―03― ユメカ、ポーションを作る!
ポーションを作るには、鍋とかき混ぜるためのスプーン、それからお湯を温めるための熱源が必要だ。
そういった道具は捕まったときに没収されてしまったので、新しく買い直す必要があった。
視聴者からもらった投げ銭があるから、お金はなんとかなりそうだけど。
とはいえ、道具を揃えなければいけないので、一度配信を切って、翌日改めて配信を行なうことにした。
まずは、鍋と小型コンロを購入する。
鍋は使いやすければなんでもいい。持ち運びがしやすいキャンプ用の鍋を購入した。
次はコンロ。ダンジョンで鍋を沸騰させるだけなら、たき火でもいいんだろうけど、ポーション作りは火加減を繊細に調整しないといけないため、たき火よりはコンロのほうがいい。なので、これも持ち運びがしやすいキャンプ用の小型コンロを購入した。
かき混ぜるスプーンは魔力を流す必要があるため、専用のスプーンじゃないとダメだ。だからこれは少し値段が張るがポーションの調合専用のスプーンを購入した。ダンジョンが溢れた現代では、探索者用の道具が売っているお店はけっこう身近にあるため、簡単にみつけることができた。
あとは、完成したポーションをつめる空き瓶を購入すれば、完璧。
あとは、密造にならないように気をつけないと。以前は自宅でこっそりポーション作っていたせいで密造で捕まってしまった。
ひとまずダンジョン内で作る分には問題はなかったはずなので、ダンジョンで調合しよう!
「おはゆめー! 虹天ユメカの配信を今から始めようと思います!」
翌日、わたしは二回目の配信を始めた。
【待ってました!】
【おはゆめってなに?】
配信を始めたばかりだけど、コメントがちらほらある。この調子でファンを増やしていきたい。
「えっと、おはゆめというのは、ユメカ専用の挨拶です。その、ダンチューバーってみんなこういうのあるじゃないですか」
説明するとなるとちょっと恥ずかしい。けど、こういうの憧れていたんだもん!
【かわいい】
【いいと思う!】
視聴者の悪くない反応を見てほっと胸をなで下ろす。
「では、今日は予定通りポーションの調合の様子を配信しようと思います!」
うひょー、久々のポーションの調合。胸が踊るぜ!
「まずはお湯を沸騰させます」
コンロの火をつけて鍋を上にのせる。それから、自宅から持ってきてペットボトルの中の水を鍋にあける。
「鍋が沸騰するまでの間、スライムから余計な部位を取り除こうと思います」
念のため用意しておいた大きなまな板の上にスライムをのせて、短剣を使って解体していく。解体といっても、スライムなのでやることは単純。スライムの体内にある肝を取り除くだけだ。
スライムは体が透明だから、解体がけっこう簡単だ。
まぁ、ポーションの密造で散々やったことがある作業だから、慣れっこなんだけど。
【手際がいい】
【初めてとは思えない】
はっ!? 初心者探索者のわたしがこれだけ手際がいいのはおかしすぎるのかも!? なんかいいわけしないと。
「えっと、じつは実家が寿司屋でして、お魚の解体をしていたので、こういう作業が得意なんです~」
大嘘である。
わたしの両親は探索者だったので、寿司屋とはいっさい関係ない。
【納得】
【それで手際がいいんだ】
よしよしっ、視聴者をうまく騙せたようだ。
「鍋が沸騰したので、スライムを入れていきます」
鍋にスライムを入れたら、今度はスプーンでかき混ぜる必要がある。
このかき混ぜるという作業が調合ではもっとも肝心だ。
かき混ぜながら魔力を流し続ける必要があるのだけど、この際魔力は多すぎず少なすぎず常に一定を保つ必要がある。この繊細な作業が非常に難しいとされている。
懐かしいなぁ。ポーションを密造したとき、何度も失敗したっけ。
「今から集中してかき混ぜます」
スプーンを片手にそう宣言する。
【いつになく真剣なユメタン】
【がんばれー!】
ポーションの出来不出来はこのときに懸かっているんだ。
よしっ、魔力を常に一定に。よし……っ、よし……っ、良い感じ。
わたしの〈調合〉スキルはレベル9999だぞ。完璧に仕上げてみせる。
すると、鍋の中の色が青からピンクに変わっていった。よしっ、このタイミングを火をとめれば完成だ。
空き瓶に入れて、冷えるまで待てばポーションの完成である。
5分後、空き瓶を触るとすでに冷えているのがわかった。
「〈スライム一本締め〉の完成ー!!」
〈スライム一本締め〉。
スライムを素材に作ったポーションの名前である。
まろやかな口当たりが特徴で非常に飲みやすいポーションだ。個人的には、炭酸水で割るとおいしいんだよなぁ。
【おめでとう】
【おめ】
【初心者にしてはすごい】
【『10,000円』ポーション初調合記念に】
うれしい、投げ銭までもらっちゃった!
