第5話 不穏なスタート

 俺と篠崎さんは、そんな話す仲でもないし、俺は照れてしまうのでなかなかうまく話せない。こうして気まずい感じが続いていると、今度は、扉が勢いよくバァァン!! と開いた。




 俺は驚いて扉の方を見ると、いかにも金髪のザ・ヤンキーみたいな奴だった。喧嘩をしたような跡が見えたり、ピアスなどのアクセサリーもつけていて、怖くてなかなか近づきたくない感じだ。





「やっほー! おっ、見ない顔だねぇ。新入部員?」


 そう言って金髪ヤンキーは、グイグイと距離を詰めてくる。

 やべぇ、今の俺にはこういったタイプが一番苦手だ。

 ゆいねぇがあきれ顔で、


「こらこら。扉は勢いよく開けるな、と言っているでしょ」


 と注意する。


「ゆいゆいはそこら辺堅いよねぇ。あっ、俺は山浦やまうら 大紀たいき。よろしくな」


「全くもう……」



 どうやら、ゆいねぇも手を焼いているようだった。しかも気軽にゆいゆいって呼んでるし。というか、同級生にこんなヤンキーがいたのかよ。今どき、こんなヤンキーはドラマでしか見ねぇぞ。




「お、俺は春風 雄哉。よろしくな」


 一応、自己紹介はしておこう。殴られたくないし……肩パンみたいなの嫌だし。ヤンキーって肩パンの事を挨拶と思ってるし。怖い怖い……





「てかクラス何組? 俺は3組だけど、雄哉は?」


「俺は1組だよ」


「えー! 花ちゃんとかと一緒じゃん。良いなぁ」



 いきなり雄哉って、名前呼びかよ。距離の詰め方えぐいな、てか篠崎さんの事も名前呼びかよ羨ましいなどと、色々とツッコミたくなるが、何とか我慢する。

 てか俺、こんなにツッコミ気質だったの? 信じられねぇな。




「とりあえず友達登録しよーぜ? これ俺のアカウントな。てか趣味何なん? 俺はスポーツとかかな。てか頭は良い方? 俺、勉強できないんだよね」


「ははは……」



 マシンガンのように距離を詰めてくるので、笑って誤魔化すしかなかった。一回に色々言いすぎなんだよ、俺は聖徳太子じゃねーぞ。



「俺ん事は、大紀って呼んでくれ! よろしくな雄哉!」


「お、おう」




 グイグイと距離を詰めてくるのは、本当に辞めてほしいんだよなとも言えずに押し切られてしまう。ま、ヤンキー? だけどめちゃくちゃ悪いみたいな奴には見えないし、そこは良かったのかもしれないが。





 




 すると今度は、スーッとドアが開いた。1年は俺を除いて3人とゆいねぇが言っていたし、最後の1人だろう。


「こんにちは、桜庭先生。それと山浦君は、もう少し静かにできないの?」


月見里やまなしさんも本当にお堅いねぇ。もっと気楽に行こうぜ」


「あなたには関係ないことよ」





 月見里やまなし 芽衣めい。これまた同じクラスの女の子だ。頭も良く、運動神経も抜群でなおかつ美人。サラサラとしている長い髪もあってか、お姫様のような感じだ。



 ただ月見里さんには、人を寄せ付けない独特なオーラというか雰囲気がある。そのせいかは分からないが、誰かと一緒な所を見たことがない。また、いきなり告白した猛者もいたが、ボコボコにやられていたな。ご愁傷様です……





