第15話 はし
谷にかかった高架橋は、巨大な怪獣の通過によって破壊され、底に落ち、地面にふたつになって横たわっていた。
空は曇り気味だった。
道路計画が中止になったのは二十年以上前もまえだった。高架橋は完成間近の状態にもかかわらず、最後の仕上げを残す状態で、時間がとまっていた。公式には、誰ひとり通過した人も、車も存在しない。時折、違法な侵入者が渡るだけに終わった橋だった。
橋は丁度、真ん中から割れて、大きく二つなって、谷底に転がっている。かつて、田畑であった場所に倒れていた。谷にそって倒れているため周囲に生えた木々はひとつ傷つけていない。土地はかなり昔に買収済みで、あたりには人家の類もなかった。
その青年は近隣の林のなかに潜んでいた。迷彩柄を主とした簡素な滞在設備を周囲に展開させ、陣取りスマートフォンをいじっている。指を動かし、画面にはこれまで撮影した動画を眺め、ここだという箇所で、静止し、画像を取得して、動画を再開する。その作業を繰り返し、画像を生産していた。
年は二十歳ほどか、キャンプそのものを愉しんでそこにいる気配はない。少なくとも周囲の自然への歩みよりはみられなかった。
そのとき、破壊された高架橋へ向かい高校生と思しき数人の男子生徒が騒ぎながら近づいてきた。青年は、少年たちの高架橋への接近を察知すると、様子を伺いつつ、スマートフォン用の望遠を、ポケットから取り出し装着した。彼らの死角を意識しつつ、林のなかを移動しはじめる。足取りは慣れてはいるが、運動神経そのものが優れているわけではなさそうだった。それに多少、雑に動いても、距離があるため、向こうが気づく可能性は少なそうだった。
やがて、高校生たちは怪獣に破壊され、地面でふたつにわれて横たわる高架橋のそばまで近づき、とまった。そして、大いに騒いだ。著しい安直な興奮が見られた。ある少年はほとんど奇声に近しいものを上げている。ある学生は、本物の怪獣の亡きがらでも目にしたように茫然として、それを見上げていた。より、無謀な者は危うい瓦礫の山の上へ登っている。
彼らが統一して持っているのは、どうにかここで特別な体験を得てやろうという、異質な遊びへの願望だった。青年はそんな彼らの死角へと移動し続けた。茂みに身を隠し、しゃがんで近づく。ぜったいに見つかる危険が高まるまでの接近はしない。ここだという場所まで近づくと、怪獣が破壊した現場を体感している学生たちへスマートフォンのカメラを向けた。その様子を撮影し始めた。学生たちの表情と、その視線にある景色を含め何枚も動画を撮影する。
涼しい日だった。太陽は貧しい熱を放ってない。それでも撮影している間、青年は汗をかいていた。学生たちは三十分ほど倒された高架橋を見物し、あきずに奇声をあげ、瓦礫の欠片を拾ってどこかへ投げたりし、取り出したスマートフォンで、写真や動画を撮ると、やがて、同じ道を辿りどこかへ去っていった。
完全に高校生たちの姿が見えなくなってから数分後、青年はスマートフォンから視線を外し、深呼吸した。それから立ち上がり、もといたキャンプの設営地へと歩いて戻ってゆく。
戻ると、そこにスーツを着た男が自分の椅子に座って待っていた。
とうぜん、青年はその男の名はリョウガということを知るはずもない。
リョウガの姿を目にした青年は驚いた。同時に身体の均衡も失って、湿った落ち葉に足をとられた。転倒こそしなかったが、けっきょく手からスマートフォンを落とす。
「よかった」
と、リョウガは落ち着いた口調でいった。
「予定通り驚かれた」
感想をこぼす。
いっぽう、亡霊のような相手の登場に、青年は短時間では焦りを沈められず、「………な、なに?」と、問い返すだけで、心は限界だった。
問われたリョウガは椅子から立ち立ち上がる、そのただの動きにも青年は敏感に臆して、身をこわばらせる。
殴られると思ったらしい。
こうして、怪物扱いされるのは、どこか新鮮だった。
「おれもこういうことをしたのは初めててなんだ」
リョウガは淡々とした口調で正直に話す。
「だから、いま、なんともいえない気分になってる」
