19話 体育祭③
体育祭も午前の部が終わり、昼食休憩となった。俺、昇、碧のいつものメンバーと、月見里さんと大紀の五人で昼食を食べる事となった。
篠崎さんや先輩達も誘おうと思ったが、篠崎さんは先客がいる様子だったし、先輩たちは、何か二人でイチャイチャしていたから、誘うのをやめた。
ちなみに柚葉先輩はともかく、晴馬先輩は運動音痴なので、綱引きの後ろでただ立っていただけなのが面白かった。
「そういや、大紀は何の種目で出るんだっけ?」
俺は、コンビニで買ったおにぎりを食べながら、大紀に質問する。
「俺は、玉入れだけだよ。でも相棒のカッコいい所は見せてもらったから、満足してるぜ」
「てめぇまで弄るのかこの野郎!」
「春風君は、玉入れの競技は見てなかったみたいだけどね?」
「月見里さん、それは反則です」
大紀と月見里さんも、話すようになってから仲良くなったなぁと思う。最初は、金髪ヤンキーと完璧な冷徹美少女と思っていたけど。
大紀は見た目に反して凄く良い奴のイメージだし、月見里さんは意外と面白いことを言ったり、オタク的な面もあってギャップがある。
「そういや、四人はこの後リレーに出るんだろ?」
「ああ。大紀は他のクラスだけど、ちょっとは応援してくれよ」
大紀の言う通り、俺たち四人にはこの後リレーが控えている。体育祭の最後にして、一番盛り上がる競技だ。
「クラスで仲が良い奴とかいないし、お前らを全力応援するぜ」
「大紀……嬉しいけど、心配なのだが」
「まぁ見た目がこれだからな。でも、雄哉たちがいるから大丈夫だわ」
確かに大紀の見た目だと、なかなか近づこうとは思わないだろう。でも接してみると、知らない一面が見えてくるので、大紀の良い所も皆に知られていけば良いな、と思った。
「大紀が本当はいい奴って、布教しておくな」
「いくら相棒でも、恥ずかしすぎるからそれはやめてくれ~!」
ふん、いじられたそのお返しだ。
◇◇◇
昼食休憩が終わり、応援団や運動部の対抗リレー、紹介などが行われる。これからの時期に行われる、総体や夏の大会の応援も兼ねている。
「碧、お前も行かなくてもいいのか?」
「うん。今回はここでお留守番」
俺と碧は話しながら、運動部が紹介されているグラウンドを見る。昇を見ると、ユニフォームに背番号1が刻まれている。
「昇の奴、いきなりエースか。やっぱ期待されてるんだな」
「まぁ、ユウと昇の二人の実力がおかしいんだけどね?」
「夏の大会は、応援行くよ」
「うん、待ってる」
昇や碧のように、俺はもう野球に携わってないが、応援には行くつもりだ。俺自身もよく理解しているが、やっぱり応援は力になる。
「それと、もう一つ」
碧は、少し俺の方に身体を寄せて耳元で囁く。
「どうした?」
「ユウに……あとで話したいことがあるから、体育祭が終わったらさ、少し時間ちょうだい?」
「分かった」
俺は親友からのお願いに、力強く返事をした。
◇◇◇
催しも終わり、体育祭の競技もいよいよリレーを残すのみとなった。
まず女子のリレーが行われ、最後に男子のリレーが行われるといった感じだ。
俺と昇は、リレーに向けて身体を少し動かしながら、女子のリレーを応援する事にした。
「昇、勝率はどれぐらいだと思う?」
「そうだな……俺たちのクラスは、あまり運動部の女子がいないから、かなり厳しい戦いになると思う」
碧と月見里さん以外の二人の女子は、文化部の子だ。リレーに出場するくらいなので、足が遅いわけではないとは思うが、かなり厳しい戦いにはなると思う。
ちなみに月見里さんは第一走者で、碧はアンカーだ。二人とも、特に重要な役割を任されている。
(二人とも凄く気合が入っていたし、きっと大丈夫……)
俺は心の中でそう思いながら、勝つことを信じる。
そしてパンッ! というピストルの音がグラウンドに鳴り響き、まず月見里さんがスタートする。
月見里さんは、スタートも完璧で他の第一走者よりも足が速い。一気に独走状態となって、バトンは第二走者へ。
その後、第二走者と第三走者が月見里さんのリードを何とか保ちつつ、アンカーの碧にバトンが渡る。
「碧っ、頑張れ!」
つい俺も大きい声が出てしまった。碧はリードを活かして逃げていたが、徐々に二組のアンカーに差を詰められていく。昇が言うには、陸上部の女子らしい。
「何とかこらえろ、碧!」
碧は抜かれそうになりつつも、何とか一位をキープしてゴール前の最終コーナーへ。ゴールは、すぐそこまで来ている。
しかし、二組のアンカーにコーナーを上手く使われて、碧はついに抜かれてしまう。
リレーは、一度抜かれると抜き返すのは難しい。もう一度抜き返す事は出来ず、先に二組の方から歓声が上がる。
それから碧は、月見里さんに慰められながらクラスの席に戻ってきた。
「惜しかったけれどね……」
月見里さんは少し気まずい様子で、俺たちに話しかけてきた。月見里さんの隣にいる碧は、とても悔しかったのか目に涙を浮かべている。
「しょうがないよ。二組のアンカーは、陸上部の女子みたいだったし、強かった。碧は本当によく頑張ったと思う」
俺はそう言って、碧を慰める。実際碧も、今はマネージャーだし、リードが少しあったとはいえ、陸上部とほぼ互角なのは本当に凄いと思う。
「ユウ……そんな慰めいらない」
「慰めじゃないって。労いと本音だ」
「俺も雄哉の言うとおりだと思うぞ。碧は頑張ったんだし、責める奴もいないよ」
「分かってる。分かってるけど、やっぱ悔しい……負けちゃったなぁ」
碧はそう言いながら、悔しい気持ちを抑えて自虐的に笑う。
「雄哉、これは女子の分も背負って勝たないとな」
「ああ昇。絶対勝とう」
そして俺らは、泣いている親友に
「「俺らが勝つから、しっかり見とけよ!」」
と言って、入場門の方へ向かった。
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