18話 体育祭②
「緊張してる?」
二人三脚の準備で紐を結んでいると、こそっと月見里さんが話しかけてくる。別に緊張するつもりではなかったのだが、大勢の人に見られていると思うと、何だか心拍数が上昇している気がする。
「何か急に緊張してきた。でも、碧たちに負けたくないから頑張るしかないけど」
「ちなみにだけど、同じクラスのペアと争っても意味はないわよ?」
「それは盲点だったわ」
俺ら一年生のクラスは、全部で5組。二人三脚は基本7レーンなので、余った2レーンはどこかのクラスのペアになる。碧たちと一緒に走る事は確定していたので、頭から抜け落ちていた。
「まぁ一位になる方が、気分的にも嬉しいと思うけれど」
「それはそうだな。結構練習したし、大丈夫と思いたい」
流石と言うべきか、常に完璧であり続けている月見里さんは何かかっこいい。それに俺としても、練習した分があるので勝ちたいという気持ちはある。
そして、いよいよ俺たちの番がやってきた。チラッと碧と昇の方を見ると、目が合って少し笑う。
「よーい……ドンッ!」
先生の合図と共に、俺たちは一斉にスタートする。練習通りに上手くスタートできた。
「「イチ・ニ・イチ・ニ・イチ・ニ」」
最初はあまり息が合わなかったが、今となってはピッタリだ。この調子でいけば絶対勝てる、と俺は思った。
「「ユウ・クソ・ユウ・アホ・ユウ・バカ」」
しかし、碧と昇のペアも息がぴったりでなかなか差が広がらない。あと息を合わす方法はもっとなかったのかよ。雑にメンタルを揺さぶってくるな。
そこから横に並ばれ、抜きつ抜かれるのデットヒートが繰り広げられる。有馬記念の名シーンかよ、などと思いつつ、ゴールが見えて最後の気力を振り絞る。
そして勝ったのは――
◇◇◇
「はっはっは! 昇も碧もまだまだだぜ」
かなりの接戦だったが、ほんの少しの差で俺と月見里さんが勝った。なので、絶賛調子に乗っています。褒められると伸びるタイプです。
「あ~ユウに負けたの悔しいっ! あともう少しだったんだけどな!」
碧はそう言いながら、とても悔しそうな様子だった。
「それにしても、掛け声はどうにかならなかったのか?」
「別に私たちの勝手じゃん。ユウのバカ~!」
「何だとごらぁっ!?」
体育祭が始まる前までは、微妙になっていた俺らの関係。まだどこかギクシャクしていて、どこか避けているけど……碧とは、こういった関係の方が似合う。
「雄哉も碧も子供だな」
「ほんと、村山君の言う通りだわ」
そんな俺らを見て、少し笑う昇と月見里さん。そんな楽しい関係が、とても心地よく感じた。
「「高校生は、子供です~!!」
俺と碧は、そう言いながら見つめ合って笑う。大人になるまでに、楽しんでおかないと損だもんな!
◇◇◇
二人三脚を終えた後、俺は一人で借り物競争の準備をする。この競技は、毎年面白いお題が出されたりして、非常に人気の競技らしい。
とりあえず変なお題が来なければ良い……と思いつつ、緊張しながら入場する。今度の緊張は、冷や汗の方だけど。
俺の出番は二番目なので、最初の出番に参加している人たちを待機しながら、じっくりと見ることにした。
なかには、先生を呼んでいる子もいたり、異性の子を呼んで歓声を受けている子もいたりと様々である。
ゆいねぇも、ある男子生徒と一緒にゴールテープに向かって走っているのが見えた。
お題は分からないが、本当は自堕落そうな人とか、本当は性格が悪そうな人とかだろうか。てかそもそも、借り物競争ではなくて借り人競争では?
俺はそう思いながら、最初のレースが終わったのでスタートラインに行く。チラッとゆいねぇに何か睨まれた気もするが、俺の心が読めているわけもないと思って、気づかないふりをする。
「生徒会主催の借り物競争第二レース……スタートっ!」
合図と共にスタートし、まずはグルグルバット十回。碧とふざけてやっていたりもしたので、俺としては運が良かった。いやどこで運使ってるねん。
その後、縄跳びの駆け足跳びとサッカーボールのドリブルをなんなくこなし、最終関門のお題ゾーンへ。
「箱から一枚引いてください~!」
俺は、生徒会の生徒が持っている箱から一枚紙を引く。このために、俺は今まで爆死してきたんだっ! と強く念を込めて、自分の右手を信じた。爆死した場合は、生徒会に殴りこんでやろう。
そして俺は緊張しながら、閉じられている紙を開く。そこには、『大切な人(解釈自由)』と書かれていた。いや解釈自由、ってなんだよ。勝手にカップリングを楽しもうとするな。
俺は脳内でツッコみながら、お題について考える。よし、ここは最初に頭に浮かんだ人にしよう。俺はそう決意して、俺たちのクラスの応援席に向かった。
「碧っ、来てくれ!」
俺は碧を呼んで、碧の手を引く。一部のクラスメイトから歓声が上がったが、今は気にしないでおく。
「えっ、ユウ!?」
「お前が変な態度するから、一番最初に浮かんじまったじゃねぇか。やっぱ無難に昇にしとけばよかったかな」
そしてゴール前の判定員にお題を見せる。おそらくこの子も、生徒会に所属している生徒だろう。
「ううむ……
いやフレンチのように堪能すんな、と思いつつ、俺は一位でゴールすることができた。
ゴールした後、俺は碧と駆け寄ってきた昇にお題を聞かれる。
「笑うんじゃねぇぞ……大切な人、っていうお題だった」
俺は照れながらも、碧と昇にお題を言った。
「もうユウのバカっ~!」
「はははっ! 相変わらず雄哉らしいなぁ」
碧は笑いながらも少し怒りつつ、昇は俺らしいと爆笑する。
「だから笑うなって言っただろ……」
「ごめんごめん。でも嬉しいよ。ユウが大切に思ってくれて」
「まぁ、親友だからな」
「おいおい雄哉、俺の事も忘れないでくれよ? 愛しのチューをしてくれても、良いんだぜ?」
「昇はちょっとやかましい」
きっと俺らは、今後も何やかんやで仲が良い関係が続くだろう。
そしてまた、俺らの思い出の一枚が増えた。 体育祭で撮った写真は、三人とも満面の笑顔だった。
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