第7話

 はたして上手くいくのか、話を聞いてもらえるのか。

 これで良いのか、その後はどうなるのか。

 色んな不安が頭をよぎっていった。

 それでも、間違いは間違いだと思った。

 自分の幸せの為に誰かが傷つくのは間違いだと思ったんだ。


 店舗に顔を出した親父の知り合いの社長に新庄さんから申告な話があるコトを告げる。

 社長とは職場ではプライベートの顔とは違う仕事モードの関係でいる。

 それは自分がそうするコトを願ったからであり、自分から線引きをしたからだ。

 社長は最初話を聞こうとはしなかった。やはり、店長への仕事の信頼は厚い。

 それでも、僕は下手をすると警察沙汰になるかもしれない事を告げた。

 社長は警察という言葉で初めて聞く耳をもってくれた。

 新庄さんの元へ行き、社長が話を聞いてくれるコトを告げ事務所で1;1の話し合いをすることになった。

 僕は当事者ではない、ついて行ってあげたいけど聞かれたくないプライベートな話があるかもしれない。そう思って売り場で仕事を続けた。

 15分位話していただろうか、社長が事務所から出てきて俺に顔を合わせ、そのまま店舗から出て行った。

 その後から新庄さんが顔を出す。

「どうだった?」

「店長に話聞くって」

 僕はホット一安心した、のも束の間だった。

「でも、私やめてくださいって言った」

 何でだ。これで収まるかもしれないのにどうして?僕の頭の中は???だらけだった。

「ストーカーってさ、追いつめられると何するか判らないんだよ。」

「社長って男だから、その怖さ判らないよ。」

「あぁ…、そういうコトもあるのか…」

 これは女性目線じゃないと判らないのだろう。

 下手に追いつめるよりも敢えて近くにいるコトで身を守る。そういったやり方で彼女は生き抜いてきたのだそうだ。

 理屈は解る。でもそれは一生彼らと接していかなければならないコトにもなる。

 時間が記憶を奪い、時間が解決するのを待つのは現実的じゃない。

 それは現実から目を背けているだけじゃないのか?この時僕はそう思った。

「そして社長との話はどう終わったの?」

「とりあえず、納得はしてなかったけど…その事も伝えて話は終わった。」


 後は上手く社長が話を進めるだけだ、少なからずともこちら側が被害者なのだから…。彼女にもその事を告げ、少し心の支えがとれた様な顔をしていた。


 次の日。各店は店長がストーカーだという噂で持ち切りになった。

 店長だけではなく、各店のアルバイト迄が噂をしていた。

 当然、他店に用事があって向かった店長の耳にも入り、社長からも直接言われる。

 その結果は1つだ。


 この頃からだろうか、いやもう少し前から予兆はあった。

 彼女の様子がおかしくなっていったのは…、よかれと思ってとった行動だった。

 でも、結果として悪手になってしまった。それも最悪の。

 職場環境も徐々に悪くなっていったが、その反面、良くなっていくものもあった。

 僕と新庄さんの距離だった。

 真剣に相談に乗っているうちに2人の距離感は縮まっていった。

 いつしか夜の公園で会って相談する機会も増え、普通の会話もする様になっていた。


 この日も夜の公園でこれからの事を話していた。

 公園といっても小規模な公園ではなく、大規模な公園だ。

 いつもの時間、いつもの流れ、そしていつもの帰り道。

 いつもと違ったことは、

「彼女の何でも1つお願い聞いてあげるよ」

 の言葉の後に普通の握り方だったけど、手を繋いで帰った事だった。

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