13話 リベンジ

 俺、碧、大紀、月見里さんの四人は、中華料理屋で夕食を一緒に食べることに。運が良いことに空いていたので、すぐに座れることができた。




 各々注文し、頼んだ料理が来るまでの間、雑談することとなった。話題はもちろんと言うべきか、月見里さんについてだ。俺は、



「月見里さんって、いつも一人だけど……避けていたりした?」



と、思っていたことをそのまま質問した。




「ええそうよ。昔、ちょっと嫌な事があってね」




「よければ、教えてもらっていい?」




「……わかったわ。これは、昔の話よ」




 そして、月見里さんが語り出した――










「私は昔から何でも出来て、凄く期待されていたの。将来は、弁護士とか医者、スポーツ選手に学者……将来は安泰だ、とか色々な事を言われたわ」




 いかにも月見里さんらしい話だ。勉強も運動もできる月見里さんは、とても期待されていたのだろう。俺も、野球については褒められていたので、少し気持ちが分かる。




「別にその期待とかは、単純に嬉しかった。でも、だんだんと私の周りは変わっていった。親は、私の将来を勝手に決めようとしたり、何をやっても当たり前と言われるようになったりね」




 俺も、どこかで線を引いていたのかもしれないな。

 月見里さんなら、何をやっても当たり前だと、俺も少し思っていた。月見里さんなら、勉強も運動も出来るのだろうと、決めつけて。その裏には、すさまじい努力があると言うのに。







「私はね、普通の人のように、学校生活をそれなりに楽しめれば良いと思っていたのよ。時にはふざけて、友達もある程度いて。でも、私は大人から期待されて、同級生からは“天才”という称号だけ与えられて」





 それは、月見里さんらしい想いだった。期待されるからこその重圧が辛く、他の人はただ外面だけしか見てくれない。





「だから私は、自分から線を引くことにしたの。完璧な、月見里 芽衣という一人の人を演じることにしたのよ。常に求められている事を、やるようになった」





 俺は人付き合いを避け、大紀は逆に仲間を欲し、月見里さんは自分から線を引いた。三者三様だが、似た者同士でもある。難しい人生の壁にぶち当たった、ただの不器用な人間である。








 ここで注文した料理が来て、話は中断となった。腹が減っては、喋りも出来ずという事だ。




 ちなみに大紀がラーメンと炒飯、月見里さんが酢豚定食、碧が餃子と天津飯、俺がラーメンと焼売、ご飯という布陣になっている。

 何だか、性格が表れているようで少し面白い。






「ねぇ、ユウ。私の餃子と焼売をトレードしない?」




「元からそのつもりだったよ。碧には、大きめの主砲の焼売をあげよう」




「じゃあ私は、この一番小さい餃子をあげる」




「おい、俺の優しい気持ちを見習えよ」




「え~小さくても活躍する選手もいるじゃん。まっ、一番大きい奴じゃなければ、何でも良いよ」




「主力は、ちゃんとプロテクトしててわろた」





 すると、この様子を見ていた大紀と月見里さんが




「なぁ、お前らって夫婦か?」


「あなた達、付き合ってるの?」



 と俺たちに向かって言う。俺は、




「そんなに俺たちって、付き合ってるように見える?」





 と質問すると、大紀も月見里さんも頷く。それはもう、何のためらいもなく良い頷きでした。





「碧は、俺の数少ない親友だしな」




「ユウがね、どうしても私と仲良くしたがってたからね」




「おい、記憶を捏造するな」



 そもそも最初は、孤立していた碧を救おうとしてたんだぞ。

 するとその話が気になったのか、月見里さんが




「もしよかったらでいいけど、春風君の昔の話も教えてくれるかしら?」




 と問いかけてきた。大紀も、





「俺も気になるな、雄哉の話」




と加担してくる。大紀も、かなり興味津々のご様子だ。





「食べ終わったら、話すよ」




 俺は、過去の自分を乗り越えるため、二人にも昔の事を話すことにした。懺悔、というような感じだろうか。














 そして食べ終わった後、大紀と月見里さんに中学時代の出来事を話した。ちなみに俺と碧は、食後のデザートを楽しんでいる。




「まとめると、そんな感じかな。月見里さんが壁を作ったように、俺も作ってた感じかな」




「そう、なのね……私も、一人が気楽とか色々自分を騙そうとしたわ。でも、やっぱり嘘はつけないわね」




「結局、俺たちは不器用だからな」




 結局、自分の本質は変わらない。




「でも今日からは、雄哉も月見里も常盤も、全員、仲間で友達だ」



 大紀、お前……女子の怖さを知って、馴れ馴れしくなくなってやがるっ! しれっと、名字呼びにしてる! 




