第9話 部活が終わってからの一幕
そろそろ帰るか、という雰囲気になり、今日の部活は一時間ぐらい話したぐらいで終わる事に。
月見里さんが教室の鍵を一人で返しに行き、晴馬先輩は自転車通学なので、電車通学の俺と柚葉先輩は、一緒に帰る事になった。
「雄哉君は、芽衣ちゃんのことどう思う?」
突然、柚葉先輩が問いかけてきた。
「どう、って言われても……俺は何とも言えないっすね」
月見里さんも、何か事情や過去のトラウマなどがあるかもしれない。
ただ、今の状況では何も分からない。それに、不用意に関わると痛い目を見るかもしれない。
「きっと、頑固なんだろうね。芽衣ちゃんも雄哉君も。私や晴馬だってそう。今日はいなかった大紀君や花ちゃんだって……もっと気楽に生きる事が出来るはずなのに」
「それができないんですよ。俺たち、不器用なので」
「傲慢だよね。私、自分の事は棚に上げてる。けど、雄哉君や芽衣ちゃん……他の人はさ、私のようになってほしくないんだよ」
「その気持ち、ちょっとわかります」
他の人には、自分のようになってほしくない。相手を大切に思う心なのか、自己肯定感の低さからかは分からないが、俺もそういった気持ちは少しある。
俺も、碧や昇には何も気にせずに楽しんでほしいと思っている。辛い思いをすれば、自分だけで良い。
「ま、雄哉君も困ったら相談してきてよ。一応、先輩が相談に乗るからさ」
「柚葉先輩も、後輩が相談に乗りますよ。似た者同士なので、参考になるかと」
「ははは! それちょっと生意気」
ちょっとした帰りのワンシーンに過ぎないが、柚葉先輩の人柄が少し見えたような気がした。
今日は、金曜日の夜という事もあってか、何だか幸せな気分だ。やっぱり、週末は最高だな!
そもそも日本人は、働きすぎなのである。もっと、休みがあっても良いのになとつくづく思う。出来る事なら、一生仕事したくねぇよ。
こういうのを社会不適合者って、言うんですかね?
ちなみに明日は、野球部のオフとのことで、前に約束していた通り、碧とクレープを食べに行く予定だ。その後は決めてないが、碧の事だから、たぶん夕方ぐらいまで遊ぶのだろう。
そう思いながら明日への準備をしていると、スマホの通知音が鳴った。メッセージを見ると、
「三人で通話しない? 昇も結構、ユウの事は気になってるみたいだし」
と碧からのメッセージだった。準備もある程度終わったし、俺は
「了解」
とメッセージを送信する。すると、早速グループ通話が開始された。
「やっほ~! ユウも昇もお疲れ~!」
グループ通話に参加すると、碧の元気な声がいきなり聞こえてくる。碧は相変わらず、いつも元気だな。
「昇も碧もお疲れ。明日はオフみたいだし、良かったじゃん」
「雄哉ぁぁぁああああぁぁあぁあ……流石に疲れたぜぇぇぇぇぇ……」
「何か断末魔の叫びみたいになってるぞ。やる気があるのは良いことだけど、無理して怪我しないようにしろよ。昇が怪我したら、終わりなんだから」
体力お化けの昇も、流石に週末という事もあってお疲れのようだ。
「分かってるって。ちゃんとケアはしてるよ。そっちは、どんな感じなんだ? 碧からある程度の話は聞いたが」
「特にそこまで話すものでもねぇよ。別にこれといって何かはない。先輩が、俺たちと一緒にゲームしたいって言ってたぐらいだな。サバゲ―とか結構上手いらしい」
「ユウは、下手だもんね。これは助かるな
ぁ!」
「うるせぇぞ碧。俺も得意なゲームぐらいはあるし」
そもそも俺は、競う系のゲームがそこまで得意ではない。俺が得意とするのは、自分のペースで進める事ができるゲームだ。冒険とか、育成ゲームとかな。かなりやり込み要素もあるし、長く楽しめる。
「ユウの言い訳は、もういいって」
「まぁ、雄哉も上手くやれてるみたいだな。安心したよ」
「俺の事は、気にしなくていいさ。お前らは、甲子園目指して頑張ってれば良いんだよ」
「任せろ。俺が、雄哉と碧を甲子園に連れてってやるよ」
昇なら、甲子園でも夢ではないと思う。俺と碧が諦めた世界に、昇なら行けるのかもしれない。
「昇、くれぐれも中学の時のような事件は起こすなよ。俺がいない分、大丈夫だとは思うけど」
「大丈夫。チームメイトも良い奴らだし……碧もマネージャーだから、あの時のようなことはない。ま、碧はモテてるから、そこら辺のいざこざはありそうだ。注意しておく」
「……昇もユウもごめんね。全部、私のせいだ」
碧は、少し震えた声で俺と昇に謝る。碧が気にすることなんかじゃない。あれは、俺が上手くやれてれば……
「あれは、昇のせいでも碧のせいでもない。俺が全部悪いんだ。だから碧も気にするなよ」
「ユウは、いつも優しいね」
「雄哉のせいでもないぞ。あの事件は、チームメイトがひどすぎた」
「けど、俺が上手くやれなかったのも事実だ。でも気にしてはないよ。野球に未練もないし」
「全く、雄哉は頑固だな。それが良い所でもあるし、雄哉らしいけどな」
「あーもう暗い話はやめやめ、明るい話をしようぜ。明日、俺と碧はクレープ食べに行くけど、昇も来るか?」
やっぱり中学の話は、どうしても雰囲気が悪くなってしまう。俺は、雰囲気を切り替えようとして、話題を変えた。
「俺は、別の用事あるからパス。二人で楽しんできてくれ」
「了解。碧、明日はどうする予定だ?」
「うーん、昼ぐらいに集まるので良いんじゃない? あとは行き当たりばったりで」
「どうせ、ゲームセンターに行きつくんだろうけどな」
俺と碧は、特に予定を決めずに遊ぶことが多いが、最終的にゲームセンターで遊ぶことがほとんとだ。まぁ、田舎の方だし遊べるところも限られるからな……
「ユウ、楽しみにしてるよ! しっかり私を楽しませてね!」
「だから何で上から目線なんだよ。碧と一緒だと、いつも楽しいし大丈夫だろ」
「……」
「おーい碧?」
何故だか碧が、急に無言になってしまった。何か電波の影響か?
「本当に、雄哉は何と言うかね。そこも雄哉の魅力なんだろうけど」
「昇も分かるよね! あー本当に勘弁してほしい」
「な、何の事だ?」
たまに、俺はこうやって昇と碧に
「ユウは何も分からなくていーの。じゃあ、明日はよろしくね。流石に眠たくなってきた」
「昇も疲れてるみたいだし、今日はここでお開きにするか」
週末の疲れの事や、明日の予定もあるので、今日の通話はここまでにした。
「「「おやすみ〜」」」
そして通話終了ボタンを押して、携帯を充電器に挿す。
友達との通話は何か非現実のような感じで、色々な事を忘れる事ができて楽しいが、終わると途端に現実に戻される。
こういう時は、何かと考え込んでしまいそうになる。考え込んでも、精神が落ち込むだけなので、今日は、さっさと明日に備えて寝ることにしよう。
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