第6話 碧との通話

 初めての部活を終えた夜。今日の会話を受けてか、碧が通話をしようと早速誘ってきたので、通話をすることになった。



「もしもしユウ? お疲れ~!」


 碧は通話に出ると、元気な声で話し掛けてくる。マネージャーとはいえ、大変なはずなのに……本当に凄い奴だなと思う。



「お疲れ。てかいきなり誘ってくるとはね。前もちょくちょく通話してただろ?」


「いやまぁ、ユウが寂しそうだったから? 私が癒してあげようかと思って」


「誰が寂しそうなんだよ。どっちかと言えば、寂しそうなのはお前じゃねぇか」




 いつも碧と話す時は、趣味の話が大半だ。でも今日は、俺の事もあってか部活の話を中心にすることになった。




「野球部は順調だよ。この学校、野球部はそんなに強くはないけどさ。今年は気合入ってるし」



「そっか。まぁ応援ぐらいは行くよ。昇の方はどうだ?」



「監督も即戦力だってさ」



「流石だな。あと……何かトラブルになりそうなことはないか?」



「今のところは大丈夫。昇を中心に勝ち上がろう! って言う感じで団結してるよ」


「そっか、よかった」


 昇は、県外からもスカウトが来るぐらいの超有望選手だった。ただ、県内にいたいからと昇はこの学校に入った。きっと、俺や碧の事も考えていてくれたのだろう。

 


「今度、野球部遊びに来てよ。“実力”はまだ衰えてないでしょ?」


「でも野球部じゃないやつがいたら、迷惑だろ。それに勧誘されたら面倒だ」


「そっか。ユウはもう野球やらない?」


「気にすんな。元々、俺は昇のようにプロを目指してたわけじゃない。あの事があったからじゃねぇよ」


「そっか。私とキャッチボールぐらいはしてね」


「イップスは大丈夫なのか?」


「大丈夫。ユウとなら、大丈夫」


「そっか」


 イップスは、精神的な問題などで思い通りのプレーが出来なくなる事を言う。いわば、精神的な問題だ。

 俺も少し話は違うが、精神的な問題に悩まされてたりしてるので気持ちは分かる、

 


 碧も中学のとある事がきっかけで、イップスになってしまった。けど、俺とキャッチボールする時は、何だか安心して大丈夫らしい。



「それよりユウは大丈夫だった? 初めての青春活動部」



「まぁ1回行っただけだから、何とも言えないけどな」



「他の部員はどんな感じだったの?」



「驚いたんだけど、同じクラスの月見里さんと篠崎さんがいたよ。あと金髪ヤンキーが1人」



「え待ってそれどういう状況……ヤンキーは大丈夫なの?」



「まぁ見た目なヤンキーだけど、悪い奴ではない? から」



 キレたりすると何やるか分からないし、怖いは怖いんだけどな。

 あと友達登録してから、鬼のようにメッセージが来てウザい。もうブロックしようか迷うな。


 もう大紀が重い彼女に見えてきたよ。通知欄が大紀で埋まってるんだよ。大紀だらけになってるよ。





「それに月見里さんと篠崎さんとは意外だね」



「俺も驚いたよ」



「月見里さんはいつも一人だし、何かあるのかな。篠崎さんは思い当たらないけど」



「だよな。篠崎さんは普通に友達とかもいるし、意外だったわ」



「でもよかったじゃん?」



「え? なんでだ?」



「だって、ユウさ……篠崎さんの事好きじゃん」



「ゲホゲホッ!」


 急に不意をつかれて、驚いて唾が変な所に入って、咳き込んでしまう。

 なんで、碧まで俺の好きな人の事知ってるんだよ。個人情報漏洩してる?




「おい、碧さんや。なぜ知ってるんだい?」



「好きな人の事をつい目で追っちゃうのは、人間の習性だからねぇ?」



 やべぇ、その通り過ぎる。考えてみたら、いつも目で追っているじゃねぇか。

 無意識、無意識と思っていたのに、めちゃくちゃ意識してるじゃねぇか。





「マジか……恥ずかしすぎる」



「それぐらい分かるっつーの。長い関係性舐めんな」



「これはこれは御見それしました」



「それでどうなの? アタックしたりしないの?」



「別にそんな事はしねぇよ。好き、っていう気持ちはあるけど恋愛したい、と言う気持ちはないというかさ。篠崎さんは人気だから、色々と面倒になっても嫌だし」



「何? 昔の事引きずってるの? あれは、ユウのせいじゃないし。篠崎さんもきっと分かってくれるよ」




 結論から言うと、篠崎さんはモテる。まぁあの容姿からすると、当たり前だと思うけど。

 俺なんか眼中にもないだろうし、仮に付き合う事ができても何かと野次馬なり、ウザい奴らが寄ってくるだろう。


 もう、俺は色々考えたくはないんだ。平穏に生きれれば、それでいい。問題が起きるのも、もうごめんだ。




「それに過去の事を引きずっているのは、碧もだろ」



「私は、こっちの道でいーの。それにユウも昇もいるし」



「そっか」



「だからさ、ユウもイジイジしてないで前に進む時だと思うよ。まっ、今のユウもユウらしくて私は良いと思うけどね?」



「ありがとな、碧」



 碧はいつも俺を肯定して、勇気づけてくれる。碧にも本当に助けられてるなぁ……快くクレープを奢ってやろう。こりゃ、碧にダメ人間にされてるな。



「んん? さては私に惚れたか? 付き合ってやっても良いぞ」



「何で上から目線なんだよ」



 ゆいねぇと話した時にも言ったが、俺と碧はそういった関係じゃない。碧が好き、っていう恋愛感情じゃなくて、どちらかというと親友と言うか、相棒みたいな感じだ。


 碧には、どう思われてるか分からないけどな。本当に俺の事を財布だと思ってないよな? な? 金目当ての関係じゃないよな?





「てか碧の方こそ、どうなんだよ。ゆいねぇにしてもそうだが、俺ばっかり攻撃してんじゃねぇぞ」



「うーん。好きな人は一応いるんだけどなぁ。なかなか難しいって感じ」



「え、それは初耳だな。それは、既に彼女がいるとかそんな感じ?」



「あーまぁそんな感じかな。難しいね」



 まさか碧にも好きな人がいるとは……全然こういった恋愛話をしないから知らなかった。まぁ高校生にもなれば、そりゃ好きな人もいるか。



「碧の好きな人は、どんな人なんだ?」



「えーとね……優しくてカッコ良くて。本当に私にとっての大切な人というか」



「へぇ。まぁ、碧が好きになるなら良い奴なんだろうな」


「ん、本当に良い人だよ」



 不器用で、メンタルも終わっている俺とは大違いだ。そんな本物のヒーローみたいなやつがいるんだな。そんな良い奴となら、問題ないだろう。




「ま、俺も自分のペースで頑張るよ。じゃ、俺はもうすぐ寝るわ。眠くなってきた」



「もう深夜だしね。おやすみ、ユウ」



「おやすみ、碧。また学校でな」




 時計を見ると、もう深夜の1時になっていた。碧と話すのは、なんだか楽しくて時間を忘れてしまう。








「皆、それぞれ頑張っているんだな。俺も頑張らないとな……」


 


 何か自分に言い聞かせるように、俺は他に誰もいない部屋でそうつぶやいた。


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