第7話 変わりゆく日常
漫画やアニメ、ラノベにドラマに映画……こういった物語には、イベントが存在する。何かイベントがあれば、関係が進展したり、環境が変化したりするものだ。
新たな強い敵が出てきたり、急にラブコメがはじまったり、何か事件を解く鍵が出てきたり……でもそれは所詮、理想と言うか作り物にすぎない。
現実は、アニメのように上手く行かないし、ドラマのように運命の出会いなんかもない。
俺が青春活動部に入ったからといって、何も変わらない。そう思っていた――
「だーれだ」
初めての部活を行った次の日の朝、俺は定番の絡みをされていた。
ラブコメとかでは、こういったシーンは定番化もされているがキュン、ってするよな。急に気になっていたヒロインが、ちょっかいをかけてきたりしてな。
ただそうやって、俺にちょっかいをかけたのは、いつもの親友でもなく、クラスメイトでもなく、好きな人でもない。あの金髪ヤンキーだった。
「……いや大紀しかいねぇだろ」
「せいかーい! おは~」
やはりこの世にラブコメは、存在しないのであった。いや、俺は一ミリも何か期待してないよ? ほんとだよ?
「てか大紀って、普段見ないイメージなんだけど。部活行くまでは、知らなかったし」
「普段は、学校行かない事が多いからなぁ。あとは、別室登校とか。まぁでも相棒ができたから、今日は真面目に登校してきたわけよ」
「相棒認定早くない……? ドラマでも、もう少し色々あってからだよ」
「いいじゃねぇか。同学年の男子は貴重なんだ! 部活でもそうだろ?」
確かに俺が入部する前は、大紀が一年生の中で唯一の男子だったのか。そう考えると、大紀の気持ちは少しわかる。
また別室登校など、大紀にも何か事情があるようだ。
それよりも、早速相棒認定されていることの方が気になるけど。昨日、メッセージでやり取りしてる時からツッコミは入れていたが、諦めるしかなさそうだ。
「まぁ分かるし、もういいよそれで。だって大紀、重めの彼女みたいだもん」
「ありがとうな」
「褒めてねぇよ? 一ミリも褒めてねぇよ?」
なぜ俺の周りには、皮肉や悪口を誉め言葉だと思ってしまう人が複数いるのだろうか。
本当に、大紀はどこぞのメンヘラ彼女の生まれ変わりなのではないかと思う。返信するとすぐ既読がつくし、ちょっと時間を空けて返信すると
「おっ、何してた? 返信遅かったけど」
みたいにすぐにメッセージが来る。恐怖である。スマホを触っていない時間はないんじゃないかと思うほど、返信が早い。
なおかつ、趣味の話など怒涛のメッセージが来るのも恐怖である。
最近は、昇と碧ぐらいしか深く関わってなかったから、大紀の感じは本当に慣れない。
「大紀さ、めっちゃメッセージ送ってくるじゃん? あれは何なの?」
「暇だからというか、スマホ触って通知来たら色々メッセージ送っちゃうんだよな」
「ソウナンスカ。即レス求めるのだけは、やめてくれよ」
「おけおけ。了解だぜ相棒」
本当に分かってるのか? 陽キャとかの了解って、反射神経で口から出てるだけであって、全然分かってない時が大半のイメージなんだが?
まぁここは、相棒とやらを信じるとしよう。
そして俺と大紀はクラスが違うため、大紀と教室前で別れて、俺は1組の教室に入る。
あぁ、この教室こそがオアシスだ。今のところは、上手くスクールカーストやらも、中間の普通の何でもない人として、空気になることができているし。立ち回り上手いな俺。
ただ今日は、何か様子が違う。何か視線が刺さるような、注目されているような気がした。
そうして少し戸惑っていると、篠崎さんと目が合う。俺は、すぐに目線を外したが、なぜか篠崎さんは俺の方に向かってくる。
え? なに、俺何かした? だからこんなに注目集めてるの?
「おはよう春風君。昨日は本当に驚いたね!」
いや昨日も驚いたんだけど、今も驚いているんですが?
そもそも、入学式から驚いてばかりなんですが? そんなに俺の心臓を疲れさせたいの?
