第14話 秀才ポンコツお姉さん、一糸纏わぬ姿となる。 「優斗くんも濡れてるんでしょ? お風呂入りなよ。あ、一緒に入る?」

「なあ、優斗。今、どこに住んでるんだよ?」

 

 帰りの電車の中。


 悠介が俺に聞いてくる。


「あー友達のとこ」

「友達って、誰だよ?」

「……MMOのギルメンだよ。チャットしてたらすげえ仲良くなって、泊めてもらえることになった」


 じーっと、悠介は俺を見て、


「それ、嘘だろ。俺には本当のこと教えてくれよ。心配してるんだからさ……」


 悠介には話しても大丈夫かな。


 いい奴だし、口も堅い。


 何より、俺なんかのことを心配してくれてるしな。


「実は……」


 俺は愛理さん——クイックアリスのことを話した。


「ま、マジかよ……っ! 人気配信者のお姉さんと同棲?! エロゲかよ!」


 チラチラチラチラ「…………」


 電車にいる人たちが、俺たちを見ている。


「声が大きいぞ……」

「すまん。あまりにもビックリすぎて」

「まあその気持ちはわかるがな」

「おいおい。優斗、お前のことだろ……」


 俺自身、未だ信じられない。


 なんだか自分のことじゃないみたいだ。


「で、その、どこまで行ったんだ? 愛理さんと」

「どこまでも何も……愛理さんとは恋人じゃないし」

「いやいや、健全な若い男女が、一つ屋根の下で暮らしているんだぞ? 何もないことないだろ?」


 ニヤニヤしやがら聞いてくる悠介。


 はあ……やっぱり突っ込まれると思った。


 俺はため息をつく。


「マジで何もないって……」

「いいだろ? 俺だけに教えてくれよー」

「何もないから」


 最寄り駅に着くまで、俺は悠介に質問攻めにされるのだった——


 ★


「ヤバえ……すげえ慣れちゃった」


 駅を降りた途端、激しい夕立が来て——


 傘を持ってなかった俺は、雨に打たれながら家へ帰ってくる。 


「タオルで拭かないと」


 俺が洗面所に入ると、


 一瞬、時が止まったようだった。


 一糸纏わぬ姿の、愛理さんがいて——


 しっとり濡れた髪に、柔らかそうな白い肌。


 たわわな胸に目が引き寄せられて……


「———わあっ! すみませんっ!」


 我に帰った俺は、急いで洗面所を出る。


「あわわっ! 優斗くん、ごめんね……っ!」


 ドア越しに、愛理さんの声がする。


「ほ、本当にすみませんっ! 帰ってきたの、気づかなくて!」

「いいよ。こっちこそごめんね。今日は大学が早く終わったから……」


 マジで心臓がバクバクする。


 呼吸が荒くなって、一向におさまらない……!


 いつかこういうことがあるんじゃないかと、思っていたが、


 いざ起こると、刺激が強すぎて大変だ。


「優斗くん……気にしなくていいよ? 一緒に住んでるだからこういうこともあるよ。あたしなんかの裸を見せちゃって、ビックリしたよね」

「いえ、こちらこそすみません……。もっと注意するべきでした」

「相変わらず堅苦しなあ。優斗くんは弟みたいだから、あたしは全然気にしてないよー!」


 まったく気にされないのも、それはそれで、ちょっと悔しいが……


「ふふ。紳士なところは立派でよろしいっ!」

「そりゃどうも……」

「優斗くんも濡れてるんでしょ? お風呂入りなよ。あ、一緒に入る?」

「やめときます」

「ぶーっ! 傷つくなー!」


 ドアの向こうから、愛理さんの不満げな声が。


 この生活は、心臓に悪いな……



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