今度は相手へ感想をささげる。
「っ、お、おい!」と、青年はいきった。だが、すぐにいきりをおさめて「い、いや、な………なんだよ………」声を小さくした。
「おれの画像、撮ったろ。無断で、しかも、勝手でネットにあげた」
そう言い返すと青年はわかり易く動揺した。
だが、何も答えず、反応せず、あげく、急いでその場に展開させていた自身のキャンプ道具をまとめ始める。だが、慌てているためかうまく片付けられない。袋におさまらず、道具がばらばらになって地面に散る。けっきょく、なにも片付けられない。
「文句を言いに来たわけじゃない」
そこへリョウガは淡々と告げる。青年は手を動かしながら、おそるおそる見返してきた。
「写真を勝手に撮られて、好い気分にはならなかった。でも、おれは、ここにその文句を言うために来たんじゃないんだ」
念を押すように伝えると、青年はようやく逃亡の準備を止めた。「………じゃあ、なんだなんだよ」と問い返してきた。
目が合う、リョウガは反らさなかった。反らさないと決めていた。緊張を隠し切る。
汗をかいていたが、幸い、林のなかは涼しい。全身の熱の暴走を抑止してくれる。風が吹き、木々の葉が揺れて、揺れ合い、音がなり、隙間から差し込んだ陽が地面で揺らめいていた。
そうやって、一度、観察して、自己を落ち着かせたうえで、口を開く
「目的はひとつ、俺をここに登場してみせること」
そういうと、青年はきょとんとした。
「………なに、言ってるんだ?」
「さっき、おれが急にそこに現れた感じがしただろ。それでそっちは大きく驚いていた」
「そんなの、あんた………あたりまえだろが………あんなの、誰だってああなるだろ………」
青年の動揺はまだおさまっていない。それでも強がりを入れる。声を震わせながら答えた。
いっぽう、リョウガは落ち着いてスーツの胸ポケットに差し込んでいたスマートフォンを取り出した。
「で、そっちが驚いたところを、いまカメラで撮影していた。動画で」
「ちょ、なにしてんだよ!?」
とっさに青年はリョウガへ手を伸ばして迫る。だが、反対にリョウガが手で制すと、青年は危険を察知したのかその場で動きを止めた。
「くそ、なんだよ………」
自身が臆したことで自尊心を害したのか、その場からよわく吠えた。
「間合いをつぶした。おれも最初にこれをやられたときは何もできなかった。だからか、よけいに、これを覚えたいと思った記憶はある」
「なんだよ………あんたなんのはなしてんだよ………?」
問われると、リョウガは少し考えた後「もしかしたら、自分なりに出したい雰囲気ってのが、あるのかも」と、我事を他人事のように言う。
それは本来の自分ではないことをやろうとしているため生じている、その差異に対する調整作業にも感じられた。やったこともない自分を御する方法を探しながら進んでゆく様子もあった。
対して、付き合わされる青年の戸惑いは増すだけだった。優れた次の一手を考えてはいそうだが、けっきょく編み出せそうにない。
よってリョウガの動向待ちとなる。
そんな青年の思考線を感じとったのかリョウガは「つまり」と、やや気遣うように言葉を発し、それから顔を見て「いまからこの状況がどういうことかを、発表しよう」といった。
「え、ああ………」
「あなたがおれの顔、姿の写真を勝手にとってネットにあげたから、その復讐したんだ。正確には復讐の練習だけど。まずこれぐらい規模で、復讐の練習みようか、って思った。悪魔の囁きみたいな助言を貰ったんだ、ホントにやれるかどうか、って聞かれて」
教えるが、青年は「いや。わからない、だが………」といった。
「つまり、おれが、復讐、ってことに慣れるため利用させてもらったんだ」
重ねて言う。
すると、青年は少し考えた後。
「………いや、やっぱりわからない」
「世界観が違い過ぎるのか?」リョウガは自身をそう疑い、また次には「いや、純粋に説明が足りないだけか?」といって、スマートフォンを手にしたまま、腕を組み考え込み出す。
