2章 華の青春?

14話 ここから

 昼休み。俺は、碧と昇と三人でいつも昼食を食べているのだが、今日からは違う。



「ねぇ、春風君。私も混ぜてもらってもいいかしら?」



「相棒! クラスで孤立している俺も混ぜてくれ」






 今日からは、月見里さんと大紀が加わり、傍から見れば物凄い面子になってしまった。何このキャラが濃すぎるグループ……ヒーローもびっくりだよ。



 クラスメイトの反応は、思った通りで俺たちを見ながら、コソコソと話している。





「ここで、このグループのリーダーであるユウからひと言」




「おい碧、ちょっと待て。勝手にリーダにするな」





 しばらくはこの感じが続きそうだな。まぁ、いつかは落ち着くとは思うが。

 

 そういえば、大紀と月見里さんにも、昇を紹介しとかないといけないな。碧とは休日の一件で関わったけど、昇はいなかったし。




「あっ、月見里さんと大紀にも改めて紹介しとくな。こいつは、村山 昇。野球部の期待の逸材だ」



 すると昇が、



「なぁ雄哉。碧から少しは聞いたが、どうなってるんだ?」




 と俺に問いかけてくる。昇も休日の一件の事は知りつつも、まだ何かよくわかっていない感じだった。




「俺も怒涛の展開で疲れてるところだ。野次馬とかは、しょうがないけどな」




「そんなもの、勝手に言わせておけばいいのよ。私は、ずっと月見里 芽衣という完璧な女子を保ってきたから、別になんてことないわ」




 月見里さんは、とても強い。全く、メンタル弱々な俺とは大違いだぜ。





「でも実際完璧じゃないか?」




「そんな事ないわよ。私だって苦手な事はあるし、遊びたいわよ。部活中にも、ライトノベルとか読んでるし」




「え、そうなのか!? 太宰治とか芥川龍之介じゃなかったか……」





 月見里さんも年相応と言うか、ちゃんと一人の女の子なんだな。はっ、これがまさしくギャップ萌えとかいう奴か……!

 




「私を何だと思っているの。最近、ライトノベルにハマったのよ。読んでみると、かなり面白かったから」





「だろ!? 月見里さんもぜひオタクの道へ」






 本当にライトノベルって最高ですね。この調子で、月見里さんを沼に引きずり込もう。とりあえずおすすめ作品を、いくつかピックアップしとくか。





 そう話しているうちに、昼休みが終わりそうだったので、俺は残っていた昼食を急いで食べた。



「碧、午後からの授業何だっけ?」




 俺は碧に、午後からの授業について問いかけた。

 時間割って、なんでこんなに覚えないんだろうね。勉強についてもそうだが、俺の頭が不要なモノと判断しているのかもしれない。結論、俺は悪くない。





「今日は、ずっとホームルームだよ。ほら、体育祭がもうすぐあるから。朝も先生が言ってたでしょ?」





「あ、そっか。じゃあ、教科書いらないな」




 うん? そんな話してたっけ? 毎度のごとく、全然聞いていない俺でした。

 それよりも来週のマンガの展開の方が、気になるんだもん。













 この学校では、珍しく春に体育祭がある。代わりと言っては何だが、秋には球技大会があるらしい。

 いやそこまで運動しなくても、いいじゃないの? ただ授業が潰れるので、全然良いんだけどね? 運動の方が得意ではあるし。





 体育祭が迫っていることもあってか、今日は体育祭のメンバーを決めるらしい。男子は昇、女子は篠崎さんが中心となって決めていくらしい。







 男女で別れた後、俺は体育祭の競技を改めて確認する。

 綱引きや玉入れ、男女混合の二人三脚に借りもの競争、騎馬戦やリレーなど、いかにも普通の体育祭という感じだ。最低一種目の出場が、必須という事らしい。




 まぁ気楽に、玉入れとかでいいか……と思っていると、昇が




「雄哉には、たっぷりと出てもらうからな?」



 と、俺の心を見透かしたのか、俺を脅してくる。 


 やめて! 俺はか弱い男の子だよ!





