第12話 後鬼

起きたら後鬼がいなかった…

なんて展開ではなくて、起きたら後鬼がちゃんといた


蠍「誰だお前は!!」


蟷螂「動くなっ!何処のものだ?名乗れ!」


「……」


「後鬼だよね?」


「是」


「後鬼が人間になった!凄い!人間になっても後鬼っぽいよ!」


「…是」


蠍「はぁ?意味が分かんねーよ、コラァ!

人の皮を被ったてことか?このバケモノ野郎!」


「やめろよチビっ子!!

みんな後鬼の世話になったんだよ?薬物中毒状態だったの!囲炉裏にアヘンが焚べられてたんだ…敵の仕業だろ?

俺は運良くと言うか悪くと言うか…山で迷子になってたから無事だったけど。

蟷螂さんはともかく2人はヤバい状態だったからな!囲炉裏の周りで倒れてたんだ。

後鬼が連れ出して介抱してくれたんだぞ!」


蟷螂「扉を開けて入った後から私も幻覚を見ていたのか…」


蠍「いつの間に?全然気づかなかったぞ!」


蜜蜂「…それ僕です

薪が湿ってたからそのへんの紙を燃やしたんです

多分その中にアヘンがあったんでしょう。すみません」


「…だとすると、おそらく神主が病人にモルヒネ代わりに使ってたんだろうな。

神主自身もそれで幻覚見て祟りだ呪いだと日誌に書いてのか」


「是」


蠍「祟神の正体はアヘンだったのか」


「ほらな?呪いなんて蓋開ければこんなもんだ。まぁ薬物中毒による幻覚だと、ちょっと信じちゃうかもな…

どうせ精進料理ばっかり食ってたんだろ、肉食えばいいのに。

こんなとこ山奥で不便だし引っ越せばよかったのにな?」


蟷螂「いや、村があった当時はまだ肉食文化が無かったのだ。疫病ではなく飢饉のせいで餓死者がでたのだろう。

不便でも代々住んでると、人はそう簡単に移動は出来ないものだ」

(※この頃は脚気と壊血病はまだ解明されてない)


「ハチミツさんもそんな落ち込まないでくれよ?

俺だってそのへんの紙をよく見ないで燃やしちゃうって…俺が湿ってない薪を探せば良かったんだよな?ごめんなさい」


蜜蜂「蜜蜂ミツバチです。…僕が悪いんです皆さん、すみませんでした」


蠍「起きたら本殿で寝かされてたから、どこからどこまでが夢か解らなかったぞ!」


「蠍は背が低いからもろに吸ってそうだな…とは言わないでおいてやるよ」


蠍「おまっ!大体お前なんでまた迷子になってんだよ!井戸はすぐそばだろ!」


「井戸の水汲み大変だったの!バケツからこぼれるし!沢を探したほうが早いかなって…山ってみんな同じ風景だから、目印ないし」


蜜蜂「それで、この人は?本当にあの島の化物なんですか?この面の良いお兄さんが?」


蠍「どえらいの来たな!役者も顔負けのいぶし銀?バケモノのくせにタッパあって格好いいとか腹立つ!無理無理無理!」


「……」


人間に擬態した後鬼は袴姿の少し年上の男になっていた。

街でよく見かけた姿だった

この姿なら街を歩いても騒ぎにならずにすむな


そこから無口な後鬼がポツリポツリ話してくれたのを要約すると

紅水晶に盗聴器が仕込まれてて、遊郭に売られた時に盗まれた事で俺の無事が分からなくなり後鬼は島を出たと。

すぐに俺が自分で取り返したけど、せっかくだから追いかけて来たんだと。


俺は嬉しくて仕方なかったけど3人は顔が引きつっていた


そして目的地まで一緒に付いてきてくれるって。


「そなた等の言うゲンナイは…死んだ。

別のチームが捜索に来てダミーの死体を持ち帰っている」


蟷螂「どういう事だ?」


「そなた等の言うゲンナイはダミーだ」


蠍「はぁ?」


「そもそもは嵐が来なければそなた等はあの島に来なかった。

本来はそなた等がダミーの島のダミーの死体を持ち帰って終わるはずだったのだ」


蠍「ダミーって…ゲンナイの本名はダミーって名前か?」


蜜蜂「え?違うでしょ!

ダミーって身代わりって意味じゃないですか?

と言う事は?僕らは嵐で上陸する島を間違えてたってこと??」


「是」


蠍「なら本物はどこだ?」


「手紙の通り行方不明。

だが、そなたはいつか島を出ていかなければならぬ……だから見送った。

しかし、ダミーの死体が本土に届くと、そなたに人質としての価値が無くなる」


「後鬼…」

こんなに喋る後鬼は初めて見た。


蟷螂「本物が生きてると証明できるか?」


「否…そなた等の言うゲンナイはダミーの事だ。そしてダミーは死んだ」


蠍「ややこしくなってきた…つまりゲンナイのジジイは傀儡で黒幕がいたのか?そういう事なのか?」


「是」


蟷螂「なんてことだ…」


「…そなた等の欲しがっていたモノだ受け取れ。

成果が必要だろう?ダミーが先に死んで取りに来なかった」


蠍が厳重にケースに包まれた何かの小瓶を受け取りどうしたものかと蟷螂を見る

蟷螂は少し思案したあとで後鬼とコソッと話をしてる。聞こえてるけどな?