「そ、そうだな。というより、何だか今日、注目されている気がするんだけど」
それに篠崎さんに話しかけられたことで、より一層男子たちの表情が怖くなった気がするんだが。おい待て、俺は無実だ!
「そう? もしかすると山浦君と話していたからじゃない?」
「あー確かに。そりゃそうだよな」
確かにクラスで普通の奴が、いきなり金髪ヤンキーと話していたら違和感でしかない。大紀の影響力をもっと注意しなければいけなかった。
大紀みたいに、あっちからグイグイくる感じはなかなかないからな……まるで昔の俺みたいな感じで。
「篠崎さんも気を付けて」
何だか序盤にやられた雑魚のキャラのようなセリフを篠崎さんに言って、俺は自分の席に座る。
仮に、篠崎さんと大紀がもしめちゃくちゃ仲良くしていたら、クラスの奴らは狂乱するだろうな、と思った。
「うげぇーユウ疲れたー!」
クラスメイトの何か気になるような視線を、何とか気にしないようにしていると碧が教室に入ってきた。野球部は、朝練もあったりして毎日大変そうだ。
「お疲れ。昇は?」
「先輩と話してたから、もう少ししたら来ると思うよ。それより、ジュース買いにいこーよ」
「おっ、いいぞ」
俺は、碧の提案に乗っかる事にした。これで一時的に皆からの視線から解放される。
「碧が来てくれて助かったよ」
「どしたん?」
「昨日の初めての部活で、大紀と知り合ってからな。篠崎さんとも喋ったからか、注目が凄くて」
「大紀、って話してたヤンキーの?」
「そうそう。実際には、ヤンキーじゃないのかもしれないけどな。喧嘩をしているところは見たことないし。いやでも完全にヤンキーだよな? 分からん」
「見たことないからわからない、っていうことか。シュレディンガーの猫?」
「言い得て妙だな」
今日の事を話しながら、自動販売機の場所に着くと、先客の月見里さんがいた。月見里さんも何か飲み物を買っているようだ。
碧が気さくに、
「おはよ、月見里さん」
と話しかける。月見里さんは、
「おはようございます、常盤さんと春風君」
とだけ言って、そそくさと教室の方に戻っていった。
「月見里さんって、やっぱりどこか壁あるよね。私も久しぶりに苗字で呼ばれた気がするよ。皆も名前で呼ぶし、忘れてるんじゃない?」
「何だかメタ発言みたいなこと言うな。ま、確かに壁は感じるけど……月見里さんなりの何かあるんじゃない?」
「でも、思ったより良い人だったよ」
「え、なんで?」
「だって、挨拶したのは私だけだったのにさ、ユウの事も言ってたから」
確かに俺は話しかけてないが、月見里さんは俺にも挨拶をしていた。
碧は、こういう細かいところに気づくのが多い。ゆりねぇみたいに察するのが得意と言うか、心を読むのが得意と言うか。
「碧は、そういうの本当に気づくよな」
「ふふん。どうだみたか」
碧は、ドヤ顔をして自動販売機のミックスジュースを指差す。
「いや奢らねぇよ?」
「ちぇっ、これじゃ無理か」
「今度の週末、クレープ奢ってやるから我慢しなさい」
「はいはいわかりましたーよっと。まぁ私の助けはそれ以上だけどね?」
「碧様、いつも大変お世話になっております」
「ビジネスメールかよ」
碧には、課題や勉強をいつも手伝ってもらっている。高校生になったはいいものの、勉強したいという欲が出てくるわけもなかった。というより、二度とあんな猛勉強したくない。
だからそのお礼として、たまに奢ってやったりしてるのだ。俺としては、少しお金に余裕もあるので、むしろこのシステム良いなと思い始めている。末期である。てか、これもう一種のパパ活じゃね?
「ところでユウさんや。今日の英語の予習はやってきたのかね」
「今日は、先生が当ててこないからやってないぜ。来週頼むな」
「流石だね」
「何事も上手く生きないとな。碧も参考にすると良いぞ」
「じゃあ数学のプリントは?」
「あ、見せて」
「流石だね」
こうして青春活動部に入部したことが、俺の環境を少しずつ変えていくのであった――
「
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