第4話 初めての部活

 今日は、高校に入学して初めての部活の日だ。何だか中学の時と違って、凄く緊張する。

 それは、上手く行くかな、とか仲良く出来るかな、みたいな可愛いものではなくて……過去を思い出しての怖さというか何というか。



 クソ、何ビビってんだよ。本当にアホらしい。俺はただ空気となれば良いだけなんだ。色々な人に深く干渉せず、手を出さず、本音も心に閉じ込める。

 中学の時は、ヒーロー気取りで失敗したとでも言えるのだろうか。今となっては、バカだなと思う。



 きっと俺は間違ってなかったと思う。それは強がりなどではなく、ただ客観的に考えても、だ。ただ、皆の心が合わなかっただけ。

 他の人には、当たり前だがそれぞれの心がある。一人一人、考えや信念、アイディアなどは似ているところがあっても、どこかは違う。だからこそ、戦争や喧嘩も起きる。



 全員の考えが同じなら、平和ではあるだろう。ただ、同じだからこそ良いとも限らない。人類は、色んな考えがあるからこその歴史があって成長してきた。色々な人が色々なものを発明し、流通させたからこそ今がある。色々な失敗があったからこそ、今がある。


 

 人類はいかに面倒くさい生き物だろうか。人生とはいかに難しいものだろうか。色々な人の考えや欲望があって、それらがぶつかって……上手くいくときもあれば、いかないときもあって。神は、本当に調整上手だな。いやらしい。





 長々と語ってしまったが、結局は人生とやらに、見切りをつけただけかもしれない。人生不適合者とでも言えるのかもしれない。



 俺は、こういった難しくて面倒な人生が嫌なだけだ。もっと何も気にせず、楽しみたかった。

 ストレスが嫌いだ、劣等感が嫌いだ、そして何より自分が嫌いだ。



 だから俺は、不器用から器用になろうとしている。良くもなく、悪くもなくの普通の人で良い。最低限生きれて、昇や碧、家族など信頼できる奴と最低限楽しめたら……











「ユウ? 何か考え中?」


「いや、何でもないよ。ただ、今日のテレビは何やるのか考えてただけ」




 放課後。皆が部活に行ったり、話している中で碧に話しかけられた。俺は、考えていたネガティブな心を一旦シャットアウトして、誤魔化す。

 こんな弱音、誰にも言えるものではない。何より、自分の甘えだという事も分かっている。




「ふぅん? 今日からユウも部活だよね?」


「だな。野球部よりは長くないけど」


「野球部、というか運動部は大変だからね。終わる時間が一緒ぐらいなら、一緒に帰れたんだけど」


「気にしないでいいよ。それに何か話したかったら、夜に通話とかするし」


「言質取ったよ? その言葉忘れないでね?」


 そういって、碧は何だか楽しそうに、昇と教室を出ていった。



「さて、俺も行くか」


 昇と碧も部活に行ったことだし、俺も行くことにしよう。見知らぬ人で緊張はするが、普通を意識すれば大丈夫なはずだ。

 てか、人間のメンタルって何でこんな浮き沈み激しいの? 俺はもう倒れそうなんだけど。年中、強いメンタルのやつとかいるんだろうか。



 




 あれこれ考えていると早いもので、部室の301教室に着いた。そして心を決めて、俺は301の教室を扉を開けるとそこにいたのは――








「おっ、ゆっくん一番乗り~!」



「いや、ゆいねぇだけかい! 扉を開けるまでの緊張返して!」


 何かアットホームすぎて、入りづらかったらどうしようとか色々考えていた事は、無駄だったようだ。



「あらら、久しぶりにそんな感じだね? 私は満足だよ」


「うるせぇ。と、いうより他の部員は?」


「もうすぐしたら来ると思うよ。二年生の二人は、趣味が忙しいから休むみたいだけど」


「それでいいのか」


 仮にもあんた部活の担当でしょ。そんなので本当にいいのか。


「ま、どうしても発売日にゲットしたいとか何だか言ってたしね。それも青春ってことでオーケー!」


「先生としては、良いのか悪いのか」


 生徒には好かれそうだけど、こういうの他の先生はどう思うんだろ? とか思う。お堅い先生も、たまにはいるからなぁ。



「だいじょぶだいじょぶ。ここは治外法権みたいな感じだから。何かあっても、私がもみ消してあげるよ」


 おい、さらっと怖いこと言うな。いったいここで、何が行われるっていうんだ。俺は無事でいられるんだろうな?




