第8話 部活の先輩

 初めての部活を終えてから、ゆいねぇの提案もあってメッセージアプリのアカウントを皆と交換した。大紀は、グイグイきたから一足先に交換したけどな……



 大紀はウザ絡みタイプだし、篠崎さんや月見里さんとは、話すにしても何を話せば良いか分からない。特に月見里さんは、色々嫌そうだったし。


 挨拶のメッセージを送っても、月見里さんは既読スルーだし、篠崎さんとは何だか恥ずかしくて、色々話せそうにもない。




 一応、大紀がノリと勢いで作った青春活動部グループと、青春活動部一年グループもあるが、軽い挨拶程度で会話は終わっている。








 俺が気にしたところで、何か動くわけではないので気にしないでおこう。それよりも、今日は二回目の部活だ。



 今日は、青春活動部の先輩である二人と会うのが主な目的である。一応メッセージ上での挨拶や自己紹介はしたが、対面で会うとなると少し緊張したりする。





 そもそも、それぞれのキャラが濃すぎて胃もたれしている。似た者同士、とゆりねぇは言っていたが、俺もこんな濃いキャラなのだろうか……







 



 


 部室に行くと、大紀と篠崎さんは来ていないようだった。

 篠崎さんは分からないが、大紀からは今日は行かない、とメッセージがあったので、何か用事でもあるのだろう。篠崎さんも、たぶん何かの用事があるのだろう。






 本当に自由であるが、ゆいねぇの言っていたように、居場所があるだけで良いのだろう。いざという時に役に立つとか何とか、と言っていたのを思い出す。






 また、月見里さんは前の部活の時のように読書をしていた。


 何を読んでいるかは、ブックカバーがあって分からない。

 ただ月見里さんの事だし、難しい勉強の本とか長編小説とかに違いない。芥川龍之介とか太宰治とか、俺は現代文の授業でしか読まないような小難しい作品を、読んでいるイメージだ。



 俺だったら、読書の時や読んでいる本を話す時は、ほぼライトノベルだけどね! ライトノベルは、一応小説だし、読書していて偉いでしょ感を出せる優れものだ。







 

 月見里さんを横目に見ながら部室に入ると、ゆいねぇがこっち来て、と俺を呼ぶ。その近くには、見知らぬ人がが二人いた。きっと、青春活動部の先輩の二人だろう。



 ゆいねぇが、


「この前はいなかったから、紹介するね。岩里いわさとさんと神楽かぐら君。前言っていた、二年生の部員ね」


 と紹介してくれた。



 岩里先輩は、何か明るいクラスの一軍女子みたいな感じのイメージだ。先輩、という事もあってか大人さもある一方で、あどけなさも残っている。

 単純に言うなら、絶対人気になる女子と言う感じだろうか。モテる女子、と率直に思った。





 神楽先輩は、岩里先輩とは対照的で、眼鏡をかけていて硬派な感じだ。単純に言うなら、真面目な男子という感じ。アニメとかの生徒会長キャラみたいだな、と思った。




 


「私は、二年の岩里いわさと 柚葉ゆずは! 気軽に仲良くしてね! 確か雄哉君だったよね?」



「あっ、そうです。よろしくお願いします、岩里先輩」



「あーそんな堅苦しくなくても大丈夫だよ。私気にしないし。柚葉、とかで」



「流石に年上なので、柚葉先輩にしておきます」



 いくら何でも、年上を呼び捨てにできるメンタルは持ってない。柚葉先輩は、イメージ通りのフレンドリーな感じだった。






 こうして不自由なく話せているのに安心したのか、ゆいねぇは


「大丈夫そうだね。じゃ、私は仕事が溜まっているから後はよろしく! 終わる時間は適当で良いから!」


 と職員室に帰っていった。柚葉先輩が、



「さっき、桜庭っちと話していたけど、先生って色々大変みたいだね。授業計画に、テスト作成、授業の準備や提出物のチェックとか。仕事が終わって、多少楽になったところで、また仕事が来て嫌になる、って言ってた」



「かといって、生徒に愚痴をこぼして良いものなのか……?」


 

 ゆりねぇが、先生として大丈夫か、時々本当に心配になる。まぁ、色々言いつつもこなしている面もあるし、要領は良いんだろうなと思う。







「あ、じゃあこっちの先輩も紹介しておこうか。大丈夫? 一人でできる?」




「うるさいぞ柚葉。それぐらい自分でできる。俺は、神楽かぐら 晴馬はるま。俺も気にしないから、そんなに堅苦しくなくていいぞ」



「じゃぁ晴馬先輩で。よろしくです」



「うわー晴馬の奴、私の真似しちゃって~? そんなフレンドリーなキャラじゃないくせに?」



「うるさい。そもそも、誰のせいだ誰の。とりあえずよろしくな、春風」



「いや晴馬は、名前呼びじゃないんかい!」



「柚葉は、いちいちうるさいな……そもそも先輩キャラは、こんな感じだろう」




 


どうやら柚葉先輩と晴馬先輩は、とても仲が良いようだ。まぁ二年生は二人だけだし、仲良くなるといえば、なるか。もしかすると付き合っているのかもしれないし。






 こうして自己紹介を終え、話題は趣味の話になった。晴馬先輩が、真剣な表情で



「ところで、春風はアニメは好きか?」


 と質問してきた。俺は、答えに悩む。



 最近はアニメが好き、と言っても馬鹿にされるような事は少なくなった。ただここでアニメ好きの中で新たな問題が浮上するのだ! そう、熱量の差問題である!



