―04― ユメカ、謝罪する!
そもそも探索者じゃなかったわたしはポーションを簡単に手に入れることができなかった。
なんとか苦労してポーションを手に入れたとしても、そういったポーションの格付けはだいたいFやEとかばかり。
きっと、格付けがAやSのポーションは探索者が独占しているんだとばかり思っていた。
それを許せないと思ったわたしはポーションを密造することを思いついたわけだ。
ポーションについてなら詳しいけど、探索者についての知識はほとんどない。まぁ、ダンチューバーの配信を好きで見ているけど、いつもポーション飲みながら見ていたから記憶が曖昧なんだよね。
ともかく以上のことから、格付けSSSのポーションぐらい探索者なら普通に作れるんだと思っていた。
まぁ、どうやら違ったみたいですけどね!?
【格付けSSSのポーションは一流探索者でも作るのが難しい伝説のポーションだけど、どうやって作ったの?】
どうやって作ったって、普通に作っただけだけど!
な、なななななんて答えよう。
実は〈調合〉のレベル9999なんですーって、わたしが答えたとしよう。
そしたら、「どうやって初心者の探索者がレベル9999にしたの?」と絶対聞かれる。
そう聞かれたら「実はー、ポーション密造してたら、レベル9999になっちゃったんですー」って答えるしかない。
って、いえるかぁああああああああああああああ!?!?
ポーション密造してた犯罪者だってバレたら、ファンが一人もいなくなる。
せっかくがんばってファンを増やしたのに、全部だいなしだ。
【ずっと黙っているけど、どうした?】
【ユメタンが固まってる】
【どうした……?】
「SSSってなんですかー? ユメカよくわかんなーい」
必殺! とぼける!
もう全力で誤魔化すしかない。
【かわいい】
【かわいい】
【これは許した】
【ぐうかわ】
よしっよしっ、なんとかなったぁああああ!!
【は? 流石に無理あるでしょ】
【初心者がSSS級の探索者作れるわけがない】
【絶対になにかを隠してる】
【正直なことを言って】
あれれー? おかしいなー。なんか雲行きが怪しいぞー。
【よろしくニキ――――!!】
【ここがお祭り会場ですか?】
【SSS級ポーションを作ったってマ?】
【うぉおおおおおおおお!】
【悲報、初心者探索者がSSS級ポーション作ってしまう】
【SSS級ポーション作れるわけがないだろ!】
【こいつ絶対なにか隠しているな】
【初心者がSSSランクのポーション作れるわけがない】
【絶対、なにかした】
【嘘松乙】
【とんでもない嘘松が現れたと聞いて】
【嘘つくなよ】
【詐欺師かな】
【ふざけんな】
急にさっきまでの毛色の違う感想が大量に流れてきた。
同時視聴者数もさっきまで百人ぐらいだったのが、千五百人と急増している。
一体、なにが起きたの?
【どんZ板からきましたwwwwwww】
ふと、ひとつのコメントが目に入る。
どんZ、聞いたことがある。
どんZというのは、とある掲示板の名前だ。
どんZというのは略称で、正式名称は、どんな実況もしちゃいなZだったはず。
どんZは数ある掲示板の中でもっとも治安が悪い板として有名だ。挨拶代わりに殺害予告をするのは日常茶飯事。掲示板内での喧嘩がリアルの殺害事件に発展した事例は枚挙にいとまがない。
どんZの住民が世間に与える影響力は計り知れなく、彼らが一致団結すれば芸能人の1人を社会的に抹殺することもできるらしい。
どんZにあまり詳しくないわたしでも、この程度のことは知っているぐらい彼らは有名。
どうやらどんZでわたしに関するスレッドが立てられたせいで、コメントが荒れてしまったのだろう。
画面には【詐欺師】や【嘘松】といったコメントで埋め尽くされていた。
こうなってしまえば、どんなダンチューバーも終わりだ。
いや、あきらめるな! ユメカ!
わたしには夢がある。
香月リアンちゃんみたいなキラキラ輝くアイドル配信者になるんだ!
この夢のためならば、わたしはどんな努力だってしてやる!!
「み、皆さんを混乱させてごめんなさい……!」
この配信を見ている世界中の人々に届くように、わたしは感情を込めて謝罪する。
重要なのは涙だ。
泣かれたら、誰だって罪悪感を覚える。
それも美少女の涙だ!!
いいか、美少女の涙は何者にも変えられない価値があるんだよ!!
「でも、ユメカ……っ! 本当になにもわからなくてっ。たまたまポーションを作ったら、SSSランクのポーションが作れちゃっただけなんです」
涙をポロポロとこぼしながら、そう告げる。
見ろ! この美少女の名演技を!
「なんでSSSランクのポーションが作れたのか、ユメカもわかんないです……っ。でも、ユメカが初心者の探索者だってことは信じてください!! 決して、皆さんを騙そうとしたつもりなくて、ただ、ユメカはみんなを笑顔にしたくて配信を撮っているだけなんです。だから、どうか皆さんユメカのことを信じてください!!」
全身全霊をかけて、わたしはそう叫ぶ。
どうだ……?
視聴者にわたしの言葉が伝わったか……?
【ごめん】
【ごめん】
【ごめん】
【荒らしてごめんなさい】
【ユメカの顔を見て嘘ついてないって確信したよ】
【詐欺師って言ってごめんなさい】
【『3,000円』ごめんね】
【『3,000円』お詫びに】
【『2,000円』すまない】
【『3,000円』申し訳ない】
【『4,000円』ごめんなさい】
【『10,000円』これで涙拭いて】
【『1,000円』少ないけど、お詫びに】
【『3,000円』嘘松っていってごめん】
【『5,000円』謝って済む問題じゃないかもだけど、お詫びに】
・
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フハハッ、どうだわたしの名演技。
うまいことコメントの雰囲気を変えることができた。それに投げ銭もたくさんもらえたし。うはーっ、おいしすぎる!
やべー、心の中の笑いがとまらん。
やっぱりかわいい女の子って正義かな? わたしの視聴者ちょろすぎぃ!!
まさか、こんなにもダンチューバーの才能がわたしにあったとは。知っていたらもっと早く始めてたんだけどなー。
「みなさん、ありがとうございます。ユメカとってもうれしいです……っ。これからもがんばってダンジョン配信をしていきますので、応援よろしくお願いします」
せっかく視聴者が増えたんだ。このチャンスを逃すわけにいかない。
視聴者をファンに取り込むために、涙を指で拭って、最高の笑顔を見せるんだ。
【かわいい】
【かわいい】
【天使かな?】
【ファンになりました】
【好きになりました】
【これが恋か……?】
【推しになりました】
【チャンネル登録しました】
【推しが見つかってしまったかもしれねぇ】
【『5,000円』ファンになました】
【『5,000円』一生ついてきます】
【『5,000円』これでおいしいご飯でも食べて】
【『10,000円』ダンジョン攻略に活用してください】
【『1,000円』応援してる】
【『50,000円』】
【『4,000円』応援する】
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投げ銭がさっきからとまらない。
今日だけでどれだけの額を稼いだんだろう。けっこうな額を稼いだに違いない。
これなら当分の生活もなんとかなりそうだ。
とはいえ、浮かれるより先に、ファンたちにとびっきりの笑顔を見せないとね。
「みんなユメカのために、ありがとう!!」
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