22話 王様ゲーム

 春もいつの間にか終わりを告げ、梅雨のジメジメとした感じがうっとおしい時期になった。


「なー相棒よ。最近は何もないなぁ」


 部室で眠そうにしていた大紀が、ふと俺に話しかけてきた。


「確かに、この時期は何もないよな」


 入学してから色々な事があったが、テストも終わったからか、ここ最近はゆったりとした時間を過ごせている。

 そもそも梅雨の時期は、雨ばっかりで何か気分が落ち込むし、これといったイベントもない。イベント真っ盛りの春と夏に挟まれた、可哀想な時期なのである。


「せっかくなら、皆で何かゲームでもする?」


 課題のチェックが終わったのか、ゆいねぇが身体を伸ばしながら、俺たちに提案する。最近は職員室じゃなく、ここで作業するようになってきた。


「ゲーム! いいですねゲーム! ゲームゲーム! 私、ゲーム好きだよ!」


 柚葉先輩は、ゲームという言葉に身体が反応したのか、過剰な反応をする。ここまで来ると、もはや怖い。


「そうね……親睦が深まって、誰でもやれるもの……あっ、王様ゲームとかどう?」


「王様ゲーム? それって飲み会とか合コンとかの影響受けてるんじゃ……って痛い! 痛いって!」


 俺はただ思ったことを言っただけなのに、なぜ殴られなきゃいけないんだ。完全に図星じゃねぇか。


「合コンとかでやるような悪ノリは、基本禁止。あくまで楽しみながら、皆の秘密を知ろうという会よ」


「なら、いいか。うん、秘密……?」


「でしょ! 本当に言えない場合はしょうがないけど、色々な恥ずかしい事が知れたり……」


「よし、俺たち生徒だけでやろう」


「何でよ!」


 ゆいねぇが王様になったら、絶対面倒くさい。この人、性格悪いからな。



「先生泣いちゃう」


「あんたは仕事しろ」


「課題のチェックは終わったもん。一組だけ……」


「だったら、まだあるね? 職員室で、頑張って真面目に取り組もうね?」


「は、はいぃぃい……」


 俺は何とかゆいねぇを退場させることに成功し、無事に今日も部活の平和を保つことができたのであった。


「雄哉、って強いんだな」


「まぁ、ちょっと関係が長いもんで」


 大紀、そんな事で俺を尊敬しないでくれ。


「常盤さんが言っていたわ。同じ団地に住んでいたのでしょう?」


「そうそう。月見里さんの言うように、団地で関りがあってね」


 ゆいねぇが俺の扱い方をわかっているように、俺もまたゆいねぇの扱い方を分かっているのだ!



◇◇◇



 準備を終えた俺らは、早速ゲームを開始することにした。じゃんけんで勝った順から順にくじを引いていき、王様と書いているくじを引いた人が文字通りの王様である。その他のくじには、番号が書かれている。


「最初は、私が王様なのね」


 最初の王様は、月見里さんのようだ。俺の引いたくじは、二番。王様を除いて五人なので、当てられる確率は五分の一か。


「じゃあ、二番に黒歴史でも語ってもらおうかしら」


「二番は俺だよ。まさかいきなり当てられるとは……」


「春風君なのね。ちょっと失敗したわ。過去の話は前に聞いたし」


「おいこら。失敗って言うな」


 五分の一だからと安心していたのに、いきなり当てられてしまった俺は、中学時代の出来事を話すことに。

 大紀や月見里さんは知っているし、篠崎さんも噂とかで知っていそうだが、先輩たちは知らないのでセーフだろう。


「雄哉君にそんな過去があったとは……隠していたりして、水臭いなぁ」

「春風にも、そんな辛い過去があったのか。皆、大変なんだな」


 俺の話を聞いて、柚葉先輩と晴馬先輩はとても驚いている様子だった。


「最初に春風を見た時の違和感は、こういう事だったのか。この部活に入部する以上、何かあるとは思っていたが……」


「えっ、晴馬先輩は何か違和感を感じていたんですか?」


「何か無理をしているような気が少ししてな。関係を避けようとしているみたいな」


「うわっ、それは恥ずかしすぎる」


 俺って、やっぱりわかりやすいのか……何かショックだなぁ。



 そして二回目。王様は晴馬先輩で、俺の引いた番号は一番だ。


「じゃ、じゃあ一番に聞く。異性のタイプは?」


「あ、あっ俺です」


「そ、そうか」


 いや何でまた俺なんだよ。晴馬先輩は、俺が一番だと分かると少しがっかりする。おいっ、落ち込むな! 晴馬先輩は、柚葉先輩について聞きたかったとは思うけど!


