第3話
………油がダメって事はマヨネーズもダメっぽい?
何故か異世界に来ると皆作ってるよねマヨネーズ、そんな簡単に作れたっけ?
ズルいよねマヨネーズ、皆アレでそれしてぼろ儲けしてるの。
私もそんな風に楽してお金を稼ぎたい!!
でも私作り方知らんのよね。油と卵を使う事は知ってるんだけど………何処かの異世界漫画では調理実習で習ったって言ってたけどそんなのホントに習った?
もしかして授業内容が違ってない?私が古いのか新しいのか知らないけど、授業内容が変更されてる可能性、若しくは学校・教師の違いによるものかもしれない。
そもそも家庭科の調理実習の内容をほとんど覚えてないのもあるんだけどね。
皆覚えてる?調理実習したことは覚えてても、何作ったか迄、ましてや使った材料と分量正確に覚えてる人居るぅ?
覚えてるーって人、もうちょっと別の事にその素晴らしい記憶力を使った方が良いよ?
私が覚えてる家庭科の記憶と言えば………何故かエプロン縫わされて………決められた縫い方ちゃんと出来てなくて下手過ぎて居残りで………たった一人教室で泣きながら作業させられて、結局出来なくて宿題にされて家に持って帰らされて………おばあちゃんにも手伝ってもらって提出したら即バレて、「アナタがこんなに綺麗に出来る訳がない!!」って先生にメッチャ怒られた事がある。
皆の前で立たされて怒られた事よりも、先生にガチギレされながら言われたその一言の方がショック大きかったなぁ………。
――――――止めよう。嫌なこと思い出した。
ドレッシングは作った覚えがあるんだけどなぁ………。
あ、でも『作った』覚えはあっても、『作れる』わけじゃないから意味がないか。
それに私が実習で作ったドレッシングでも油使ってたような気がするし。
それなら今の人たちはサラダに何を掛けてるのかって言うと、塩。
普通にお塩、コショウとかレモン汁的なのでもなくて塩で食べるのが一般的。
『目玉焼き 何かけて食べる?』とかいう主義主張戦争不可避な数々の似たような問題が一切発生しないという点において、この選択肢の狭さが一つの争いを失くしているのは素晴らしいね。
まだこの世界がそのステージに居ないだけの話っていうのは黙っておこうね?
そうそう。
マヨネーズと言えば卵なんだけど、この世界で卵は高級品みたい。
どうして知ってるのかって?それはね――――――。
「おチビよぉ。懲りねぇなぁテメェは、油の次は今度は卵だぁ?んなもん本店の方でも限られた客にしか出さねぇ超高級品だぞ?ウチにあるわけ無ぇだろうが、しかもまた他人の休憩中に突撃してきやがって」
――――――ガストンさんに呆れながら言われたからね。
休憩中なのはごめーぬ。
だって休憩中じゃないとガストンさんに話しかけられないんだもの。
仕事中の厨房とか修羅場過ぎて小さい私とかが入って行くと、普通に調理師の人に轢き殺されそうになるからね。
「ニワトリっぽい鳥――――――ドドっつぅ鳥が産んだ卵が食用とされてるなぁ」
「食用とされてるって事はもしかして………」
「まぁ流石におチビでも此処まで言やぁわかるわな。食用に適さない卵もあって、それがデデって鳥が産む卵だ。これには普通に毒がある」
「生で食べなきゃ大丈夫とかじゃないの?」
「昔『それは毒ではなく、卵の表面に付着した細菌が原因だ』とか言ってデデの卵をよーく茹でてから食べて、皆に固唾を呑んで見守られながらしっかり死んだバカが居るからな」
「そこは誰か助けてあげようよ!?何で死ぬまで見守ってるの!?」
異世界人はバカに厳し過ぎる!なんて恐ろしい!
その人はきっと私と同じ転生者だったんだと思う。前世の知識に囚われて、私がやらかす前に身体を張ってそれがもうどうにもならない感じのヤバい毒だったって証明してくれたわけだね。尊い犠牲、南無南無。
「――――――んで、いやらしい事にデデの卵はドドの産む卵にそっくりでなぁ。しかもデデはドドの巣に托卵するというかなり厄介な性質をもっている。そしてもっと厄介なのが巣に一個でもデデの卵があると、他のドドの卵まで毒性を帯びちまうんだ」
「もうそのデデって鳥、皆殺しにしても許されると思う」
生きるための知恵なのかもしれないけど托卵する意味よ。
毒があるってだけで卵を守るって意味では充分なんじゃないの?
「それから御貴族様を毒殺するのにデデの卵が用いられるようになった。中には完全な事故で食っちまったのも居るらしいが、それでも御貴族様は卵を食べるのを止めなかった。貴族流の度胸試しだとか当時は言ってたらしいが、単純に卵を平民に食わせたくなかったんだろう。そこから数年経って何処かの国の魔法使い様が『ドドとデデの卵を見分ける魔法』だかを開発して、各国から大魔法使いの称号を賜ったほどだ」
いや、皆どんだけ卵が食べたいのよ………。
「そこからは油と大体同じ流れだな。安心・安全な卵だって調べる為に魔法を使って判別してるが、その魔法を使える人間に限りがある。だから市場に流れてくる卵に希少価値が生まれて高騰するわけだ」
「徹底的にデデを閉め出して、ドドと接触させなければそれらの卵は安全ですって言えるんじゃないの?」
「その辺はドドを飼ってる連中に言え。そしてこれ以上俺の休憩時間を奪うんじゃねぇ」
恐さが二割り増しくらいになった顔で私を休憩室からぽいっと追い出すガストンさん。
悪いことしたなぁ………まぁそうだよね。ガストンさんだって何でも知ってるわけじゃないもんね。
「あー!見つけた!ユニったらまたサボってる!」
ふぉぅ!リタ?『また』って何さ『また』って。
私はこの店の為を思って自主的に手を出さないようにしてるだけなんだからね!?
「ガストンさんに訊きたい事があったから話を聞いてただけ」
「その間仕事してないじゃない」
リタさんや、正論パンチはやめよう。
私の分が悪すぎるから。
「前から思っていたけれどユニちゃんってガストンさんが恐くないの?」
リタに連行されたいつもの私たち専用の作業場で、クラエットさんが不思議そうに訊ねてきた。
「私苦手、あの人すぐ怒鳴るんだもん」
リタはガストンさんが苦手だったらしい、初めて知ったよ。
「………顔恐いし、すぐ怒鳴るけど良い人だよ?」
私みたいな小娘が訊いた事、適当言わずに知ってることならきちんと教えてくれる。
『他人に何かを教える』って事がどれだけ労力が必要な事なのかを私は前世で身を以って知ってるから、面倒だから適当に軽くあしらう方が遥かに簡単だけどそうしないガストンさんは本当に良い人なんだと思う。
苦手と言うなら――――――。
「私はレンブラントさんの方が苦手かな?クラエットさんの事見過ぎな時あるし」
「わかる!『確認作業』だとか何かと理由付けてこっち来るけど、私とユニそっちのけでクラエットさんとばっかり話してるもの!露骨すぎるよね!」
「二人とも、もうそのくらいに――――――」
「………すまなかった」
「「ふひぃっ!」」
リタと私が振り返った先で、レンブラントさんが膝をついて俯いていた。
私とリタの何気ない言葉のナイフがレンブラントさんに突き刺さってしまったらしい。
その後レンブラントさんをクラエットさんに任せる事にして、クラエットさんの抜けた穴をカバーしようとした私の血が流れたのは言うまでもない。
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