青年は戸惑ったままだった。だが、落ち着き始めていた。リョウガへの観察を開始させている。
着ているスーツは草臥れているが、靴だけはやたらと真新しい。異様に艶がある。定まった道のない林のなかを行くには不向きな新しさだった。
リョウガは腕を組み、地面一点を眺めていた。だが、やがて「まあ、目的は果たされたか」そういった。
腕組みを解き、青年へ顔を向けた。
「歪な体験させて悪かったよ。たしかに、はじまりはそっちにあるが、おれも手探りなんだ」
「あんた、怒ってるのか」
「正直、怒りはないよ。ほんとうさ、怒りはない」
真っ直ぐな目で淀みなく答えると、青年は茫然とした表情を浮かべた。
そしてしばらくじっと見返しきたが、ふと、視線を外して「そうか」とつぶやき、うつむいた。
だが、すぐに顔をあげた。
「あなたのことは知ってるよ、いつも怪獣ショウが終わったあとに来る、妙だから覚えたんだ」
リョウガはじっと見返すだけだった
「あんたは、あいつが怪獣ショウをやり終わった後に来てる。なあ、いったい、何者なんだ」
「終わった後に来るのは、仕事があって、間に合わないだけだ。まだ人生をコントロールできるほど実力がないから」
「なんだよそれ」その発言に青年は少し考えるような間をあけ「キザなのか?」といった。
「認めるよ、無意識にそういうところに入ってることはあるとは思う。なるべく伝えたいことを相応しい言葉にしてみせようとして、よく、しくじるんだ」
「………いや、つーか」嘲りがわずかに入った。「なんか、可笑しなふうに渇いてるって感じもありそうな気ぃもすんだが………」
感想めいたものを口にした。
「あんたさ、オレの写真をみたんだよな」
「見たよ」
「どう思った」声のトーンを変えて訊ねてくる。
しかし、何かを答えるまえだった。
「アートなんだよ」青年は地面に片膝をたてて座った。「オレの写真はアートなんだよ」
同意を求めたが、リョウガが回答する前に自身で肯定を入れた。
大きく目をひらき、どこともいえぬ、林の地面一点をみつめて言い放つ。その様子は、確信というより、妄信といえる様子があった。そこには異様な迫力を帯びてもいる。
「そう、アートなんだよ、おれの写真は」
リョウガに口を挟む間をあけず、ふたたび肯定する。
青年はさらに語る。
「つーかさ、もしかすると、はは、オレ、いまうれしいんだよ」
青年は奇妙な表現をつかって心境を語りはじめた。
「あんた、オレの写真を見てここに来たんだろ? ということは、オレの作品に影響されて、オレを殺してやろう、って考えたんだろ? いや、殺そうとまではしてねえんだろうけど、でも、似たような方向性なんだよな、その復讐ってのは、オレの作品に影響されて、オレを殺そうみたいな奴が来たってことだろ? これ?」
表現に埋め込まれた捉え方に飛躍があった。
リョウガは口を開かず、そのまま沈黙を消費する。
「そう、オレの作品はあんたに影響をあたえた、それって、オレの作品は誰かに通じるってことだよな? だからなんだ…………ええっと、よ、よし」ひとりうなずき、最後に「よし!」と声を張った。
世辞にも好い時間を過ごしているとはいえなかった。そこでリョウガは引き上げを決めた。そして青年に対し、反応しないままその場を離れようとした。
そして、その気配を青年は。自身の内部の吐き出しに夢中でとらえることができなかったらしい。
「そりゃあ! いままでオレを屑みたいに言うやつらだっていたけどなあ!」
突然、爆ぜるように叫んだ。
怒りを露わにする。小爆発的な感情表現の不意うちに、リョウガも驚き動きを止めた。
唖然として見返したが、青年は別の方向を見ていた。
視線の先には、木々の間の向こうには、怪獣が倒した高架橋があった。
「だって! きいてくれよ!」
青年は放った言葉に添って、リョウガの足にすがらんばかりの目でうったえる。
「みんな! オレの作品泥棒だとか、パクりだとかいう! あいつらなにひとつわかってねえだよ!」
歯を見せて叫ぶ。
ふと、リョウガは冷静になった。
「みんなって、誰だ」
それからそれを訊ねていた。
