番外編
むかしむかしのこと、一人の青年がおりました。
その青年はとても心優しい青年でした。
しかし、青年の親はわが子に頭を悩ませておりました。
正規雇用だった大手の仕事場を辞めて実家に住み着く様になったのです。
それから青年には妻と子供ができました。
両親は孫の誕生に大変喜びましたが、わが子が定職につかずにいることに呆れ果ててしまいました。
しかし、しばらくすると非正規雇用ながらも定職を探してきたのです。
両親は正規雇用ではないことを残念に思いましたが、青年はこの先10年ちかく懸命に働きました。
両親は首を傾げ不思議そうにしていましたが、わが子に理由を聞いても青年は何も語ろうとはしませんでした。
ある日、一緒にいるわが子の嫁からひょんなことで全てを聞くことになりました。
その昔、青年が大手の仕事場で正規雇用をしていた際に母方の祖母が病気になったのです。その病気は血管に小さいこぶの様なものができるといったものでした。
そのこぶの様なものは年々数センチづつ大きくなっていきました。
お医者さんからはこのままいくと血管が破裂してしまう。と告げられたのです。
青年はその話を親からの連絡で知りました。
助かる方法はないのか?と聞いたそうですが、年齢が年齢であった為手術を耐えられるだけの体力がない。と言われたそうです。
それは、命のカウントダウンでした。
青年は頭が真っ白になり、しばらく悩みました。
しばらくした後、青年はある決意をしました。
それは、大好きだった祖母にひ孫の顔を見せてあげたいと思ったのです。
その為だけに青年は後先考えず仕事場を辞め祖母にすぐ会える様に地元に帰ったのです。
妻ができて妊娠が発覚した時も、大変喜んだそうです。
祖母にひ孫の顔を見せると祖母は凄く嬉しそうな顔をしました。
青年はその顔を見て凄く嬉しくなりました。
しかし、時期が迫るにつれて青年にはある考えがよぎりました。
非正規雇用でも良いから定職につかないと祖母が心残りでちゃんと天国にいけない。のではないかと思いました。
青年は一生懸命仕事を探しましたが、なかなか見つかりませんでした。
そこで青年は人の出入りが激しいところだと人手が足りていないだろう。と思い人手の出入りが激しいところに仕事をさせてもらえないか尋ねに行きました。
仕事場の人間は青年に次の日から来る様に言ってくれました。
青年はこれで祖母が心配せず天国に旅立てる。と思い、仕事場の人間に感謝しました。
祖母が旅立ったその後10数年その恩を忘れず、何があっても仕事場の人間への感謝を忘れなかったそうです。
両親はその話を聞き、少しだけほっこりしました。
「へぇー、その青年って相当なお人よしなんですね」
「そうだねぇ、自分の人生棒にふってまでって相当だね。」
(馬鹿でも良いのさ…、そういう不器用な生き方しか出来ない人間もいるんだよ…。)
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