第2話 親友

「青春活動部? 何それ?」


 俺は思わず、ゆいねぇに問いかけた。何だそのカオスな青春活動部とかいう部活は。これは、アンチにならざるを得ないな。



「元々は二人だったんだけど、新入生も入ってきて今年から部になったから知名度はないかもね。一応、部活紹介の時に紹介してたけど寝てたでしょ」


「ご名答だよホームズ君」


 俺にとって部活は不要なので、貴重な睡眠時間に使わせてもらっただけなのだが。



「誰がホームズ君よ。まっ、部活としては全然方針とかも決めてないけど」


「てかなんでゆいねぇが顧問というか何でその部活を担当してるの?」


「ある事がきっかけで、そしたら何かそれ良いからやってみようか桜庭先生、と何か上から押し付けられて今に至ります」


 何だか大人の闇が垣間見えたような気がするが黙っておこう。先生にも色々あるんんだなぁ……怖い怖い。




「そっか。じゃあ俺はこれで」


「こらこら逃げるな。一年生は最悪、一ヶ月は部活に入らないといけないでしょ。候補はあるの? それに一ヶ月とか二ヶ月で辞めるとしても色々と印象悪くなったりしちゃうでしょ?」


 ゆいねぇはいつも核心をついてくるので、少しこういった感じの真面目な時は苦手だ。現代文の担当なだけあってか、俺の心情を良く理解している。


「別に関係ないし、中学の事もあるからさ」


「それは分かってるけどさ、私としてはやっぱり変わってほしいわけよ。別にゆっくん、じゃなかった春風君のせいでもないし」


「おいこら。先生と呼べという割に癖出てるじゃん」


「先生に反抗しないの。反省文書かせるよ?」


 それはいかにも職権乱用すぎる。年功序列の世の中は良くないぜ! おい! 若者をいじめて楽しいか!



「部活って言っても何するのさ?」


「さっきもちょっと言ったけど決めてないのよね。合宿とか皆で遊びに行くとかしてみたいけどね。まだ部はできたばっかだし、仲良くなってからかな。でも別に読書しようが、課題しようが自由だよ。基本は、月水金の3日間だけ部室に集まる事だけ。予定とかあれば休んでいいし。悪い話じゃないでしょ?」



 それって部活って言えるのか、と思ったが悪い話ではないな。ゆいねぇが担当はしてるみたいだし、基本自由で休めるし。ホワイト部活だ。

 正直、口車に乗るというか騙されてる感が半端ないが、かといって部活の目星もついていないし、結構良いなとは思う。

 それにゆいねぇなら分かってくれてるとは思うから……



「まぁ何しても良いなら、入っても良いかなって思ってる。ただ、あの時のような人間関係とかはごめんだ」


「大丈夫。私がいるし、何より皆似た者同士たちだからさ」


「ふぅん?」


「ま、とりあえず部室は301教室ね。入部届書いて持ってきて。何なら今日とか仕事早く終わりそうだし、おかずとか作り置きするときに私が持って帰ろうか?」


「ならそれでよろしく。とりあえず明日行ってみればいいんでしょ?」


「了解。昼休みだったのにごめんね。じゃあまた夜に」



 そう言って、ゆいねぇは職員室に帰っていった。似た者同士と言った言葉が引っ掛

かったが、深く考えても分からないので今は気にしないでおこう。







 教室に帰ると、俺の数少ない親友の二人が近づいてきた。野球部でスタイルもよく、イケメンな村山むらやまのぼると、野球部の女子マネージャーで、ショートカットでボーイッシュで密かに男子から人気がある常盤ときわあおだ。


 中学のある事があってから、俺はあまり人と深い関係をもたないようになった。ただこの二人は、中学で出会ってからずっと仲が良かったし、優しくてとても良い奴だ。ずっと俺の仲間であり、味方で親友で良き理解者だといえる。