 そうやって、ゆいねぇと2人で話していると、扉がガラガラガラっと開いた。どうやら誰か部員が来たようだ。ゆいねぇが



「あーいらっしゃい。今日から、ゆっ……じゃなかった、春風君が新しく部活に入るので、よろしくね篠崎しのざきさん」


 またゆっくん、って言いそうになってるんじゃねぇか! とツッコむのも忘れて俺はただ固まっていた。


「え!? 篠崎さん?」


「何で春風君が?」


 その子は俺の好きな人だったから――











 前も言ったと思うが、同じ中学の嫌いな奴らと離れるために、俺はこの学校を選んだ。昇や碧とは同じ中学であるが、実はもう一人、同じ中学の子がクラスにいた。

 




 名前は、篠崎しのざきはな。髪を結んでいて、清楚でどこか大人びている女の子だった。最初、見た時は素直にめちゃくちゃ可愛いなと思った。それに、勉強や学校行事なども、真面目に取り組んでいてとても良い子だなとも思った。


 ゆいねぇの恋心は、ガキの頃の一時的なものだったが、真面目に恋をしたのは篠崎さんが初めてだっただろう。


 ただ別に仲が良いわけではなかったので、遊びに誘ったり、話したりする仲でもあった。こんな感じで、いつか恋を諦める……みたいなのは多いのではなかろうか。超絶イケメンなら別だが、なかなか告白は簡単にできるものでもないし。



 入学式で同じクラスと分かった時は、驚きと疑問の感情が混ざっていた。同じクラスなのは単純に嬉しいことでもあるが、なぜこの学校なのかと思った。

 俺たちのいた中学からは、結構離れていたりもするので、公共交通機関とかはあるが、ほとんどこの高校には進学しない。それが俺の志望した理由でもあるしな。




 もしかすると、少しは同じ中学の奴はいるかもとは思っていたが、予想外過ぎて驚いたというか何というか。

 ゆいねぇといい、篠崎さんといい、驚いてばっかの入学式だった。昇や碧とも少し話したが、篠崎さんの事情については知らなかったみたいだ。


 まぁ普通に、ただこの学校に進学したと考えるのが普通だけど。



「ん、2人は知り合いだっけ? あ、同じクラスか」



 ゆいねぇは、驚いている俺らを見てこう言った。性格の悪いゆいねぇなら、と何かしら考えていたが、反応を見る限りでは、本当に詳しくは知らないようだ。


 ゆいねぇにバレたら絶対面倒くさくなるに違いない。ただの同じクラスメイト、として接していこう。



「春風君とは中学も同じだったので……」


「そ、そうなんだよ。あまり話すことはなかったけどね?」



 篠崎さーん! あまり余計な事言わないでー! ゆいねぇが何か察したら、本当に面倒だからー!



「春風君は、本当に色々頑張って凄かったもんね」



 俺の心のヘルプ信号は伝わらず、篠崎さんは尚も俺の事について話す。てか何? なんで俺を褒めてきてるの? どういう感情なの?



「そういえば、篠崎さんはなんでこの高校を志望したの?」


「そ、それは事情があって。でも春風君とか、知っている人も良かった。春風君とかなら安心できるし」


「そ、そっか」


 話をずらす事は成功したものの、また新たな攻撃を食らって思わず照れてしまう。え? 本当に何なの? 俺をもてあそんでるの?



 チラッとゆいねぇの方を見ると、それはそれは楽しそうにニヤニヤしていました。

 あ、終わった。これ今度、めちゃくちゃ質問されるわ。









 始まったばかりの部活は、早くも不安である。いったいどうなる事やらですわ。いやほんとに、マジで。



 



















 






 









 

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