第9話
山賊が出没しているという訴えをもとに会議を開いて対策を協議した。会議をこなして執務室に戻ると、ナタリアがにやにやしながら新聞や雑誌を持ってきた。
「ご覧ください、陛下。早速、陛下の側室たちの特集記事が組まれています」
「記者の仕事が早いな」
「今までにないほど盛り上がっています。側室の人気投票もあるんですよ」
「なぜ今から人気投票などするんだ。父の時はあったか?」
「娯楽ですよ。先代陛下の時はなかったかと。序列が明白でしたから。今のところ一番盛り上がっているのは、プラトン公爵家の次男の肖像画が手に入らず人相が家族以外誰も分からないことです。ほら、予想人相画がこんなに載っています」
「私も実際のところ知らないがな。肖像画や似顔絵は良く描くからあてにならない」
ナタリアが持ってきた雑誌や新聞にささっと目を通す。どこで手に入れた情報なのか、側室になることが決まっている者たちの経歴や特技、好物、似顔絵などが詳しく載っている。
人気投票の一位にはナイルが目立つ。アイラを庇って怪我をした話が知られているからだろう。ナイルには劣るが殺された婚約者の弟としてケネスの名前も目立った。
「女王が側室を持つのは珍しいですからね、陛下は注目の的です」
「民衆の反応はどうだろうか」
「女王が側室を持つなんてけしからんという保守的で否定的な意見三割、女王は面白いことをしていると楽しんでいるのが三割、政権安定のためにさまざまな派閥の男を集めているという極めて現実的な見方が二割、初代女王アイリスにも夫が複数いたそうだからやはり陛下はアイリス女王の生まれ変わりだという初代女王崇拝派が二割ですね」
「どれも決定的な意見ではない」
「明確な否定派は三割ほどです」
「そうか」
いいのか、悪いのか。即位したばかりだからまだまだ民衆も厳しいことは言い出さないということか。てっきり半分ほどには反対されると思っていた。初めて自分の外見に感謝できそうだ。初代女王に似ているからなんだと言うのだと思っていたが、外見は最大の武器だ。
「男が即位したならば三割も側室を持つことに反対しないのにな」
ため息をつきたくなりながらアイラは耐えた。
「女王陛下しか妊娠できず産めないからだそうですよ。男性が国王だったら側室は皆妊娠できてすぐ子供がたくさん生まれますから。もちろんそう簡単にはいきませんけれど。先代の時もハーレムは荒れておりましたよね。皆さま、嫉妬という感情を簡単に忘れておいでです」
「私が産めば確実に王族だ。父の側室はたくさんいたが、父の子供だとどうやって証明するのだ」
「ふふ。親子を鑑定する技術はまだありませんから」
「紫の目は王家の証と言われているが……笑わせる。異母兄も異母妹も紫の目はしていない」
「はい。お二方の目の色は近くで見ればまったくもって紫色ではありません」
「それなのに異母兄は王位を狙った。恐ろしいことだ。何が王家の証だ」
アイラが新聞を置くと、ナタリアは素早く片付けてすり寄ってきた。
「陛下は目もとても美しいです」
「私の目はどんな色をしている? 私には見えない」
「大変美しい澄んだ紫です。鏡をお持ちしましょうか? 毎日見ていらっしゃるでしょうに」
「いい。外見だけでも王族の証を持っていて私は運がいい」
「陛下は外見だけではありません。毎日しっかり公務をなされているではありませんか。書類もたくさん片付けておられます。今日の会議での山賊対策はどうなりそうですか」
「私が即位する前後で被害が増えているからな。早く何とかしたい。騎士団を派遣することにした」
「山賊被害はこれまでよくあったにもかかわらず、陛下の治世が悪いからこんなことが起きるだの、陛下が即位したのが悪いだの言い始める者もおりますからね」
アイラは頷いて、ぼんやりした。会議が長引いて書類は残っているものの、普段なら仕事を終えるべき時間だった。
時間が決まっているのはいい。起きてひたすら仕事をして眠る。こなすべきことがあるから、ヒューバートがいなくても生きていける。
「誓約式の準備は順調です、陛下」
「……それは良かった」
「夕食にされますか?」
「あぁ、そうだな」
長い付き合いでナタリアはアイラが疲れていることを瞬時に察したようだ。すぐに誓約式の話から夕食の話に切り替えてくれた。
机の書類に視線をやって、自分を戒める。ぼんやりしてはいけない。
ヒューバートを失って自分がなぜまだ生きているのか考え始めたら、死にたくなるから。
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