 元々この高校を志望した理由も、二人が志望している高校だったからだ。俺は勉強が嫌いかつこの学校の基準とされている偏差値も届いてなかった。そのため、受験期は昇や碧、ゆいねぇの力を借りて必死に勉強した。

 この学校なら同じ中学の奴もあまりいないし、嫌いな奴らと出会うこともほぼないだろうし……



「おい碧、てめぇこら何ニヤニヤしてやがる」


「にひひ。だって入学早々怒られるの面白すぎでしょ。ユウの今後が思いやられるね。昇もそう思うでしょ?」


「ま、全部が雄哉らしいから良いけどな。それで部活はどうするんだ?」


「ふっふっふ。一つ助かる道が見えてきたぞ」


 

ちなみに、昇は俺の事を雄哉、碧は俺の事をユウと呼ぶ。そういえば昔、受験勉強の時に碧に名前の呼び方について質問したことがある。碧が急に呼び方を変えて、軽く質問した時の事だ。





「なぁ碧。なんで前まで普通の名前呼びだったのに急に変えたんだ?」


「変えたっていっても雄哉からユウになっただけじゃん。“や”が減っただけだよ。雄哉って贅沢な名前だから、ちょっと変えただけさ」


「お前はどこぞの婆さんか」


「ははは! やっぱりユウといると楽しいなぁ。こういうネタが通じるの良いよねマジで」


「で、本当はどうしてだ?」


「ユウも女心がわかってないね。女の子って実は面倒くさいんだよ。嫉妬したり、独占しようとしたり、唯一のものになろうとする。そんなもんだよ」


「うーん?」



 当時もよく分からずに濁したが、今思い返してみても分からないな……まぁ女心とか正直分からないといえば、分からない。というか人間って、それぞれに色々な感情や考えがあるから不都合なんだよな。なかにはそれが良いという著名人とかもいるが、俺には生きづらくでしょうがない。




 そうやって過去の事を思い出していたら、昇が興味津々に



「おっ、雄哉がいつにもまして自信があるな。何か良い部活でも見つかったか?」


 と俺に質問してきた。なので俺は


「昇も碧もゆいねぇがこの学校にいる事は知ってるだろ? そのゆいねぇが担当してる部活に入る事にしたんだよ」



 とまるで俺がこの案を考えて、画期的なアイディアを思いついた社員かのように、ドヤ顔で昇と碧に向けてこう言った。

 ちなみに二人も俺とゆいねぇとの関係については、中学の時に話していたので知っている。二人も流石にこの学校にいるとは思わず、とても驚いていたけど。




「桜庭先生だよね? まさか俺たちと同じ学校になるとはねぇ」


「本当だよ。地味に性格悪いんだよゆりねぇ」


 こうして俺と昇が話していると、横に若干不服そうな女の子が一人。



「……なんか腹立つ。ユウ、今度オフの時に市内のクレープ一緒に食べるの刑ね」


「へいへい。バナナチョコが一番人気のとこな。あれ美味しいよな」


「相変わらず雄哉は碧に甘いな」



 ちなみに俺と碧は、周りが心配するぐらいの大の甘党である。2人でケーキをホールで食べたり、ドーナツやアイスを爆食いしたり、バイキングでデザートを独占したりと我ながら怖い。


「えへへ。ユウは私に甘くて良いのだ。これこそがマブダチ!」


「なぁ碧。俺を財布だとは思ってないよな?」



 まぁ俺のお財布事情は、父さんが頑張ってくれていることや、ゆいねぇが助けてくれていることもあってそこそこの金額はある。ただ、趣味などですぐ金欠になる事も多いが。



「……思ってないよ。ユウの事を財布なんてオモッテナイヨ?」


「おいこらぁ! てめぇ!」


「全く雄哉も碧も子供なんだから」


「「うるせぇ! 高校生は子供だ!」」




 俺の今の友達は、二人と一般的には少ないかもしれない。けど、この二人で本当に良かったと改めて俺は思った。







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