「それでも一度我らと来てもらう、上役達に報告もある」ヒソヒソ


「是…それの詳細・使用方法を交換条件に今後は我らと関わらぬように契約解除を申し出る」コソコソ




「後鬼と旅ができるの?ちょっと嬉しい」

ちょっとどころではなく、とても嬉しい。でも素直に本当のことがなんか言えなかった。


人間に擬態した後鬼は不思議と匂いまで人間っぽかった

蟷螂と話してる時は怖い顔で眉間にシワがよっていたけど、こちらを振り向いたときには柔らかいのにキリッとした顔になる。

胸の奥が暖かくなかった気がした


「件の依頼が済めば我らは佐世保に向う…そなた等は邪魔してくれるな」

後鬼が睨んで3人を牽制した


「なんで佐世保なの?佐世保ってどこ?」


「九州、国際交流地だから」


「九州?!遠っ!」


頭を撫でながら「勉強不足だ」と表ではそう言って、口を動かさずに器用に小さく呟いた

"迷子になったら神戸に向え口外するな"


聞かれたら不味い秘密の約束

後鬼の本当の目的地は神戸なんだ

(※明治の頃から神戸は外国人が多く西洋文化で賑わっていた)


複雑そうな表情の蟷螂と一瞬だけ視線が合った

フィッとそらされて、次に目が合ったときはもう瞳は揺らいでなかった

蟷螂の目は細くて見えにくいはずなのに瞳が揺らいでいたと何故か思ったんだ


この依頼が済めば蟷螂さんともお別れか

少しの間とは言え世話になったし、ほんの少し寂しいと思ったんだ…胸の片隅で何かが絡まってるような気がした



ムニュっとほっぺたを両手で挟まれて後鬼が顔を覗き込んでくる。

「むぅ、どったの?」喋りにくいんだけど?


「そなたは疲れてないか?さほど寝ておらぬだろ?」


「寝たよ元気だよ」

起きたら後鬼がいなくなってるんじゃないか心配でさほど寝てなかった。

顔を挟んでくる後鬼の手に自分の手を重ねて、ペチペチ軽く叩く

フッと笑った顔が後鬼なのに後鬼っぽくない、なんていうの新たな一面?

後鬼も人間だったらこんなふうに笑うんだなぁと感慨深くなった



蠍「化物が、いっちょ前に人間面してやがる!無理無理気持ち悪ぅ!」ボソッと


蜜蜂「一応助けてもらったんです…それに敵ではないですよ」コソッと


蟷螂「だが、味方でもない油断するな」堂々と




何処から出してきたのか人力車を用意していて後鬼が乗せてくれた。

「この方が早い」って休憩もそこそこに街道を歩き続けた。体力半端ないんだけど?


最初は、自分だけ楽できて優越感みたいな?人力車は街で見かけて乗ってみたかったから楽しかったけど、少し汗の滲む後鬼の横顔に申し訳なく思った


「疲れてるでしょ?今度は俺が後鬼を乗せてやるよ!」


蠍「引いてる奴は化物なんだから気にせず乗っとけ馬鹿娘!」


背もたれついてて毛布をかけられビスケットと瓶のジュースを渡され至れり尽くせりで、昨日あんま寝れなかったから「そなたは寝ろ」と頭を撫でられたらトロンと寝たよ


気がついたら空が暗くなってて、街にいた。

何処から持ってきたのかお金がたくさん出て来てちゃんとした宿屋に泊まった。


宿屋の一階は一般客もいる食事処で後鬼がみんなの分も注文していた

「そなたの好きな蕎麦だ」


蕎麦はじーさんが好きだから一緒に食べるうちに俺も好きになったんだよ。


風呂のある宿屋だったから、大浴場と言うわりに狭い風呂に入った。

しかも金を積んて時間帯貸し切り…お金が勿体ないよ?


寝巻き?の浴衣を店員が着せながら話しかけてきた

「ほんに別嬪さんやなぁ、肌がたまのよぅやて。わぁ異人さんの目は青くてええね」


「そうかな」


「日本語うまいねぇ」


「島生まれ島育ちだから」


「あらそうなん?外国の人や思うたわ堪忍な。日本で生まれたら日本人やんな」


「お姉さんはどこの人?」若そうに見えるけど20歳くらいだよな?


「昔は神戸に住んでてんよ」(※30過ぎてる)


「へぇー神戸ってどんなところ?港があるんでしょ?」


「随分前にこっち来たから、神戸もだいぶ変わってな。よう分からんねん、港で大きい船をよう見たわ」


「へぇー」


「それに私、神戸言うても田舎の山育ちやから」


お姉さんの話を聞きながら神戸に思いを馳せる

洋食店のトンカツの匂いを嗅ぎながら毎日お勤めに向かってたと懐かしそうに話してくれた。

店の名前は覚えてないけど、特徴を教えてくれて行くことがあれば店に寄って食べてみてと

お姉さん本人はその当時はお金がなくて店に入ることが出来なかったんだって。


お姉さんは髪を乾かす間、俺を金持ちのお嬢さんだと思って、この辺りのオススメの店を(聞いてもないのに)教えてくれた。

話が長かった…そしてようやく部屋に戻った。

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