12話 仲間

 月見里さんの事を助けることにした俺らは、急いで月見里さんがいる方に向かう。




「やめてください。警察呼びますよ!」




「ここら辺は、道も入り組んでいるから便利なんだよなぁ。それに、警察呼んで助かると思ってる?」




「まぁ、一応携帯は預かりまーす」




「ちょ、ちょっと! や、やめて……」










 少し会話が聞こえて、俺は中学時代の事を思い出す。あの時も、チームメイトに酷く腹が立って……色々やっちゃったんだよな。


 

 でも親友を助けられたから、後悔している気持ちはあまりない。

 月見里さんが、この事がきっかけで壊れてしまうのも許せない。俺は、苦しむ人をもう見たくない。














「救世主の大紀様、さーんじょうっ!」




「おいそんなカッコつけるなよ。恥ずかしいだろ」





 俺と大紀が、月見里さんがヤンキー集団に絡まれているところに行くと、大紀がとてもノリノリにセリフを決める。そのノリ、ちょっと恥ずかしいんだが。






「あ? 何だお前ら。この女の知り合いか?」



 ヤンキーたちは、少しイライラしている様子だった。月見里さんは、




「なんで……なんであなた達がいるの? それに、関係ないじゃない」



 と俺たちを突き放すように言う。ただ顔は暗く、声も少し震えている。





「そうだぞ。お前らは、帰りな?」




 ヤンキーたちも、俺たちを邪魔もの扱いしてくる。顔は笑っているが、これ以上邪魔をしたら何をするか分からない顔だ。

 逆に笑ってるけど、怖い奴な。まるで、ミスを怒る監督みたいだ。諭すタイプって、特に怖いよな。







 まぁヤンキーたちが油断しているのは、俺たちには好都合だった。もっとイラつかせてやるか。




「何だ、俺たちにビビってるのか。四天王とやらも大したことないな」




 そうやって俺が煽ると、ボスらしき男が、俺の腹を狙って殴ってくる。

 俺はあえて避けずに、攻撃を受ける。




「ぐっ……お前も大した事ねぇなぁっ!」



 正直めちゃくちゃ痛いのだが、何とかパンチを受け止めて、腕を掴む。時には、やせ我慢も必要なのだ。




「ちっ、何する気だ」





「喧嘩とかの争いで、先手を取る事が重要だよな? でもお前は、まだ甘い」



 先手を取れれば、最初にペースを握る事ができて、有利に進めることができる。野球の試合でもそうだったし、喧嘩でも同じことだ。





「何が言いたい?」




「いいか? 相手に勝ちたいときはな、まず急所を狙うんだよっ!」




 そして俺は、相手の股間を思いっきり蹴った。少し油断させて、股間を蹴る。これ、男に勝つときの必修だからな。特にか弱い皆さんは、覚えておくように。




「て、てめぇっ!」



 すると、今度は二番手っぽい奴が殴りかかってくる。不意打ちで、俺は少し顔を殴られる。





「流石にボスの奴よりは、強くないな。お返しだ」




 さっきのパンチに比べれば、楽なものだった。お返しに、右ストレートをお見舞いする。チームメイトを倒した、伝家の宝刀である。





「あーあ、気絶しちゃったよ。おいボス、まだやるか?」




「く、くそっ!」




 すると大紀が、



「こっちの雑魚二人は、倒したぞ。これで形勢逆転だな」



 と気絶した二人を、俺に見せてきた。




「お、流石金髪なだけあるな」



 大紀は、見た目通りの強さだったみたいだ。これで、俺も一安心する。ちゃんとヤンキーだったのねあなた。




「元々、喧嘩は数多くしてきたからな」




 ボスの男は、仲間が倒されて、少し驚きの表情を浮かべた。まさか自分達が、追い詰められるとは思ってなかったのだろう。ただ、俺たちを見るなり




「へっ、喧嘩では負けたよ。ただ、これで終わると思うなよ?」



 と脅してくる。絶対殺してやる、という怖い目つきをしていた。ただ、ここまでも俺の予想通りだ。俺は確認の意味も込めて、




「それがお前にできるかな?」

 