「では、早速いただきまーす!」
三ヶ月ぶりポーションだ。飲んだら最高にハイな気分になるんだろうなぁ!
【ダメ。今吸ったら、ポーション乱用になる】
【証拠も配信でとられているし、やらないほうが懸命】
え? 目の前にあるのに飲んじゃだめなの?
そういえば聞いたことがあった。
ポーションを必要以上に飲むことをポーション乱用といい、推奨されていない行為だと。ポーション乱用すると、ポーションの効き目が悪くなり、本当に必要なときにポーションの恩恵を得ることができなくなってしまう。
まぁ、わたしはポーション中毒者なので、すでにポーションが効きづらい体になっているんだろうけど。
とはいえ、アイドル配信者を目指す者としてポーション乱用するわけにいかない。
「あー、そうでしたー。ユメカ、うっかりポーション乱用するとこでした。指摘してくれてありがとうございます」
嫌だぁあああああぬ! ホントは飲みたいよぉおおおおおおお!
内心、絶叫である。けど、歯を食いしばってどうにか我慢する。
【うっかりユメタンもかわいい】
仕方がない〈スライム一本締め〉は〈アイテムボックス〉の奥深くに仕舞ってしまおう。
そう思って、手で持ちつつ思う。
あれ? 手が言うこと聞かない!?
まさか外部から特殊な攻撃を受けたかと警戒する。いや、特にそれらしいものは見当たらない。
じゃあ、なんで!?
あっ……!
そうか、わたしの手が反抗しているんだ。
ユメカ!! せっかくのポーションを飲まなくていいの?
そんな叫びがどこからともなく聞こえてくる。
本当は飲みたいよ……! けど、飲んだらダメなんだよ……!!
目の前にポーションがあるのに飲めないのがこんなに苦しいなんて!
【固まってどうした……?】
はっ!?
そうだ。今のわたしはダンチューバーの虹天ユメカ!!
この体はもうわたしだけのものじゃないんだ。
みんなの期待に超えるために最高のアイドルを演じるのよ!!
【息荒いけど、大丈夫?】
「だ、だだだ大丈夫れす。大丈夫……、大丈夫、ユメカは大丈夫です」
自分に言い聞かせるように唱える。
そう、わたしは大丈夫だ。
【せっかくだし、作ったポーションの格付け見せてよ】
ポーションには格付けというのが存在する。
同じポーションでも、格付けによって価値が変わるのだ。
この〈スライム一本締め〉でも、Fランクの〈スライム一本締め〉もあればAランクの〈スライム一本締め〉もあるといったように。
確か、一番下はFランクで最高はSランクだっけ? もちろんランクが高いほど効果も優れたものになるし味もおいしい!
格付けは〈鑑定〉を使えば、わかったはず。
自宅でポーションを密造していたとき、格付けってちゃんと調べたことがないんだよね。
だって、自宅でスキル〈鑑定〉を使うのは違法だから。まぁ、ポーションを密造しているわたしがなにを言ってるんだって話だが。
それに、飲んでしまえばおいしくできたかどうかなんてわかるしね。
今回は気合いをいれて作ったから、Sランクはあるかな。
「もちろん、いいですよ」
笑顔で了承して、ポーションの格付けをしようと〈鑑定〉を使う。
「では、〈鑑定〉を行ないますね」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
〈スライム一本締め〉
格付け:SSS
効果①:傷を回復する。
効果②:不明(格付けSSSなため隠し効果を獲得しました)
△△△△△△△△△△△△△△△
へー、格付けSSSかー。
たしかに、わたしの〈調合〉完璧だったもんなー。SSSなのも納得だ。
【は?】
【は?】
【は?】
【は?】
【は?】
【SSS?】
【うそ……?】
【いやいや嘘だろ】
【ん? なにが起きた?】
【SSSってありえなくない?】
【格付けSSSなんてあったっけ?】
【SSSって普通は作れないよね?】
【え? なにげにやばくね?】
【は?】
【は?】
【は?】
【は?】
・
・
・
あれ? みんなどうしたんだろ? さっきから不穏なコメントで埋め尽くされている。
「えっと、みんな、どうかしましたか?」
【格付けSSSのポーションは一流探索者でも作るのが難しい伝説のポーションだけど、どうやって作ったの?】
そのコメントがナイフのように鋭くわたしの喉に突き刺さった。
もしかして、わたしなにかやっちゃいましたか……!?
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