11話 過去を屍に

 碧と遊んで後は帰るだけ……と思っていたら、駅で大紀と出会ってしまった。前世はメンヘラ彼女の金髪ヤンキーこと、大紀である。何か面倒なことにならねぇよな?





「大紀じゃねぇか……何していたんだ?」




「ああ、ちょっと野暮用でな。雄哉は、楽しくデート中か?」




「デートじゃねぇよ。碧はただの友達だ」


 

 相変わらずというべきだろうか。俺と碧は、どうしてもカップルに見えるらしい。





「それにしても、今日は知ってる奴とよく会うな。俺の交友関係から考えると、驚きだぜ」




「うん? 何かあったのか?」




「いやな? ついさっき、駅の近くで月見里の野郎を見たんだよ。何してるかは知らないが、ここら辺は大きい書店や塾とかもあるから、そういった用事だろうけどな」




「月見里さんか。てか、大紀も市内とかは詳しいんだな。確かに言われると、塾とかもよく見かける気がする」




「……まぁ、昔はよく来てたからな」



 考えられる用事も、月見里さんらしいと思う。俺が外出するのは、碧とかと遊んだりする事が大半なんだけどな。

 

 

 学年トップの学力だから、凄く真面目なんだろうと思う。

 それに学校全体でも、かなり上位かもしれない。頭が良い人は、勉強する速度も速いだろうし、すでに高校三年生とかで習う事を勉強してそうなイメージだ。


 


 


 また、それとは別に何故か大紀が色々詳しいのが、何か引っかかった。

 別に市内に詳しい事は、おかしくないと言えるが、何か考えるような顔をしたというか。


 

 普段の大紀は、どこか楽観的で、深く考える様子も見なかった。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。いや、それは流石に考えすぎか? 気にしないでおこう。








 こうして俺と大紀で話していると、隣にいた碧が、俺の服のすそを引っ張ってきた。





「どうした碧?」




「月見里さんは、たぶんまだ近くにいるでしょ? ちょっと気にならない?」




「気になるって?」




「月見里さんは凄い人だよ。でもさ、いつも一人だし何かあると思うでしょ? 月見里さんを見つけて、尾行したら何かその秘密みたいなのが、分かるんじゃない?」




「おっ、雄哉の親友の碧ちゃんは良い事言うね」




「お前は、名前で呼ぶな。股間蹴り上げるぞ」




「雄哉、何で女子はこんなに怖いんだ?」




「それは、大紀のせいだと思うぞ。自業自得だ」




 確かに、月見里さんについて気にならないと言えば、嘘になる。

 けど、他人のプライバシーにまで入り込んでもいいのだろうが、という気持ちもある。



 それに、知らない方が幸せな事だってある。知らぬが仏、という言葉もあるぐらいだからな。






「やっぱり、月見里さんにも知られたくない事はあるんじゃないか? もし、変な秘密でも見たりしたら……」




「俺だって別に、悪巧みとか嫌がらせしようとか、そんな悪い事は考えてねぇぜ? まぁ悪い事してたら、問いただしたりはするかもだけどな。ただ俺はな、分かり合えると思ったんだ」




「分かり合える?」


 

大紀から出た言葉は、とても意外で予想外のものだった。





「雄哉や月見里、花ちゃんや先輩たちだって、言えない事もあるだろうよ。ただ俺はな、仲間が欲しかったんだよ。雄哉や月見里と違ってな」




「大紀、お前まさか」




「俺さ、仲間だと思ってるぜ。青春活動部の皆をさ。だからさ、皆で仲良くしたいんだよ」





 いわば、大紀は俺と真逆の人間。俺が過去の事から、人に深く関わらなくなったように、大紀もまた何かがあって、仲間を欲していた。




 だから最初の時も、強引に――




「元々そんなキャラじゃないのにな。ちょっと、無理したわ」



 

 似た者同士、ってそういう事だったのか。

 何か変わった過去があって、今がある。そういった、不器用で人生とやらに失望した奴らの集まりなのかもしれない。




「私は、ユウに前も言ったみたいにさ、月見里さんは良い人だと思うんだ。何も分からないかもしれないけどさ? 別に偶然、ってことで話しかけてみても良いし」




 自動販売機の出来事を思い出す。月見里さんは碧だけでなく、俺もちゃんと見てくれていた。




 ここまで二人に言われてしまうと、断る理由もなくなってしまった。

 月見里さんは何故いつも一人なのか? もしかすると、俺と同じような理由があって……



 それに俺と似ているなら、月見里さんも誰かを求めているのではないか? 



 そうやって色々考えていくうちに、月見里さんの事が放っておけなくなった。




「ま、まぁそこまで言うならな?」



 すると大紀は、満足そうな顔をして



「流石、俺の相棒だな。じゃあ早速、月見里を追いかけるぞ。多分、道的に書店の方に行ったと思う。奥の方だな」


 とノリノリで話してくる。




「相棒、っていうのやめろし。大きい書店のところか。品ぞろえ良いし、発売日に売ってるから、俺もよく行くわ」



 ここら辺は、商店街もあってにぎわっている。今の時代からすると、珍しいかもしれないな。


 新しい店や昔なじみの店など、色々な店があるのだが、一つ大きい書店がある。駅からもそう離れてなく、歩いて行ける距離という事もあって、便利だ。


 

 田舎では珍しいことに、品ぞろえも豊富で、発売日当日に販売してくれるのが特徴である。


 俺もライトノベルや漫画など、よくここで買ったりしたものだ。最近は通販や電子が多めになっているが、たまに本屋で色々探してみるのも楽しい。




「よし、じゃあ行くか! 二人もついてこい!」




「何で、ちょっと大紀が偉そうなんだよ」











 


 

 



 そして、俺たちが走って書店の方に向かっていると、すぐに月見里さんを発見することができた。そこまで距離も離れていなかったみたいだった。



 俺たちはバレないように程よい距離を保ちつつ、月見里さんがある程度見えるぐらいの距離で尾行することにした。




「大紀の言った通り、書店に向かっているみたいだな。月見里さんの読んでいる本とかも、そういえば知らないな」




「そ、そうだな。というか雄哉さ、速すぎじゃね? ちょ、ちょいたんま」



 大紀と碧の事を、気にしつつ走ったつもりなんだけどな……もう少し、スピードを落とすべきだったか? 