「ネットの奴らだよ、あそこにいるだろ、みんなは!」
攻撃色を目に灯らせて答えてきた。
「オレはこの国の、現代の! 戦争風景を写真に撮ってんだよ! あの光景を前にした人間たちの表情にはアートがある! なあ! そう思うだろ!?」
同意を求めてくる。そこで使用された言語表現だけでは、とうてい深い考慮のもと、作品が作成されているとは思えず、リョウガは反応に窮するばかりだった。
ゆえに、けっか、無反応でいるしかない。
対して、青年はリョウガを見ていない。かまわず続けてゆく。
「つまり、オレの写真は、あいつのアートから生まれたアートだよ! そうだ、アートがアートを生むのは当然のことだ。なにも考えて生きてない奴らは、そういうこともわかってねえ! ったく、ダメなんだよマジで! マジでだ!」
大きな喚きだった。おそらく町中で行えば、たちまち、騒ぎになる、通報される。
当然、そこは町中ではない。狂気を阻む仕組みが存在せず、青年自身は内部にため込んでいたもの自由に吐き出す。しかし放たれたそれは、万人受けの表現とは思えないしろものだった。無差別的多数の人々に、伝え、伝わるようなかたちを成していない。
「知り合い、なのか」
リョウガは、いなす意図も含め、青年の発言から拾ったそれを訊ねた。
ショウのことをあいつと呼んでいた。音量から、何か特別な距離感も覚えた。
不意にそう問われ、青年は「知り合い?」といって見返す。
「さっきから、あいつって言ってる、そいつのことさ」
「ショウのことか」
とたん、それまでの狂気的な勢いを失った、日常に草臥れた様子の口調へ転じる。
その人物の話題をひとからされることが、あまり好きではなさそうだった。
「あいつは同じ大学だった、知り合い………知り合いか、まあそうだな、よく一緒にいた時期もあった」
草臥れた口調のまま続ける。
かと思うと。
「けど、オレはあいつとは違う」
わざわざ会話の繋がりを欠いたそれ発言する。顔を左右に振り、何かの否定を入れる。
語る当人にとっては、それが重要なことらしい。
「あいつはつねに運が良すぎる」顔をあげ、それを強く伝えようとする。「あいつは顔だよ、顔がいいから、それで、けっきょく、いつだってどこかの誰かに必ず高く評価してもらえる」
言い掛かり域にきこえた。
だが、リョウガは口を挟まなかった。表情にも出さず抑える。
「それにとくに女だ、女たちだよ。あいつにいつも必ずあたらしい女がいた、それも、その時のあいつに必要な種類の女だ、女はみんなあいつを助ける。この怪獣ショウだってそうさ、それだよ、たぶんそうだ、女のおかけだ」
特別に根拠あるわけではなさそうだった。感情でいっている印象を受ける。
無論、真実はわからない。
「はは、いいや、女たちだけじゃないか。みんなあいつを助けたがる、あいつはなんにも思っちゃいないのに、一方的なのに、みんな、いつだってあいつを気にする。あいつの視界に入りたがる、隣にいたがる、本当の才能とかは関係なしだ。あいつといると、自分の価値があがったような気になるんだ」
そのみんなとは、いったいどこの世界の、どの人々をさしていっているのか。不明だった。
だが、青年自身が放つ話の不完全さを鑑みる傾向は見られなかった。言いたいこと言っているだけで、自分のなかで完結した世界を披露しているに過ぎず、しかし、ひとたびその部分を刺激するような言葉でも挟めば、たちまち怒りはじめ、不測行動に出てしまいそうな危うさもある。
ひどく面倒な時間に感じられた。
しかし、この場をすぐにでも立ち去る会心の方法を思いつけなかった。
「あいつの作品にはなにもない、ダメなんだよ」言って、かすかに嘲笑した。「証拠に、本当のアートの世界じゃ誰も認めてない」
今度は愚痴を吐く相手にさせられ、自尊心の回復装置として消費されはじめている。
リョウガはしだいに、後先など考えず、無視してこの場を去ることを考えはじめえいた。
いっぽうで、そういえば最近、全力で走った記憶がない。そのことに気づき、いきなりうまく走れるだろうか。不安になり、その懸念から、いざ走り出せずいた。
