23話 映画

 とある休日、俺はあるアニメ映画を観に行くために、映画館へ向かっていた。

 俺が観る映画は、基本アニメ映画だ。今日観る映画は、少しSF要素を含んだ感動できるラブコメ作品である。


 映画館は大型商業施設にあることが多いが、映画館だけ何か雰囲気が違って、入るたびにワクワクする。少し暗い感じなのが、そう思わせるのだろうか。


 俺はチケットを買い、まだ時間があるのでグッズやポスターなどの掲示物を見ることにした。そう思って、グッズ売り場の方へまず向かおうとすると、見知ったある美少女を二人発見した。


「あれっ、月見里さんと篠崎さん?」


「あら、春風君じゃない。これまた奇遇ね」

「春風君こんにちは。春風君も映画観に来たの?」


 月見里さんと篠崎さんも、どうやら映画を観にきていたようだ。俺が挨拶すると、月見里さんと篠崎さんは俺を見て、軽い挨拶をする、


「月見里さんと篠崎さんは、一緒に映画を観に?」


「いや、私たちもたまたまよ。春風君といい、世間は狭いわね」


 俺が質問すると、月見里さんが少し可笑おかしそうに答える。月見里さんと篠崎さんも、偶然だったようだ。



「ところで月見里さんと篠崎さんは、何の映画を観に?」


 俺が続けて質問すると、まず月見里さんが答えた。


「私は、最近公開されたアニメ映画ね。ちょっとSF要素が入っていて、面白いし」


「マジ? 俺もその映画観にきたんだよ」


「やっぱり、春風君もこの映画は観るのね」


「もちろん。月見里さんもオタクになってきて、非常に嬉しいぜ」


 月見里さんも、俺と同じ映画を観るようだ。俺が色々と布教したのもあって、月見里さんもすっかりオタクになっている。



「篠崎さんは?」


「えーと私はこれ……」


 篠崎さんは、近くのポスターに指を差しながら、少し恥ずかしそうに答えた。


(おおう……)


 俺は心の中で驚く。篠崎さんが指を差したポスターを見ると、軍服を着た有名な俳優が写っている。どうやら、戦争ものの映画のようだ。


「篠崎さんって、こういう映画も観るんだね」


 俺がそう言うと、篠崎さんは、また少し恥ずかしそうな様子だった。


「ストーリーもいいと思うけど、俳優さんも結構好きだから……」


(篠崎さんって、こういう顔がタイプなのかな……というか、当たり前だけど俺とは違うぐらいイケメンすぎる)


 何だか少し、ショックを受けた俺であった。



◇◇◇



 せっかくだから、という事で三人で一緒に映画を観ることになった。まず俺と月見里さんが観たい作品を観て、次に篠崎さんが観たい作品を一緒に観ることになった。


 

 俺と月見里さんが観たかったアニメ映画は、原作ファンも納得するクオリティで、原作を読んでいたのに少しうるっときてしまった。


「あ~やっぱよかったなぁ。というか、篠崎さんからの提案だったけど、何か改めてごめんな。アニメの続きからだから、分からない事もあっただろうに」


「全然大丈夫だよ。せっかくなら三人で観たいっていうのもあったし、初めて観てもある程度分かったから。全然楽しめたよ」


「そっか。なら次は、篠崎さんのターンだな」


 篠崎さんが少し楽しめたか疑問だったが、聞く限りでは十分楽しめたようだ。よかった、と胸をなでおろす。



 次は篠崎さんのターンで、篠崎さんが観たかった戦争ものの映画を観ることに。

 普段はこういった作品を見ないが、今の平和な世の中や恋愛についても深く考えられる作品だった。

 たまには、色々なジャンルを冒険してみるのもいいな。


 「春風君は、私の観たい映画で楽しめた?」


 篠崎さんが、少し心配そうに俺の顔色を窺ってくる。月見里さんはトイレに行ったので、今は俺と篠崎さんの二人きりだ。


「楽しめたよ。こういう作品も、色々とテーマとかメッセージとか感じられていいね」


「春風君って、創作者気質だよね」


「そうかな? 色々な作品を読んだりしてる中で、ちょっと変わったのかなぁ」


 最初はただ面白いか、というだけで楽しんでいたのだが、キャラや設定の良さ、伏線など、色々な見方があって面白いことを知った。


「月見里さんも、春風君と同じ感じだよね」


「確かに。月見里さんの場合、頭が良すぎて凄そうだけど」


 何か物凄い考察とかしてそう。それに、頭が良い人はまた違った見方をしていたりもするからなぁ。


「いつの間にか、春風君と月見里さんは仲良しになっているし」


「それは色々あったからなぁ。あと、月見里さんは意外と面白い」


「ふふっ……それは確かに」


 冷徹みたいなイメージを持たれがちの月見里さんだが、意外とツッコミをしたり、ボケたりもするので面白い。



 そういった話も楽しいは楽しいが、俺は前の勉強会の話が気になっていた。

 篠崎さんの過去に何があって、青春活動部にいる理由は何だろうか。


「……前の勉強会の時の話の続きを、今聞いていい?」


「……いいけど、私の話はそんなに面白くないよ?」


「別に面白くなくていいよ。ただ、俺が知りたいだけだから」


 俺がそう言うと、篠崎さんはゆっくりと語り始めた――



「私はね、中学時代にいじめられていたの。きっかけは、些細なモノだったと思う。私が少し目立っていたのが、原因だと思う」


 篠崎さんは、真面目で色々な人から頼られていた。また清楚で美人なので、モテる。同性からも異性からも人気があったのが、篠崎さんだった。

 だからこそ、俺や月見里さんのように妬まれることも多かったのだろう。


「私は、中学時代の春風君に憧れてたんだよ? ひっそりとだけど」


「えっ」


 篠崎さんが語る事は、予想外の話で。中学時代の俺に言ったら、さぞかし驚くだろうな……


「春風君はさ、クラスとか野球部の中心だったでしょ? 野球部の事も噂で聞いたけど、春風君は悪くないと思っていたし、そこまで行動できるのが凄いなって」


「今はちょっと違うけどな」


「でも私は、ただ憧れていただけなんだ、って分かったの。色々疲れちゃって、きっと空気みたいな普通の人に、なりたかったのかな……」


「その気持ちは、ちょっとわかるな」


 俺も昔、自分自身の行動を悔いた。そして自分を閉ざそうとした。けど、自分自身を縛る事は出来ないと気付いた。


「春風君とかと同じ高校なら、何か変わるかなっていう甘い考えを持ってたし。ただ青春活動部で繋がりができて……今は嬉しいよ」


「俺も、今は青春を過ごせていて楽しいよ」


 そう話しながら、二人で笑い合う。ゆいねぇが言っていたように、青春活動部が居場所となっている。


「二人ともごめんなさい。トイレが混んでいたのと、ちょっと迷子になっていた子供がいたから、近くの店員さんに色々と話していて遅れたわ」


 月見里さんが俺たちに合流して、篠崎さんとの会話は打ち切りになる。

 篠崎さんの意外な過去を知れて、また一つ関係が進んだ気がする。


「子供も助けちゃうのが、月見里さんらしい」


 俺はそう笑いながら、今の幸せをかみしめた。

 昔の俺よ。今現在、青春を謳歌しているぞ。


 




 

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