぎでした。反省します。
リアンちゃんとはあれ以来、連絡先を交換し時々会話する仲になったのだ。やったね。ユメカ、リアンちゃんと仲良くなれてうれしい!
「それで、以前コラボの件だけど」
「うん、どうなったの?」
リアンちゃんとチャットで会話していたときに、コラボできたらいいねって話になった。ただ、リアンちゃんの場合コラボする前に所属してるギルドに確認しないといけないとのことだった。
「ごめんね、ちょっと時間がかかりそうなの」
「え?」
「ほら、ユメカちゃんってポーションでラリるのが配信の売りでしょ? だから、うちとは合わないんじゃないかってマネージャーが懸念しているみたいで」
え……?
わたしの売りはポーションでラリることじゃないよ……。
「でも、安心して! わたしががんばって交渉してコラボできるようにするから!」
「あ、ありがとう……」
それからしばらく会話をしてリアンちゃんとの通話を終わった。
「あぁあああああああ!? わたし絶対、プラチナムハーモニーの人たちから危険人物認定されている!?」
わたしは叫びながらベッドでバタバタ暴れた。
そりゃあ、わたしはポーション中毒者だからね。
わたしがプラチナムハーモニーとコラボしたら、向こうにマイナスイメージを与えかねないよね……。
うぅ……なんか泣いちゃいそう。
「そういえば、さっき通知が来てた気がする」
そんなことを言いながらおもむろにスマートフォンを開く。
「うわっ、めっちゃ連絡きているんだけど!?」
予想以上の通知の数に驚く。
どれどれ……、えっ、なんかめっちゃ色んなギルドから勧誘の連絡がきてる!?
今は個人でやっているけど、確かにギルドでやっていくのもありなのかなー。
とはいえ、わたしが入りたいギルドはたった一つ!
「プラチナムハーモニーから、勧誘来てないかなぁー」
リアンちゃんも所属するプラチナムハーモニーは超人気事務所のため希望者は多く倍率はめちゃくちゃ高い。一度だけ履歴書送ったことあるんだけど、書類審査で落とされたんだよなー。
まぁ、でも今のわたしは時の人みたいだし、個人勢にしてはチャンネル登録者数多いし、勧誘がきてたら入ってあげないこともないかなぁ、なんてね。
「どれどれ……あれ、見当たらない。見当たらない。ない、ない、プラチナムハーモニーから勧誘きてないんだけど!?」
なんでぇええ、わたしほどプラチナムハーモニーがぴったりな配信者いないと思うんだけどー。
「えっと、他には……シャドウストームはけっこう上位のギルドだけど、わたしのイメージには合わないしなー。他は弱小ギルドだし、わざわざ入る旨みはないかな……」
ひとまずギルドの件は後回しでいいや。
◆
「おつゆめー! 今日の配信はおわりでーす! みんなー、次の配信も絶対に見逃すんじゃないぞ。もし見なかったらユメカ泣いちゃうぞ」
ふー、どうにか今日の配信ではポーション飲まなかったぞ。わたし偉すぎか!
【あれ? ポーション乱用は?】
【ポーション飲まないの?】
【ポーション枠楽しみにしてたんだが】
うっ、さっきからリスナーがポーション飲め飲めうるさすぎる!
確かに、ポーション飲んだ回のほうが再生数多いけど、もうユメカはポーション乱用しないって決めたんだから!