 と問いかける。するとボスの男はニヤッと笑って、




「分かんないのか? ここには証拠が残っていない。すなわち、お前らが喧嘩を仕掛けてきたと言えば、大丈夫なのさ」




 あぁ、やっぱりだ。お前も、昔のチームメイトと同じだな。悪い奴らって、考える事はほぼ同じなのかね。




「大丈夫だよ。俺の友達が、離れたところで一部始終を撮ってるからな。それに一応だけど、俺の携帯でも音声は撮ってある」



 すると、ボスの男の笑みが消えた。そして、絶望するような表情へと変わっていった。悪いな、その手は学習済みなんだ。





「まぁお前が何しようが勝手だけどな? 今度、俺たちに何かしたら……ただじゃすまねぇからな?」



 俺がそう言うと、ボスの男は何も言わずに、ただ頷くだけだった。何度も言うけど、後悔するぐらいなら悪いことをやるな、ってな。








 一件落着して、碧が俺たちに近づいてくる。



「ユウ―! 大丈夫だった!?」



 碧がとても心配そうな顔をしていたので、



「心配すんな。余裕だよ、余裕のよっちゃん」



 と、俺は明るく振る舞う。碧には、特に心配させたくないしな。




「でもちょっと、顔のところに傷がついているよ?」




「それぐらい、唾で大丈夫っしょ」




 どうやら、殴られたときに少し顔を擦りむいていたみたいだ。 

 すると、ずっと黙っていた月見里さんが




「ちゃんと手当しときましょう。近くに薬局もある事だし、絆創膏を買ってくるわ。春風君は、トイレで傷口を洗ってきて」


 と言って、月見里さんは薬局の方に向かっていった。




「お、おう」


 

 俺は戸惑いながらも、傷口を洗うためにトイレに向かった。あれ? なんか違和感が……



















 

「ほら春風君、顔向けて」


 近くのトイレで傷口を洗って、月見里さんの方に向かうと……何これ? 今どういう状況? 俺はなんで優しくされてるの? 助けたから?





「あ、ありがとう」


 月見里さんも美人なので、俺は照れてしまう。あと、碧と大紀に足を踏まれているのはなんででしょうね? ごめんね、主役奪って。




「感謝するのは、私の方よ。でも、何で助けてくれたの?」



 月見里さんの表情は、疑問と後ろめたさが混ざったような表情だった。




「別に、たまたま見て無視できなかっただけだよ」




「無視しても良かったのに」




「そう言いながらも、怖かったんだろ? 身体震えてたぜ」




「そ、それは!」



 強がる感じも、月見里さんらしいと思った。それに、月見里さんが後ろめたさを感じる必要もない。

 助けた理由も、決まっているから――









「だって俺らは、仲間だからな。なぁ、大紀?」



「おう。その通りだ」



「私も、月見里さんの事は放っておけないし!」



「三人とも、本当にありがとう」





 俺たちと月見里さんは少し関係が進展した。


 俺も、嫌な自分と決別できた。疑心暗鬼になり、精神もボロボロになった中学時代。そして、そこから人と関係を避けるようになった時。ただ、もう過去を振り返るのはやめた。俺も、前を進む時だ。




 結局、自分の気持ちに嘘はつけないからな。



 

  









「ていうか、本当腹減ったな。雄哉、ラーメンとか食いに行かねぇ?」



 もう夜になってしまったので、大紀が一緒に夕食を食べよう、と提案してきた。

 俺も久しぶりに動いたので、流石に腹が減った。



 

「何か食べに行くのは、ありだな。碧も時間とか大丈夫か?」




「私の家庭は、そこら辺緩いから大丈夫~! 月見里さんも大丈夫?」




「え、ええ。私も大丈夫」


 碧も月見里さんも、この提案に乗ってくる。




「よし、勝利後の宴だ! 行くぞ!」




「喧嘩するとテンション上がるんだな、大紀って」



 喧嘩をすると、主人公キャラのようになる大紀君でした。









 その後俺たちは、ここからあまり遠くない中華料理屋に行くことを決めた。




「やっぱり、ユウは昔の方が人間らしくて好きだな。静かモードもよかったけど」



「人をロボットみたいに言うな」



 何だかそう碧に言われると恥ずかしいな。

 まぁ俺は、その時の感情とかに動かされるチョロい人間だろうな、と思う。最初のうちのやる気は凄いが、すぐ違うものに興味を持ったり、よく三日坊主になるからな。





「でも急所を狙うところは、イマイチだったかなぁ」




「うるせぇ。勝負は、どう相手を上回るかだぞ」


 

 俺としては、勝負に卑怯も嘘も全然ありだ。勝つためだったら、何でもする。こら、恋愛だけは奥手とか言わない。





「雄哉の技、俺も参考にするわ」





「お、いいぜ。でも喧嘩するのは、もう嫌だけどな」






 そして皆で笑い合う。月見里さんも我慢ができなかったのか、少し笑っていた。月見里さんも、こういった柔らかい感じの方が良い。





「いいじゃん。月見里さんは、笑っている方がいいよ。間違いなく」




「……」


 すると月見里さんは、何も言わずに俺の方を見てくる。と言うか、睨まれてない?




「ユウって、こういうところあるの。たちが悪いでしょ?」




「ナチュラルに出来るのが、雄哉の恐ろしさだよな」




「え? 俺なんか変な事言ったか?」


 

 俺はただこっちの月見里さんの方が、良いと思ったのだが……





「ユウは、本当鈍感だからね。しょうがないよ」




「流石、雄哉の長年の親友だ。面構えが違うな」





 何で、親友と相棒にぼろくそ言われないといけないんだよ。俺、今日は頑張ったぞ。





 





 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る