ある存在の終わり
「あーあ、馬鹿なことしちゃったなあ」
さっきまであの子と並んで座っていた階段に、一人で腰掛ける。石でできているそれは、あの子が座っていた部分にだけまだ熱が残っていた。
「あんな素直な子、きっと今の世では生きづらいだろうに」
空を見上げても、花火が終わったそこにもう鮮やかな色はない。ただただ昔と変わらない星だけが輝いていた。
「それでも、戻るって言ったんだもんなあ」
やっぱり帰るよと、そういったときのあの子の顔を思い出す。緊張と、不安と、少しの恐怖。それでもなにより、決意に満ちていた。
「あんな顔されたんだもの。贄にしちゃうの、もったいなくなっちゃった」
ぐうと伸びをする。視界に入った自分の指先が透けていて、ああもうそんな力もないのかと小さく笑った。
「まあでも。最期にそれらしいことができて、良かった」
人に、そうであれ、と望まれて、生まれた自分。人に忘れられて、消えかけている自分。人間は自分たちのことを、とんでもない存在だと思いがちだけど、でも実際はこんなにも曖昧であやふやなものだ。
長く存在していたからか、消えることに恐怖はないけれど。
「あの子のこれからが見れないのは、少し残念だなあ」
言葉に反して、恐らく消えかけているであろう顔が作っていたのは、最後まで微笑みだった。
八月末、らしくもなく町がにぎわう日の出来事 琴事。 @kotokoto5102
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