「あっ、今日からこの部活に入る春風 雄哉です」


 同じクラスといえ関りもないし、月見里さんにも一応、挨拶しておく。


「同じクラスだし、名前は知ってるわ。別に仲良くする予定はないけど、一応よろしく」


「お、おう」


 すると月見里さんは、椅子に座って読書を始めた。俺が少し戸惑っていると、


「月見里さんも仲良くしなきゃダメだよ?」


と、ゆいねぇが月見里さんに向けてこう言った。


「あいにく、私は友達とか必要ないので」



 その言葉を聞いて、何だか俺と似ているなと感じた。

 月見里さんも何かあって、俺の要に心を閉ざしてしまったのだろうか。俺は、昇や碧がいたから良かったものの、月見里さんは友達もいないようだし、本当に一人で……



「そんな悲しいこと言うなよ~! 雄哉もそう思うだろ?」


 おいバカヤンキー、何ていうパス出してくれてんだ。どんな凄い選手も取れねぇぞそんなパス。


「ま、良いんじゃないか。各々の自由だし」


 俺はただ、本音を言った。考える事は、各々自由なのだ。月見里さんが本当に誰とも関わりたくないのなら、俺たちがとやかく言うべきでもないだろう。



「あら、春風君とは気が合いますね。それに、私より勉強を疎かにしている山浦君の方が問題化と思いますが」


「あ? やるか?」


 あ、やべぇ。火に油を注いでしまった。大紀は言わずもがな、ヤンキーだし怖いのだが、月見里さんは月見里さんで、何か冷徹な感じがして怖い。


 そんな俺たちを見かねてか、ゆいねぇが


「こらこら2人ともやめなさい。仲良くしろ、と無理に強制するのはやめるけど、喧嘩はダメだよ」


 と仲裁してくれた。こうして俺の高校初めての部活は、いきなり良くない雰囲気からスタートしたのであった。







 部活終わり。俺は、ゆいねぇと今日の事について少し話していた。


「どうだった? 初めての部活は?」


「いや率直に大丈夫かな、って印象だけど」


「まぁ特に、山浦君と月見里さんはあんな感じだからねぇ。どうにかならないか、とは思っているけど」


「まぁ俺は、月見里さんの気持ちが分からんでもないけど」


「こら、そんな事言うな。それにさ、ゆっくんも月見里さんも……それに山浦君や篠崎さんだって助けを求めてる。そうでしょ?」



 中学の事があってから、俺は色々と避けてきた。けど、本当はそんな事なんかしたいわけでもない。よくは分からないが、月見里さんも本当は人と接したいのではないかと思う。

 そう考えると、青春活動部は不器用の集まりなのかもしれないな。



「まぁ、ね。でも俺はそうする、って決めたんだ。月見里さんも大紀も色々あるんだろうさ。篠崎さんは、ちょっとわからないけど」


「あ! そういえばゆっくん照れてたね? 好きだったのは、篠崎さんだったかぁ」


「ち、違うって!」


 つい、気が抜けていて篠崎さんの事を話題に出してしまった。ゆいねぇの面倒くさいモードのスイッチをオンにしてしまったようだ。


「いやーあれは恋をしてる顔だったね。まぁ篠崎さん優しいし、可愛いもんね。仕方ないね」


「ほら、やっぱり面倒くさいことになった。本当、性格悪いんだから」


「ありがとう」


「いや褒めてねぇよ? 1ミリも俺は褒めてねぇよ?」


 あんた少なくとも教師だろ。せめて、もう少し大人のような振る舞いをしろよ。




「でも今日は良かったでしょ? 少なくとも家でゲームするよりはさ」


「どこがだよ」


 俺は反射的にこう言ったが、今日の出来事は悪い気がしなかった。


 何だか昔に戻ったような気がして、篠崎さんと思わぬ形で話して、大紀に距離を詰められて、月見里さんの一面が見えた気がして……


「んふふ。ゆっくんは可愛いなぁ」


 そういって頭を撫でてくるゆいねぇ。ゆいねぇの顔は、どこか満足したような笑顔だった。



「ゆいねぇ、これからどうなっていくんだろうね」


「それは、誰にも分からないよ。けど、神様がいるならきっと良い方向に向かうんじゃないかな」


「そっか」



 青春活動部、初日。何だか変に満足した日だった。

 

 結局は俺も、楽しみたいんだよな。昔みたいに……




 








 


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