本当は、だいじょばない【ピュアBLショート】

立坂 雪花

☆。.:*・゜

「大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

そう、明らかに大丈夫じゃなさそうな時も、はにかんだ笑顔で君はそう言うんだ。






*回想


 君と出会ったのは去年、高校一年生の春。今過ごしているこの部屋で、君と同じ部屋になった。


 男子校の寮生活。どんなやつと同じ部屋になるんだろう。部屋の床に座りながら考えていた。


 君が、のそのそと部屋に入ってきた。ふわふわした小動物みたいで可愛いな。それが君の第一印象だった。デカくて不良なタイプな自分とは正反対。


「よろしくね!」と、君ははにかんだ笑顔で言った。

「うん、よろしく」

俺は多分、この時、かなり無愛想だったと思う。


 




 君は優しかった。夜中に小腹が空いたからって君がよく食べていたカップラーメン。

「夜食のラーメン、いいな……」ってそれを食べている君の姿を眺めながら呟いた次の日から、部屋の小さなテーブルの上にふたつのカップラーメンを並べてくれた。


 君は危なっかしかった。よく転ぶらしく、膝によく傷を作ったりしていた。





『好き』になるのには時間がかからなかった。そのさりげない優しさも、ちょっと危なっかしいところも……あれもこれも全て守りたくなるほどに。君の全てが欲しくなる程に。


 たまぁに俺のこと好きかも?って勘違いさせてくる。例えば顔をぐっと近くに寄せると君は顔を赤らめるところとか。






 高校二年生の冬。


 実際どう思っているんだろうと思い、ふと、試したくなった。


「俺、彼女出来るかも」


もちろん嘘だ。


「えっ?」


 小説を読んでいた君はぱっと顔をあげ、こっちをみた。気のせいか、表情が悲しそうにも見える。でもそれはただ自分が都合よく解釈しているだけかもしれない。


「よかったね!ってかカッコイイもんね、彼女ぐらいすぐに出来るよね」


 欲しかった嫉妬の言葉はない……。

 

 君は読んでいる途中の小説を閉じた。いつもは栞を挟んで閉じるのにその栞はテーブルの端に置いたまま。


「あっ、ラーメン切らしてるんだった。コンビニ限定のやつ食べたいな。買ってくる」


 外は雪で気温も低いのに、コートを着ないで出ていった。


「寒いだろ……」


 しかもコンビニまでの距離は5分以上ある。

 コートを急いで着て、君のコートを持つと走って追いかけた。





 寮から出てすぐの場所で君はうずくまっていた。コートを着せると一緒にしゃがんだ。


 そっと頭を撫でる。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

そう、明らかに大丈夫じゃなさそうな時も、はにかんだ笑顔で君はそう言うんだ。


 見た目が可愛いから、クラスの不良のヤツらに絡まれたりもして。その時は俺が助けたけど。「大丈夫?」って聞いたら震えながら「大丈夫だよ」って答えてたんだ。


「大丈夫?」

「うん、本当に大丈夫だよ」


「本当のこと教えてほしい」

 顔を俺に見せないようにしてうつむく君。 

無理やり顔を覗き込んだら君の瞳が潤ってきた。


「大丈夫?」

「……本当は、だいじょばない。嫉妬で狂いそう」


 初めて見せてくれた君の本音。


「俺も、逆の立場だったらもう狂いすぎると思う」


「えっ?」

君は顔をあげた。

「ごめん、嘘ついたんだ。彼女なんて出来る気配もないし、いらない」

「……」

「俺がほしいのは、お前だけ。ってかめちゃくちゃ震えてるじゃん」


 思い切り抱きしめたくなってキツく抱きしめた。それから耳元で呟いた。


「付き合ってくれる?」


 君はこくんと頷いた。


「これからはだいじょばないことは何でも言って?」


 君はもう一度、頷いた。そして君は耳元で「ふふっ。もう大丈夫だよ」と呟く。明るい声で。抱きしめながら君の幸せそうな笑顔を想像した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本当は、だいじょばない【ピュアBLショート】 立坂 雪花 @tachisakayukika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