第2話

フェベ芋、見た目はマジでジャガイモ。

こっちの世界では輪切りにして蒸して塩、というのが一般的な食べ方。


それならばこれはもう作るっきゃないよねぇ!!


そう!ポテトチップス!!


私的には特に好きでも何でもない、家にあれば偶に食べる程度のおやつでしかなかったけれど、異世界ならばその存在感はきっと高いはず!!


だって異世界人みんな美味しそうに食べてるもの!!


「何だコレは!!革命だ!!」的なアレよアレ。

折角異世界に来たんだからそういうの見たいじゃない?したいじゃない?


じゃあやっちゃおう!!――――――って事で。














「はぁ?油を大量に使いたいだぁ?死にてぇのか?」


はい意味が分からないー。

油を使いたいって言っただけなのに殺意を向けられたんですけど?

この二号店の総料理長を務めるガストンさん、髭面で顔つきも目つきも悪いけど、言葉選びも大概悪い。

休憩時間に突撃した私も悪いけど、前世ならパワハラ上司として秒で訴えられてるよ。


「おチビよぉ。このジョッキ一杯の油でいったい幾らするか知ってっか?」


ガストンさんが空のジョッキを掲げて訊ねてきた。


え?急にお金の話?

えーっと油の値段なんてわからないけど、大量にあるんだし、ジョッキ一杯分くらいなら安いんじゃないのかな?


銅貨六枚六百円!」

「三回くらい死んで出直して来い!!」

「ひどすぎる!」


こちとらもう既に一回死んで別世界でやり直してる最中だからちょっとシャレにならない。


「………本店で使ってるのと比べりゃ幾らか質は劣るが、それでもジョッキ一杯でおチビの一か月分の給料でもまだ足りねぇくらいだ」


「そんなするの!?」

「ったりめぇだろうが!これだけ純度の高い油、それも人が食っても問題無ぇってお墨付きを貰った品質の物だけを使ってんだぞ?そんな値段で手に入るわけねぇだろうが!!」


「人が食べても問題ないって、問題ある油もあるの?」


「良い質問だおチビよ。時々露店で油で素揚げした鳥肉売ってる店を見た事あるだろう?」

「あぁうん、知ってるよ。でも時々だけど凄く変な臭いするから、安いけど怖くて食べたことない」

「それが正解だ。その店が使ってる油ってのがギリギリのラインだ」

「ギリギリって?」

「食用油の最低品質――――――を使ってた何処かの店から回収して、多少濾しちゃいるが酸化しきってて臭いもとれねぇ劣化品も劣化品、その時々によって回収した店が違うから当然味も臭いも変わる。俺に言わせりゃあ正直家具かなんかのツヤ出しで塗る油で揚げてるのと大差ねぇぜ」


「ギリギリって食べれる食べれないとかじゃなくて、ギリギリお腹壊さないラインって事!?」

「違ぇよバカ。その時々で腹壊す程度で済むか、運が悪くてそのままぽっくり死んじまうかのラインだ」

「余計酷くなった!?」


食べればお腹は壊すかもしれないけど、時々運悪く死んじゃうよりマシだよね?のラインって………まぁお肉が食べられるから文句言えないのかなぁ?この世界ってお肉高いし。(※肉の値段は知ってる)


「でもそんなの売っててよく逮捕されないね」


一応この世界にも警察に似た組織があって、町の治安維持から門番、依頼があれば町の要人警護まで幅広く対応してる。

どうして知ってるのかって?お父さんが一番上の兄がそこで働いてるから。

因みにお父さんが東西南北四か所在るうちの西側の門番長、一番上の兄が町の治安維持部隊の下っ端衛士、今度その二人にそのヤバい店をチクってやろうか。


「………おチビにゃまだ早いかもしれんが、あんな店で買い物するのは税さえ真面に払えない貧民の中でも最下層なヤツの事が多い、そんな連中がどうなろうが御偉方にゃ知ったこっちゃねぇからな。寧ろそうした連中が減った方が町の治安が良くなって良いとさえ思ってる貴族様が多いから放置されてんだよ」