「昇さん、そんな怖いこと言いなさんな。男前が台無しですぜ」





「うるせぇ。お前はかなり運動もできるし、主力にならないと困るんだよ」




 ちっ、ここにきて中学の運動した貯金がデメリットになりやがった。運動だけは、ある程度得意だったから、しょうがないといえばしょうがないのだが。




「それで? 俺は何に出場すればいいんだ?」




「そうだな。二人三脚と借り物競争の枠が空いているから、その二つかな。あとリレーな」




「おい、めちゃくちゃ労働させるじゃねえか」




「じゃあ全部出場するか?」




「はい、黙って昇さんの言葉に従います。よろしくお願いいたします」



 そうやって、話しながら出場競技を決めていると、碧と月見里さんが俺の方に近づいてきた。






「ユーウっ! ユウは何に出るの?」



「俺は、二人三脚と借り物競争、リレーだな」



「いいじゃん! 昔のユウみたいに活躍して、目指せ人気者!」



「別に人気者になりたいわけじゃねぇよ」



 まぁ昔の俺なら、とても気合が入っていたと思うけどな。今はただ、楽しい青春を過ごそうと思っているだけだし。




「でもいいじゃん。ユウもさ、楽しもうね?」




「そうだな。前に進むと決めたし、せっかくならとことん楽しむか」




 体育祭は、高校生活の中でもかなり大きいイベントだし、楽しまないと損である。




「それで、碧と月見里さんは何に出るんだ?」



「私は、綱引きと二人三脚とリレー! えーと月見里さんは……」




「私も似たような感じで、玉入れと二人三脚とリレーね。それで、春風君に頼みたい事があって」




「え、何?」



 碧も月見里さんも運動神経が良いので、色々な競技に出場するみたいだな。というか月見里さんからのお願い? 何されるの?





「何怯えてるのよ。二人三脚のペアになってくれないかしら、という普通のお願いよ。男女混合だし、気軽に頼める人があまりいなくて」




「何だそんな事か。全然いいよ」



 するとそんな俺らを見た碧が、




「こ、これは強敵だなぁ。じゃ、じゃあ私は昇と組もうかな」



「お、おう?」



 と言いながら、また女子の集まりの方に向かっていった。




 二人三脚については、俺も碧ぐらいしか組む候補が思いつかなかったので、とても助かった。

 何だか碧は、少し動揺した様子みたいだったけど気にしすぎだろうか。何かあったら言うだろうし、ただの勘違いか。





「そういえば春風君って、好きな人はいるの?」





「いないよ。というか、恋愛の事なんて全然考えてない」




 俺は、月見里さんの質問に少し嘘をついた。 いや、悩んだ自分を認められなかっただけかもしれない。



 ずっと俺は、篠崎さんが好きだと思っていた。でも碧や月見里さんが、少し脳裏に浮かぶ。

 


 もしかして俺は、悩んでいるのか? そういった自分が、少し信じられなかった。




「そう。好きな人がいれば、少し申し訳なかったけど……気にする必要はなさそうね」




「気にする?」




「この二人三脚、組んだペアは高確率で結ばれるという伝説があるらしいの。でも好きな人がいなければ、大丈夫ね」



 なんだそのチャラい男女が好きそうな都市伝説は。そもそも組んでいる時点で、できていたりするんじゃないのか。




「月見里さんは、大丈夫なのか?」




「私も、好きな人は今いないわ。今後できるかもしれないけど」




「そっか。じゃあ体育祭の時はよろしくな」




「ええ。私も楽しむ予定だから、春風君もよろしくね」








 


 どうやら体育祭は大変なことになりそうだ。ただ、高校生活初めての大きいイベントでもあるし、楽しもうと思う。前に進むことを決めたから。




 それより、俺には気になる事ができた――



 





 ずっと奥手で、逃げてきて、自分には関係ないと思っていたある問題があった。






 俺って、結局誰が好きなんだ?


 






 

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