「難しいですけど、やっぱり一緒にいて楽しい人がいいですよね」


 俺が無難な回答をすると、月見里さんや大紀など、皆不服そうな表情を浮かべた。


「それは、誰の事を浮かべているのかしら?」

「うわっ、雄哉逃げたな」

「雄哉君は、臆病だなぁ」


 月見里さん、大紀、柚葉先輩の三人は、俺の無難な回答が気に入らなかったのか、もっと詳しく聞こうとしてきたり、色々と文句を言われる。


「はいはい! これ以上の質問や文句は受け付けませんよ!」


 あれ、俺だけ損してない?



 三回目。俺は今回も王様を引けず、また一番を引いた。今回の王様は、柚葉先輩だ。


「え、えと三番に質問で、今好きな人っている?」


 あっ、柚葉先輩もまた姑息な手を使おうとしている! 柚葉先輩も晴馬先輩も似た者同士だな。

 何はともあれ、今回は俺が当てられなかったので、内心ホッとする。


「あ、私です」


 柚葉先輩の狙いも虚しく、三番は晴馬先輩ではなくて篠崎さんだった。俺としては、篠崎さんについて詳しく知らないし、篠崎さんの方が気になる。


「三番は花ちゃんか。好きな人って、いる?」


「……いますよ」


「えっ!? 誰か凄い気になる! どんな人?」


「それは内緒で」


「流石にそこは内緒か~」


 篠崎さんは、好きな人がいる――


 その事実に、俺は少しショックを受ける。俺という男は、本当に情けない奴である。


(そりゃ、好きな人ぐらいいるよな……)


 柚葉先輩にも気にしなくていいとは言われたけど、体育祭での碧の事もあったし、何だか答えを迫られているような気がする。


(好き、って改めてどういう感情なんだろうな……)


 俺は悩み過ぎて、恋愛についてよく分からなくなっていた。可愛い子を見れば可愛いと思ったりもするけど、好きという感情には結びつかない。


(大切にしたい、ずっと一緒にいたい、もっと触れ合いたい……恋愛って、こんなにも重くて、難しいものなんだろうな)


 俺はそう思いつつ、もっと考えていかなければならないと思った。答えが出た時、俺はいったい何を思っているのだろうか。未来の事は分からないが、自分自身が納得出来て、自信を持てていたら良いな、と強く思った。



 ちなみに王様ゲームはその後、俺が一度も王様を引けずに終わった。大紀に本気の物真似をしろ! と言われたり、一発芸をしてみて! と散々だった。


「結構盛り上がって楽しかったなぁ。雄哉もそう思うだろ?」


「うるせぇぞ大紀。あーほんとに何で俺ばっかりなんだよ……神はいないのか」


「夏休みとかも、こうして遊んだりして楽しみたいよな」



 ――夏休みか。中学時代は、野球や受験勉強でそんなに楽しめなかったけど、今年はまた変わった夏休みが過ごせそうだ。


「私も楽しみだよー! ゲームいっぱいできるし」


「柚葉先輩は、ゲームしか頭にないんですか」


「また一緒にやろうね。夏休みだから、永遠にやれる!」


「流石に勘弁してください」


 柚葉先輩のゲームの腕前は凄くて勉強にもなるし、面白いは面白いんだけど、一日中やるのだけは、勘弁してほしいものである。


「雄哉さ、夏祭りとかいいんじゃねぇ?」


 大紀が提案したのは、市内の歴史があって、規模も大きい夏祭りだ。俺も昔、碧と昇と一緒に行った記憶がある。


「夏祭りか。確かに良いな」


 他の皆も夏祭りについては好印象だったので、夏休みに行くことが決定した。せっかくだし、昇や碧も誘ってみよう。


 夏休みはまだ先だが、とても楽しみだ――









 



 


 

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