 どうやら、まだ脚力はそんなに衰えていないらしい。




「さ、流石ユウだね。走攻守揃ってただけある」




「野球辞めてから、流石に少しは落ちたけどな。昔、必死に練習した貯金がまだあるみたいだ」

 


 現に今は運動していないし、食生活などもあまり気をつかっていない。ゆいねぇの助けもあって少しはマシだが、自炊もしなくて甘いもの大好きマンだからな。



 引退選手が急に太るように、俺も大人になったら、急に太るのかもしれない。その時は頼んだぞ、未来の俺。





「ゆ、雄哉って元野球部だったのか。もしかして、そこで何かあったりしたのか?」




「まぁな。それより今は、月見里さんだ」


 


 

 すると、月見里さんが誰かにぶつかったのが見えた。何だか柄の悪い男で、他にも何人か引き連れている。見た感じだと、四人か。



「やべぇな。あいつら、有名なヤンキー集団だ」



「大紀は知ってるのか?」




「あぁ。それに、俺らの学校でも話題になってたぞ。市内の方に、喧嘩をするヤンキーがいるとか何とかで気をつけろって。主に金目的らしいが」



「それは知らなかった」



 決して、帰りのホームルームに寝ていたわけではない。ただ、考え事をしていただけだ。アニメの事とか、ゲームの事をね!




「御大層に“四天王”っていうあだ名もあるらしいぜ。四人いるだろ?」




「流石金髪ヤンキーなだけあって、詳しいな」




「まぁ、喧嘩しないとは言い切れねぇ」



 忘れかけていたが、大紀はヤンキーである。さっきの話もプラスして、大紀は良い奴という印象になったが、一応ヤンキーである。金髪である。ヤンキーである。以下略……





 


 そうやって話していると、月見里さんと男たちが色々と言い合う様子が見えた。そしてリーダー格らしきの男が、月見里さんの手を引っ張って、どこかに連れていく。



 ここで俺は、とある事に気づく。



「なるほどな。ここら辺は、商店街とかで道が入り組んでいるから死角も多い。ヤンキーにしては、賢い作戦だな」




「ど、どうするユウ? 警察とか呼ぶ?」




「いや、ここら辺は昔からの店が多いし、近くに交番も見たことない。だとすると、警察を呼んでも多少の時間がかかる……」



 俺は、ふと中学の出来事を思い出す。あの時も大人に頼ろうとした昇を振り払って、色々とやらかしたんだよな。 



 大人を頼れ、とか、ある先生から言われたけど、俺はいまいちピンとは来なかった。こういう時だけ、綺麗ごと並べてんじゃねぇってな。





「まぁ雄哉の言う通り、時間は少しかかるよな。人数的な差もあって、かなり危険な状態になる」




 中学の出来事で、碧はイップスになった。

 ただ、イップスという精神的な問題な事だけで、食い止められたとも言える。


 

 


 もちろん精神的な問題を軽視するつもりはないが、もし少しでも遅れていたら……碧はもっとひどい事になっていたかもしれない。

 もしかすると、一生立ち直れないぐらいになっていたかもしれない。




 中学時代の、昇や碧の言葉を思い出す。ゆいねぇが怒りつつも、昔の俺を肯定してくれたのを思い出す。そして、大紀の言葉を思い出す。




 月見里さんとは、そんな深い関係でもない。

 でも、大紀が言うように同じ部活の仲間でもある。そして何より、放っておくことはできない。


 


 だって、月見里さんは仲間だから――






 結局、俺は中学時代の自分のままか。人付き合い避けるとか、言っておきながら……結局気にしているんだから。






「なぁ、青春活動部って何かと融通が利くんだっけか?」



 俺は、大紀に問いかける。



「あっ、ああ。俺も言えたもんじゃないが、ゆいゆいには助けてもらった事もある。先輩達も、そう話していたな」




 ゆいねぇ、悪い。何かあった時は、助けてくれると信じて甘えさせてもらうぜ。部活に入る時に言ってたこと、忘れてないからな。




「碧、警察に連絡する準備しておいてくれ。基本的には、証拠として動画を撮る感じで良い。危険だと思った時に、連絡してくれれば構わない」






「ユウ、まさか」



 碧は、俺がやろうとしている事をすぐに察したみたいだ。




「碧、迷惑かけて悪い。結局、俺は俺だった」




「そういったユウも、私は好きだよ。中学の時も、私を助けてくれたし」





 そして俺は、大紀に話しかける。







「なぁ大紀。お前、その見た目で喧嘩が弱いとかないよな?」




「へっ、こちとら負け知らずよ。そういう雄哉こそ、大丈夫なのか?」




「こっちは、チームメイト殴って部活辞めたんだ。舐めるんじゃねぇ」




「ははっ。流石だな、相棒」




「相棒としてよろしく頼むぜ、大紀」




「おう!」




 そして俺と大紀は、グータッチをする。




「じゃあ、ちょっと暴れさせてもらいますか」





 











 

 






 






 



 









 




 







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