「私なんかでも、大丈夫かしら」




 月見里さんは、少し不安そうに俺たちに向かって言う。




「大丈夫だよ。俺も大紀も碧も、ちゃんと月見里さんを知ってるから」




「ありがとう。じゃあ、これからもよろしくね」




 こうして俺たち四人が、仲良くなった一日だった。















 








そんな大変だった土曜日の次の日、そう日曜日である。

 今日は、ゆっくりしようと心に決めていた。昨日も大変だったし、明日は魔の月曜日だからな。





俺は、昼頃に起きてパンを食べる。こういう時って、果たして朝食なのか昼食なのだろうか。


 携帯を見ると、色々と通知が来ていた。月見里さんからは、改めての感謝のメッセージ、碧と大紀からは、昨日の事を労うメッセージが来ていた。


 また、ゆいねぇからのメッセージも来ていた。確認しようとすると、インターフォンが鳴った。




「はいはい、今行きますよっと」



 モニターを確認すると、ゆいねぇが玄関前で立っていた。メッセージを急いで確認すると、今日家に行くね、というメッセージだった。





 そして玄関のドアを開けて、ゆいねぇを家に入れる。



「ゆっくん寝てたでしょ? 生活リズムは、ちゃんとしないとダメだよ?」




「休みなんだから良いでしょ。ゆいねぇこそ、何か用?」




「私は、ちょっと買った食材が余ったからさ。おすそ分けしようと思っ……」




 楽しそうに喋るゆいねぇが、俺を見て固まった。そこで俺は気づく。



「あーこの顔の絆創膏ね……隠してもしょうがないから、言うよ」





 そして、昨日あった事を正直に話した。うん、普通にめちゃくちゃ怒られた。普段温厚なゆいねぇだけど、怒る時は結構怖い。




「今回は良かったけど、こういう事は本当危ないからね」




「分かってるって。でもゆいねぇも、困ったら助けてくれるでしょ?」




「そんな悪い女みたいに言わないでよ、それに、無理な時もあったりするんだから」




 ゆいねぇは怒りつつも、少し笑っている。まるで、中学時代のあの出来事の時のようだった。




「それが、ゆっくんらしいと言えばそうなんだけどね。それに、何だか仲も良くなったみたいだし。何より、ゆっくんが変わった」




「ゆいねぇも、前に進めって言ってたしさ。結局、俺は俺なんだなって」




「私としては、前のゆっくんも可愛くて良かったけどね?」




「あっ、ひどい。せっかく前に進んだら、またこんな事言われて」




「うそうそ。ゆっくんは、今の方がカッコイイよ」



 

 ゆいねぇは、俺を見つめながらで、優しい言葉を俺にかけてくれた。ゆいねぇも学校で人気が凄いぐらい、美人である。なので、真剣にそう褒められるのは何だか照れる。



 てかそもそも、俺って女性への耐性だけ欠けてる?


















 そんな休みを過ごしての月曜日の朝は、いつもより憂鬱ではなかった。新しい学校生活にワクワクしているのか、過去の自分と決別できたからか。






 俺はいつも通り登校して、いつも通り教室に入る。

 ただ、全てがいつも通りではない。今日は、月見里さんが挨拶してくれたから。




「おはよう、春風君」



「おはよう、月見里さん」






 クラスがかなりザワついた気がした。でも、俺はもう気にしない。




「ここからしばらくは、騒がしくなりそうね」




「そりゃ、そうだよな。まっ、野次馬は大紀に追い払ってもらえば、良いさ。あいつの見た目は、強烈だからな」





 こうして、俺は新しい青春を過ごすこととなった。見てろよ、昔の俺。絶対リベンジしてやるからな?












 






 






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