第10話 しつ
怪獣ショウを仕掛けるショウの顔写真は公式、非公式の境なく、ネット上にアップされている。年齢は二十四歳で、きわめて秀でて耽美な顔立ちをしていた、どこから写真をうつされても死角がない、その顔立ちだけで或る程度のことは可能に思えた。ネットの上がっているのは冷静そうな顔ばかりだった。しかし、稀に違う写真もある。笑うと、まるで少年みたいだとよく述べられていた。
ショウは二十二歳のとき、都内の芸術大学を卒業した。その在学中に怪獣ショウの準備に入ったという。ショウが学生時代に描いた絵はいま、あらゆるメディアで紹介されている。専門家の間では、彼の絵については取り立てて優れているという評価は与えられていない、平凡であり、退屈であると言い切る者もいた。そして、発表されているいくつかの絵のなかには、数点ほどいまに、怪獣ショウのイメージに繋がるような、怪獣が町を破壊した後の絵もあった。だが、その絵も専門家からは、まったく高く評価されていない。技術的にじつに未熟であり、モチーフに対して、鑑賞する者に、世界の深みを感じさせるような描き方もされていない、破壊を扱っているのに、邪気すらも感じさせない。味がない、清潔でさえる、という言い方だった。
彼は大学を卒業後すぐに、みえない怪獣により、廃墟の爆発を開始する。みえない怪獣の出現を再現する映像を発表していった。ショウを好意的に取り上げるメディアはなかった。とあるテレビのコメンテーターは、これはテロリズムに類する精神の、ともいった。社会批判ゴッコに過ぎない、それに、金を出せばなんでもやっていいと思っている世代だ、と、そういった攻撃的な言葉をぶつけた。遠慮はなかった。怪獣ショウには、いかなる企業のスポンサーもついていない、敵意は自由に向けられた。そのうえ、話題としては、目立つ。
怪獣ショウの開催場所、日時は公式サイトで発表されていたため、現場には必ず各メディアの取材班がいた。ショウはいつもその場にいた。取材で現場の様子を見た解体作業の専門家は、爆薬を扱うための法的な条件はすべてクリアしていると述べた、おそるべきことに、ともつけくわえた。
スタッフの数は常に十名前後で女性が七割だった。若い人間が多い。
現場にいるショウに対し、プロ、素人がこぞってインタビューを試みた。だが、現場にはショウ側が用意したスタッフがいて、たやすくは近づけない。声が届かない距離から、彼の顔姿を撮影することはできた。
インタビューに答えず、無感情が保たれていた。各メディアは人としての温かみのないショウの様子をこぞって流した。しかし、素人の撮影では、微笑むショウの顔が、ネット上にアップされている。
一方でショウ側は、礼儀を知らずで、ほとんど襲撃に近い取材者たちの姿を、自分たちのカメラで撮影し、ネット上に放っていた。そして、ショウ側の映像の方が、如何なるメディアが流す映像よりも、圧倒的に品質が上だった。まず、面白い。ひとつの作品として観ていられるように仕上げてある。
取材側の作製した映像に対し、上質の映像作品として対抗し、圧倒的に勝利してゆく。これにより、下手にショウを取材すれば、その様子を逆に作品化され、消費者に比較されると、メディアは知った。
無論、取材側が、たかが奇妙な作家気取りの若者を取材するために、高額な取材費を投じて特別に有能なスタッフなど用意する気もなかったことにも要因にあった。そもそもこのニュースを取り上げることへの費用対効果からも、そこまで予算を投じメディアはいない。そのため、取材側が用意するスタッフの力は脆弱な場合が多い。
写真や文面で対抗する者も現れたが、それも怪獣ショウにほとんどダメージを与えない。怪獣ショウの作品の名義を持つ、ショウについても、生い立ちから、同級生への取材まで、ひと通り書かれていったが、初期の段階で仕掛けられた怪獣ショウ側の取材映像への反撃映像の印象が強く、どうしても、ショウを貶めようとする側が、必死になってショウという若者を、質の悪い攻撃をしているようにみえてしまう。
この状況を、怪獣ショウ側がどこまで作為的につくりあげた結果なのか不明だった。茶番なのは誰もがわかる。しかし、それでも提供さる茶番の質は良く、なにしろ、面白い。それに無料だった。みえない怪獣が、廃墟を破壊する映像にいたっては、言葉もいらない、ゆえに、全世界に通じる。
そのうえ、ショウは顔立ちが優れている。外貌は性別を越えて他者の眸をとらえた、無数に人々が、彼の顔立ちに、人生の数秒は確実にもってゆかれる。
けっきょくは顔か、という声も強かった。ショウの作品を知らなくとも、ショウの優れた顔立ちは目に入る。そう、つまりけっきょく、顔だけに過ぎないのだろう。その結論ですべて着地するも可能である。そして、それが問題を加熱させる議論を抑制させない効果があると思われた。
ショウという人間は顔がいいから、好き勝手にやっているだけ。
だから、友人が、恋人が、我が子が、あんなものに魅入られている。
ゆえに、よく知らないまま、身近な者たちが、外貌だけでファンになってしまっているただ、それだけだ、と片付けることもできる。
個人的な結論を出すのに、楽な存在感だった。
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