第3話 ゆいねぇとの夜

 日本の学校は長すぎる! と、どこぞの携帯会社の広告みたいなセリフだが、勉強嫌いな俺には、6時間授業は地獄なのである。


 そもそも日本人は勉強も仕事も頑張りすぎてしまっている。もう少し気楽に生きてきてぇなぁ。天才だったら楽に何でもできるんだろうか。一生働きたくないでござる。


 まぁなんやかんやで、今日も学校が終わった。昇と碧は野球部があるので俺は一足先に帰る。明日からは俺も部活に入る事になるのか、と思うと何だか変な気持ちだ。今日は帰ってダラダラするか。











「ふわぁぁぁっぁ……てかもうこんな時間か」


 俺は、家に帰ってからずっとゲームをしていた。窓から外を見ると、すっかり夜になっていた。これぞダメな高校生の一例であると思うが、高校生ってこんなもんだとも思う。そうだよね? ねぇそうだよね?


 するとピンポーン、とインターフォンが鳴った。仕事が終わって、ゆいねぇが来たようだ。



「仕事終わったから愛しのゆいねぇ様が来てやったよ~」


「お疲れ様っす。いつも助かりますぜ姉御」



 前も言ったが、料理できない系男子にとって、料理を作ってくれるだけで神様なのである。昨今のライトノベルでは、お隣さんとか急に仲良くなった子が、ご飯を作ってくれるみたいなものもあるが、人生はそうなかなか上手くできていない。


 改めてゆいねぇと仲良くなってよかったな……と思う。そこは恵まれているのかもしれない。






「それじゃあ、作り置き含めて色々作るから……ゆっくん、少々お待ちを」


「あーゆいねぇ神。エンジェル。恵比寿様。聖母マリア。そしてユニコーォォォオオオン!!」


「褒め方雑過ぎない? あと最後のは絶対違うよね?」


「冗談だって。本当にゆいねぇのおかげで助かってるよ」


「ならよろしい」



 ご飯が出来るまでもう少しかかりそうだから、俺は漫画でも読んでおくか。世の中の男は俺みたいになるなよ。少しは家事をしないと、怒られちゃうからな?





 ゆいねぇがあれやこれやと料理している音をBGMにしながら、漫画を読んでいると、ゆいねぇが話しかけてきた。



「ゆっくん、もう少しで完成するから色々と準備しておいて」


「うい。本当いつも助かります」


「でもゆっくんも料理は出来ないとダメだよ? 少しは出来ないと色々と大変だから」


「世の中には文明が発達してるから大丈夫なのさ。ま、俺もスクランブルエッグや野菜炒めは作れるから安心して」


「ただ炒めるだけなのにそんな誇られても……」


「バカ野郎。塩コショウとかの塩梅が難しいんだよ」



 レンジでチンするだけで料理と思っている奴らと一緒にしないでもらいたい。




 その後二人で一緒にご飯を食べて、バラエティー番組などを観ながらダラダラとしていた。コマーシャルの間に、忘れないようにゆいねぇに入部届を渡しておく。



「はい、入部届承りました」


「言っておくけどお試しだからね? 俺はもう中学の時みたいなのはごめんだから」


「大丈夫大丈夫。ネガティブはモテないぞ?」


「むしろポジティブ志向の人は宇宙人だと思っているよ」




 俺はいつの間にか、完全なネガティブ人間になってしまった。自分自身が情けないというか、自己肯定感がなくなったというか、人生に絶望しているというか……

 何も気にせず、どうにかなるみたいなメンタルで生きている人が羨ましい。




「ゆっくんも男なんだからさ、モテたいはモテたいでしょ? 料理は出来た方がモテるっていうのも一つのアドバイスだぞ?」


「別にモテなくてもいいって。恋愛とか良い面もあるのは分かってるけど、色々と難しい面もあるし。それに、さっきも言ったけど文明が発達しているから問題なし」


「だから高血圧になるんでしょ。運動もしなくなっちゃったし」


「まだ元気に動けているからセーフ」


「全くもう。とりあえず作り置きしておいたから、それ食べるんだよ?」



 中学までは、バリバリに運動していて色々と健康にも気を付けていた。ただ今となっては運動もしていないし、甘党だし、寝不足でゲーム三昧と最悪である。まぁ元気で生きられている内は大丈夫でしょ、とは思っているが、ネガティブ志向なので結構不安になったりもする。色々と考える事が多すぎて本当キャパオーバーだ。







 あまりネガティブになってもいけないかと思い、俺は話題を変えることにした。青春活動部についてもう少し聞いておこう。



「てかさ、青春活動部って何なの? その部活ができた経緯とか」


「元々はね、学校に馴染めない子をどうにかしようっていう案だったの。それを私が冗談交じりに提案したら、なんか事進んじゃってって感じ」


「へぇ。部員は何人いたんだっけ?」


「えーと、二年生が二人で、ゆっくんと同じ一年が三人かな。ゆっくん入れたら合計で六人になるね」


「普段は、皆どんな感じで活動してるの?」


「前も言ったけど、本当自由だよ。課題したり、読書したり、ゲームしたりとやりたい事を皆やっている感じかな」


「本当そんな感じなんだね」


「居場所を作ってあげるのが、一番重要なんだよ。居場所がないと、安らぐ場所がないからね」



 ――居場所か。



 俺も昇と碧と一緒にいるという三人の空間っていう居場所があったからこそ、色々と助かったと思う。ゆいねぇもきっとそんな感じの事を考えているんだろう。



「あとゆっくんに朗報がございます。女子が何と三人もいます! パチパチパチパチ~!」


「こら何が朗報だ。俺は興味はないぞ」


「強がらなくても良いんだよ? 高校生男子って、女子の事ばっかり考えているでしょ?」


「まぁ一般的にはそうかもしれないけどさ」



 思春期の高校生男子は、何かと活発的だというのは理解している。俺も、そういった欲がないと言えば嘘になる。


「ゆっくんの恋愛の事とか全然聞かないし」



 ゆいねぇに何か言うもんか。もし言ったら、何をしでかすか分からない。先生の立場を利用して、生徒に質問するとか言う最強の方法で、職権を乱用してきてそうだ。職権乱用防止教室の開催を求めます。



「その言葉をそのままお返しするよ。俺もゆいねぇの恋愛話とか聞かないし。碧と今度クレープ食いにいくから、異性との関りもあるぜ。舐めるなよ」


「……碧ちゃんは、好きじゃないの?」


「うーん……碧とはそういった感じじゃないからなぁ。親友って感じだし」



 碧は確かに可愛いとは思うけど、親友って感じで付き合うとか、そういった感じではない。

 あと、ふと見えたゆいねぇの悲しそうな表情が少し気になった……気のせいだとは思うけど。





「じゃあ私はそろそろ帰ろうかな。明日から改めてよろしくね」


「了解。放課後、部室に行くわ」



 



 こうして俺は青春活動部に入部することになった。不安な気持ちもありつつも、どこか期待してしまっている自分がいた。




「やっぱり、この感情は捨てきれないな」


 俺は、一人でそう呟いた。



 












 



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