 オタクと言っても、多種多様なオタクが存在する。アニメをただ観るだけのオタクもいれば、グッズを揃えるオタクもいるし、イベントに参加するオタクもいる。




 アニメが好き、で意気投合しても熱量の違いがあると、上手く行かないことが多々ある。


 何のアニメ観るんですか? と質問して、王道アニメの名前ばかり言われるような感じだ。


 別に王道アニメを観る事は問題ではないのだが、あぁ、君のオタク戦闘力はこれぐらいなのね……と分かり、なかなか好きな深夜アニメの感想共有が出来なかったりする。

 オタクは、自分と同じぐらいの熱量の相手とオタトークしたいものであるのだ。






「晴馬先輩も好きなんですか? 自分は、結構王道作品も観ますし、ラブコメなら、“美少女を無視するところから俺の青春ラブコメは始まっていく”とかにハマってますね」



 ここは、王道作品観てますアピールをしながら、深夜アニメを観ているアピールとラブコメを主に観てますアピールを合わせた必殺技である。


 晴馬先輩と目が合った。そして晴馬先輩は、少し笑う。



「俺もその作品観てるぞ。それにラブコメは良い作品も多くて、面白いよな」



 はっ! この先輩、出来る! 相当な実力者だ!



「晴馬は、アニメで人を判断するの好きだよね」



「柚葉は分かってないな。この質問で、同志かどうかこれで判断できるんだよ」



「ふーん……てかアニメも良いけど、雄哉君は、ゲームやる?」




 柚葉先輩は、少し晴馬先輩に呆れながら、ゲームについて質問してきた。



「やりますよ。よく友達とかとやります」



 昇や碧もゲームが好きなので、よく三人でゲームをする。それぞれ好きなゲームのジャンルなどは違うが、基本三人でやれば何でも面白いので、色々なジャンルのゲームをやっている。



「何やるの?」



「ゲームに関しては、本当色々ですね。友達の影響でサバイバルゲームとかよくしますけど。バトルロワイアル形式の」



 ここ最近、こういったバトルロワイアル形式のゲームが流行っている。俺は、あまり上手くないのでそこまでやらないが、碧が誘ってくるのでそれなりにはやっている。 


 ちなみに碧は、かなり上手い。昇は普通ぐらいだが、俺が下手すぎるので昇もとても上手く見える。




「えっ、私もやってる! 今度一緒にやろうよ? よければ友達も誘って」



「いいですよ。また言っておきます」



「柚葉は、本当に上手いからなぁ。ネットでも少し有名だし」



「それを言うなら晴馬もじゃん。オタク界隈では有名なくせに」



「色々凄いっすね……」



 柚葉先輩も晴馬先輩も、ネットではちょこっとした有名人らしい。ネットで有名、となると、晴馬先輩は分からないが、柚葉先輩のゲームの実力は相当凄いのだろうか。



 柚葉先輩は、一人になっている月見里さんを見かねてか



「芽衣ちゃんもやる? 楽しいよサバゲ―」



 と誘う。サラッと名前呼びだ。大紀や柚葉先輩のコミュニケーション力には、本当に驚かされる。今の俺だったら色々考えこんでしまって、上手くいかないだろうな。



「私は大丈夫です。ゲームなんかしないので」



「ええ〜!? そんなこと言わないでよ~!」



「実際、月見里の言う事が正しいんだけどな。柚葉は、ゲームのせいで学力が散々な事になっているんだ」



「え、そうなんですか?」



 勝手なイメージだが、こういった明るい女子とかは何でも器用にこなすイメージだった。散々、という事は赤点を取ったりとかなりひどいのだろうか。



「それで柚葉は、先生と揉めたりもしたな。今となっては懐かしい話だな。今も学力はギリギリなのだが」



「晴馬! それは言わない約束でしょ! 晴馬だって、そこそこのくせに」







 こうして俺は、二人の先輩と仲良くなった。その時俺は、ふと気づいた。 結局、人付き合いとか何だか言ってたくせに今を楽しんでいることに――




 その気持ちが昔の俺を思い出させるような感じがして、俺の身体に酷くまとわりついた気がした。昔の俺が、今の俺に語りかけてくる。




「人間関係なんて、ただの関係にすぎない。お前は、それで痛い目を見ただろ? 」




 なぁ、頼むから……今は黙っておいてくれないか、昔の俺……





 




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