「んー、さっきからポーションって書き込みが多いけどー、ユメカなんのことはわかんなーい。ユメカは生粋のアイドル配信者だぞ。ポーション乱用なんて真似するはずがないのだ」
【は?】
【は?】
【なに言ってんだ、こいつ】
【いいからポーション飲め】
「うるさぁあああああい! ユメカはポーション断ちして、クリーンなアイドル配信者になるって決めたの! だから、お前らもこれ以上ポーションを飲めって煽るなぁあああ!!」
【え、やだ】
【ポーション断ちとか無理定期】
【今更、クリーンな配信者とかもう手遅れだぞ】
【アイドル……だと? いったいどこに?】
うぅー、だから、なんでユメカのファンはこんなのばっかりなんだ。
これ以上、配信続けてたら勢いに押し切られてでポーション飲んじゃいそうだし、強制的に配信をやめよう。
「おつゆめ~」と言いながら、ポチッ、と浮かべていた小型ドローンの電源を落とす。
ふぅ、どうにか今日一日、ポーションを耐えることができた。
「おっ、ようやっと配信やめたか」
「ふぅー、こっちは待ちくたびれたぜー」
ふと、ダンジョンの通路の奥から見知らぬ五人組の男がやってきた。
彼らも探索者のようで、剣を腰にぶら下げている。
「えっと、誰……?」
「よくぞ、聞いてくれた。俺たちは闇ギルドのファントムファルコン。聞いたことぐらいあるだろ」
「虹天ユメカ、お前が持つ格付けSSSのポーションをここに置いてきな。そうすれば、手痛い真似はしないからよぉ」
闇ギルド。
ようはスキルやアイテムを用いた犯罪組織のことだ。配信者は自分の居場所を常に晒すことになるので、こういう連中には常に気をつけなければならないって聞いたことがある。
彼は決まって配信終わりに襲撃するのだ。
まぁ、中にはジャミングを使って配信を強制的に終了させた上で襲撃したり、配信中でも顔が割れないように変装した上で襲撃するやからもいるらしいけど。
「わ、わかりました。ポーションを全部ここに置いていくので、わたしに手を出さないでください」
流石に、五人かがりでこられたら勝てるはずがない。だから、わたしは大人しく格付けSSSのポーションを彼らに渡そうとする。
ぶっちゃけ、格付けSSSのポーションを作ろうと思えばまた作れるしね。別にあげちゃってもいいや。
「聞き分けがいい女は嫌いじゃねぇぜ。さっさとここにポーションを置いてどっか行くんだな」
そういうわけでわたしは〈アイテムボックス〉からポーションを取り出そうとして、あれ? ここにきてもったいない気がしてきた。こんな非道な連中にポーション渡すぐらいなら、わたしが全部楽しみたい!
あぁあああ、でも戦うのは嫌だし、どうにかいい方法ないかな!?
よしっ、こっそりドローンで撮影でもしようか。それで、この映像を使って、彼ら
に交渉するとかどうだろう?
お前らの悪事はこのカメラでしっかり撮ったからな。バラされたくなければ、立ち去るんじゃ! ってわたしが言えば優位に立ち回れそう。よし、これでこっそりカメラは起動できたかな。
「ぐへっ」
突然、闇ギルドの一人が呻き声をあげて倒れた。
「おい、どうした!?」
「ぐはっ」
「な、なにが起きてる!? ぐへっ」
え? えっ? 混乱している間に次々と男たちが倒れていく。
「実に不快な連中だ。どうやら悪の美学というのがわかっていないように見受けられる。我が直接教育してやってもいいが」
艶がある低い声だった。ずいぶんと芝居がかった口調だ。
そこには、ヘルメットをつけた大男がいた。
そのヘルメットというのは、よくあるバイクを乗るときにつけるヘルメットとは異なり、真っ黒でいかにもな装飾が施されている不気味なヘルメットで、頭を守るというよりかは顔を隠すために身に着けているようだった。
そのヘルメットも十分おかしいが、男は黒い服にマントを身に着けていて、しかも、なぜか豪華な椅子に腰掛けていた。
「おい、こいつ噂のヘルメット男じゃねぇか!」
「ま、マジか!? 池袋ダンジョンで次々と探索者をボコボコにしてアイテムを略奪するという!? おい、お前ら逃げるぞ!!」
そう言って、闇ギルドの面々は次々と慌てた様子で逃げていく。
ヘルメット男も彼らを追うつもりはないようで、逃げていく彼らをただ眺めているだけだった。
「実に軟弱な連中であったな」
ヘルメット男はそう言った。
もしかして、わたしに同意を求めているのかもしれないと思い、わたしは「はぁ」と返事ともため息とも思えない声を発する。
「あ、ありがとうございます……その、助けてくれたんですよね?」
戸惑いながらもお礼を言う。一応、このヘルメット男が助けてくれたことに変わりはないんだよね。
「別に恩を感じる必要はない。我が手を貸さずともあの程度の連中、貴様なら簡単に制圧できただろうからな」
うぅっ、早く帰りたいんだけど!
なんなのこの人、めちゃくちゃ意味分からないし。
さっきの闇ギルドの人たちが言っていたことが本当なら、このヘルメット男も危険な人みたいだし、どうしたらいいんだろう!?
「天虹ユメカ、貴様のことを随分と探した」
な、なんでわたしの名前を知っているの!?
もしかして痛いファンとか!?
わたしってすごくかわいいし、こういう変なファンは湧いてもおかしくないのかな!?
「えっと、わたしになにか用事でもあるんですか?」
おかしな要求じゃなきゃいいけど。サイン欲しいとかなら、早くサイン渡してこの場から立ち去ろう。
「我が名はオールヌル。混沌を支配する者だ。貴様の動画を以前見させてもらって、我は大変感激した。そこで、貴様を我が作りし崇高なる組織、秘密結社ブラックリリィの末席に加えてやろう」
……や、ヤバい人だ!?
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