そして歪なままこの場に留められる。
「あいつは怪獣のことだって何も知らなかった」
青年は完全な愚痴を続けた。
「怪獣のことはオレが全部教えてやったんだ。そう、ああ、そうなんだよ、そうだったよ、オレがつくった怪獣フュギャアをみて、それでオレに話かけてきたがったんだ。ああ、あれが始まりだったんだよ、オレがいなきゃ、あいつはアレに辿りつけなかったはずだ
あ!」
最後は叩きつけるように断言する。
たどり着いたその考えは、青年のなかでは確固たるものになっている。もはや他人から意見を受け入れるような隙間を許さない。
「はは」
青年は笑い、顔をあげた。そのときリョウガを見る。
青年の顏から笑顔は消えた。
無表情のまま真っ直ぐに見返してくるリョウガの顏を目にし、好き勝手に展開した自論の結末と浮かべた笑みは完全に消えていた。
「怪獣を、知らなかった?」
リョウガが問いかけると、青年は一呼吸遅れて反応した。「え、いや………そう………だよ、ああ、あいつは怪獣の何も知らなかっ………」
「それは駄目だ」
青年の回答に対し、リョウガはそう返す。
「それは駄目だな」
言い直す。
真っ直ぐに向けられたリョウガの目、その虹彩にまじって、黒い何かが揺らめいてみえた。
「いや、なんだよ………急に………ちょ、おまえ」
放たれた眼光の異様な迫力に、青年はたじろぐ。
リョウガがかまわず続けた。
「奴がそれまで怪獣のことを知らなかった、それは駄目だ」顔を左右に振る。「それは許されない」
「あんた、なんの話してんだ………?」
「奴は知ってなきゃいけない。たとえ記憶喪失になったとしても、それだけは覚えてなきゃならない」
「な、なに、無茶苦茶なこといってんの? つか、それオレにいわれても………いやいやいや………」
「奴は怪獣を知っていたはずだ」
「いや、だからさ………な、なんだよ? な、おい……殴る気が!? やめ、やめろよ、あ、あ、あんた、まさかナイフとか持ってんじゃねえだろうな! いや、やめろよ!? つか、つか、アレだぜ! みえない怪獣が町を壊すって、アレだって、美大時代の同級生のころ付き合ってた女の作品をパクっただけだぜ! あいつは、その、なんていうか…………あ、あ、あ、その、とくにかく最低だよな! ああ、そうだ、あんたに言う通りだ! 最低なんだよ! そうそう!」
事態の最悪さを感じとり、ひどく焦り、動揺していた。どうにかしてこの場を乗り切ろうと、滅裂なまま持っていたショウの醜い部分の情報を提出する。とにかく、自分もリョウガと同じで、ショウの敵側であることを証明しようとした。
「そう! そうなんだよ! あいつのアレさ、女の作品をパクったんだよ! オレの怪獣だけじゃなくて、そっちからもパクりやがってさ! マジで最悪だよな、な、あいつはほんと、最悪なんだよ、オレもマジで殺したくなるくらい嫌いなんだ、あいつ、な、ああ!」
「ずっと思っていたことがある」
救われようと全力で活動する青年に対し、リョウガが極めて少量のエネルギー消費で問いかける。
「怪獣が壊したあと見に来た人間を写真に撮ってたんだろ」
「え、ああ………」
窮に違う方向から問われ、青年は虚をつかれつつ、うなずいた。
「怪獣が壊した場所にしばらく留まって写真を撮ってるんだろ」
「あ、ああ………」
「怪獣が病院を壊したあとの写真もネットでみた。あのときも写真を撮ってたんだろ。おれが写ったのがあった」
「いや、だから、それは………」
「だったら、あのとき、おれが賊に襲われて金を盗られるところも見てたんだろ」
「あ………いや………」
「あの日おまえ、おれのこと助けなかったろ」
「うっ、わっ、わっ、あ、ああ、ああああああああ! だだめだ、だめだよ! おま、おまえ え、え、えああ、殺すな、殺すなよおおおおおお!?」
途端、青年は勝手な悲鳴をあげた。
そしてその場にあった私物一切を放棄し、林なかへと駆け出してしまった。
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