うわー聞くんじゃなかった。

何処に闇が転がってるか分かったもんじゃないね。

お腹空かせて必死で稼いだお金で偶の贅沢にお肉を食べてようと思っても、それがお腹壊すか運が悪ければ死んじゃうかの品物だなんて――――――。


「まぁ連中もそういうリスクは百も承知してんだよ。それに死にたくなきゃもっと金貯めて、良い店で安全な肉を食やぁ良いんだ。そのためにハルバルバート二号店はマナーもドレスコードも無く、誰にでも門戸を開いてんだからな」


ちょっとだけこの世界の闇を見てしまった気がしてが怖くなった私の頭を、ガストンさんの大きくてゴツゴツした手が乱暴に撫でる。


二号店ウチじゃ油は必要最低限しか使わねぇし、蒸し料理がメインだ。油とスパイス使う料理程値段が高くなるのはそういう理由も含まれてんだ。安全な食用油ってのはまだまだ高級品だ。ウチもかなりその辺はシビアに管理して再利用してるからおチビが何に使うのかは知らねぇが、例え再利用品だとしても気軽に使わせてやるわけにはいかねぇんだよ」


………他の異世界ではどうしてあんなに簡単にポテトチップスが作れるんだろう?

油が採れる植物が何処にでも沢山あるのかな?

それとも油を大量に輸入してる?


都合よくオリーブっぽい木なんて生えてもいない、もしあったとしてもそこからオイルを生成する術を私は知らない。

実か種を搾ってオイルになるのだとしても一本の木からどれくらいの実が採れて、そこからオイルがどれくらい生成できるのか?きっと大した量じゃないことくらいは想像できる。

前世で見たことのある、お店で売ってるあの瓶一本を生成ために必要なオリーブの量なんて計算も出来やしない。


そう考えると、そもそも『とりあえずやってみよう!!』なんて気軽な気持ちで始める事も出来なくなってくる。もし上手く事が運んで生成できたとして、それが毒性のある植物かも判別できない。

フェベ芋だってジャガイモに似てるからって、全く同じとは限らないんだって思えてくる。


試行錯誤を繰り返して――――――みたいに他の異世界漫画では言ってるけど、今私の居る世界ではそう簡単に試す事も出来やしない。


まずは植物に詳しくならないといけない、それから油が採れる植物があるか、それが容易に手に入るかどうかを調べて、油を生成できてもそこから本当に毒性が無いのかを確認しなければならない。


あぁそうか!


人によってはアレルギーが出るかもしれないから、それにも気を付けないといけなくなる。

一応毒性がないと判断されたらテスターを募る?

その場合何人くらいに確認してもらえば良い?百人くらい?当然タダで危険があるかもしれない事をやってくれるはずなんて無いから、幾らかお金は支払わないといけなくなる。

その資金は何処から?相場はどれくらい?

そう考えると異世界に行った人ってすぐ知識をつかってお金持ちになったり、主人公の為になんだってしてくれたりする人と知り合いになる――――――ズルい!!


「………それで?おチビは油で何しようとしてたんだ?」


私にも――――――居た!?

聞く耳を持ってくれたガストンさんに、私は一生懸命ポテトチップスをプレゼンした。そんなに大好きなわけでもないけど、何故か熱弁していた。


「ほぅ。フェベ芋を油で揚げる………ねぇ。マジで死にてぇのか?」


その後ガストンさん立会いの下、少量の油を引いたフライパンに薄くスライスしたフェベ芋を投入!


結果――――――爆発した。


「フェベ芋は油と反応して爆発すんだ。料理やってるヤツならまず最初に習う常識だな」


私は改めて異世界には異世界の常識と自然現象が在って、前世の常識とか知識とか物理法則とかそういうのが役に立たない事もあるんだと知りました。

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